慣れない目覚め


いつもよりも眠りが深かったのは、好きな香り
を腕の中に包んで、眠っていたからなのか。

普段は、アラームの音で無理やりに起こされる
はずなのだが、今日は自然とまぶたが開き、
腕が少し痺れてきたと感じるところで、自分
の胸元には、思いを寄せる幼なじみが眠って
いた。


「あー、そうでした。」


あの後、雨は強かったがしばらく雷は一旦は
引いたものの、また繰り返され、夜中もその
激しい雨音と混ざり、それに怯えて眠れずに
いた美月は、耐えきれずに黒尾の布団の中で
小さく丸まっていた。


彼が美月にちょっかいを出すのは、彼女が元気
な時のみで、震えている彼女を茶化すこと無く
彼は受け入れ、背中を大丈夫だと安心させなが
ら、優しく摩っていた。


そして、恐怖が少しだけ軽くなった彼女と一緒
にそのまま眠りに落ちて、彼が先に目を覚ます
と、美月が隣で眠っていた事を思い出したのか、
嬉しさと照れ臭さが混ざって、口をもごもごと
動かすのだった。


「無防備にも程があんだろ。」


眠っている彼女には、ついつい触れたくなり、
頬をそーっと指でなぞったら、美月も擽ったく
なったのか、ゴロンと横を向いて、黒尾の胸に
顔を埋める。


のそのそと自分の元に引っ付いてきて、彼女に
添えられた手の部分に熱を帯びた感じがして、
自分の体の異変に、彼はすぐに気がついた。


「おっと、やっべ。」


彼女を目の前にして、とある部分が反応しない
わけがなく、美月から下半身は少しだけ距離を
とって、じっと彼女の寝顔を眺めた。


触れた手は離したくなくて、恋人の様にぎゅっ
と指と指とを触れてみる。
そんな、今だけの至福の時間を味わっている
と、寝返りを打った勢いで動いた彼女の膝は、
不幸にも黒尾の腹部へ見事に入ってしまった。


「ぐふぅっっ!!!」


美月に蹴られた威力は意外と強く、少しだけ涙
を流し、しばらく動けずにいたが、「美月!」と
怒り混ざりで声を上げて彼女を見たら、呑気に
まだ眠る彼女のその姿に目が点になった。


「何で寄りによって、それなんだよ。」


美月が彼の部屋に置いていた服は、どうやら
ワンピースタイプのTシャツだったのだが、
丈は決して短く無いはずなのに、柔らかい素材
からなのか、蹴りあげた時にタオルケットも
蹴飛ばし、足の付け根の下着がギリギリ見える
か見えないかの位置まで、裾が捲りあがって
いた。

もちろん、この大事な時期に美月に風邪を引か
れては困るので、一瞬は躊躇うが、そのままに
して置くわけにもいかず、黒尾はスカートを下ろ
してあげようと、その手をそーっと伸ばす。


すると、慎重にし過ぎからか、かえって上手く
手を動かせず、彼女の裾に触れたら、ふと太腿
にも手の甲が当たってしまい、その刺激美月
が驚くようにパチッと瞼を開けてしまい、黒尾
もそれに驚いて、スカートを握ったまま、動き
がピタリと固まった。


『んんっ、何!?て…クロ?』


「ちょ…、えっと、これは…その。」


黒尾の傍で眠っていたのは確かに覚えがあった
が、こんなに距離は近かっただろうか。


待って、タンマ、ストップと制止を要求する
言葉を並べながら、目を泳がせてあたふたと
する彼を見て、先程受けた感触の部分へ視線を
静かに動かすと、美月はその手の位置をはっと
見て、ぷるぷると震えながら黒尾の目を見た。


『クロのえっち。』


彼女も返した返事は、恥ずかしさからその一言
が精一杯で、ぽつりと零して口を尖らせて怒る
美月には怖さは1つもなく、寧ろ恥じらう姿の
たまらない可愛さに、言葉を別意味失いかけて
いる黒尾は、母音しか発せないまま、体を動か
せずにいた。


『え、クロ…調子悪いの?』


普段だと意地悪な言葉を言い返して、更に自分
にちょっかいを出してくる黒尾が、珍しく言葉
を返すことなく、大人しい反応を見せることに
驚いた美月は、頬が段々と赤くなっていた彼の
額に触ろうとしたら、パッとその手は止められ
てしまった。


「ごめん…ちょ、今は触んないで?」


らしくない彼の態度に、美月は戸惑いながら、
分かったと頷いて、ゆっくりと起き上がった。
そして、彼を心配するように顔色を伺うと、
「しばらくそっとしてくれたら治るから」と彼に
顔を逸らされながら言われ、彼女は先に身支度
を始めるのに部屋から出ていくのだった。


「ちょい待って。コレ、どーすんの?」


彼女が部屋から出たら、むくりと体を起こし、
完全に元気になってしまった自分の一部分を
見つめて嘆きながら、美月に見つかる前にと
思っていたのに、再び忘れ物を取りに部屋に
戻ってきた彼女に見られてしまい、その部屋
には何とも気まずい空気が流れる。


黒尾は、申し訳なさそうに頭を下げる彼女に
どんな顔を見せていいかわからず、とりあえず
彼は頭を抱えるように手を当てた。


『今回ばっかりは、私も悪いよね。
無神経で、本当にごめんなさい。』


「えっと。うん、謝るのは止めようか。」


普段は別方向から来る彼らが、同じ方向から
一緒に現れると、部活に行く為に2人と待ち
合わせをしていた孤爪は、何処かよそよそしい
2人を目にすると、あからさまに嫌そうな顔を
見せ、すぐに美月を取り返す様に、彼女の手を
引いた。


「美月、大丈夫だった?」


『ええっ!?あ、うん。大丈夫大丈夫!』


美月に孤爪が声をかけると、彼女は孤爪に心配
をかけまいと手を大きく横に振り、無事だった
事を伝えようとする彼女の顔は、林檎の様に
真っ赤になっていたので、彼女のリアクション
が余計に気に入らなかったのか、ジロリと今度
は黒尾の方を見た。


「なっ、何だよ。」



「別に。雷と豪雨は本当に予想外だったし、
クロを責めるつもりは、全くないけど。」


孤爪のその目に耐え切れなくなったら黒尾が
ごくりと唾を飲み込んだので、孤爪は責めない
とは言いながらも、怒った素振りでずんずんと
彼女を連れて、歩くペースはいつもよりも速く
なっていた。


「研磨、そう怒んなって。
ちょっとしたハプニングがあっただけだよ。」


「全然、怒ってないし。」


「いや、怒ってんじゃん。」


「怒ってるし。」


「怒ってない。」


『研磨、今度は皆でお泊まり会しようね。』


仲間外れが理由で、不機嫌だと思われている事
に気がついた孤爪は、理由はそこじゃないと
言い返したいが、理由を聞かれると答えに困る
ので、彼は小さくため息を吐いた。


「うん、ずるいよね。2人とも。」


まだ今のこの関係を壊したくない彼は、彼女の
意見を肯定するように、拗ねた素振りを見せ
ながら、心の中では違う気持ちで臍を曲げる。


黒尾は、そんな彼の心情を多少はわかっている
のか、さすがに悪かったよ。と孤爪の頭をポン
と触って、孤爪には不機嫌そうに、その手を
払われるのだった。



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