サプライズの幸せ
「美月ちゃん!俺、今月誕生日!」
夜に何度か掛かってきた電話で、会話の何処か
でその日付の主張が混ざった会話をしてから、
その当日。
スポーツショップで買ってきたプレゼントと
とりあえず傷まないものをと思って、小さい
カップケーキも簡単に作って用意をしたのだ
が、彼女はそれを渡すタイミングに悩んで
しまった。
休日なら上手く時間を作って渡せるのだが、
残念ながら本日は平日であり、学校も練習も
ある。
何よりこの理由で抜け出してしまったら、
仲間からブーイングの嵐しか予想出来ない。
そう考えながら、難しかったら自分で食べて
しまおうと思って、紙袋に入れていたら、
スマホから着信があって、それは白福から
だった。
『ナイスタイミング!』
先週行われた練習試合で、どうやら自分の所の
備品が紛れていたらしく、彼女は学校終わりに
そちらに寄ることを告げて、せっかくなので、
木兎へのプレゼントは態と内緒にしておいて、
そのまま家から出た。
『ごめん、クロ。私のミスかもしれないから。』
「珍しいな。まぁこっちは大丈夫だろうし、
気にすんな。」
今日の練習は出れない事を謝ると、黒尾は嫌な
顔を見せずに、すんなりと受け入れたので、
美月はそれに少しだけ安心をしながら、午後
から彼らが困らないように、朝の内にやるべき
作業は手早く済ましておく。
「美月、何かあったのか?」
帰りのHRが終わったらすぐに、忘れないよう
に紙袋も持って、夜久に挨拶をしたら、教室を
足速く後にする。
慌ただしい様子を見せる美月を不思議に思った
彼女の隣にいた夜久が、まだ自分の席に座って
いた黒尾に確認を取るように近寄った。
「何か、向こうにウチのビブスが紛れたから
…って。」
今日の練習に参加出来ない理由を夜久に説明
しながら、黒尾はとある矛盾に気がついた。
彼女も慌てていたからなのだろうか、きっと
その事には気が付かずにいる。
朝、ちゃんとその数が揃っていたはずなのだ。
ゴンッと机に突然、頭を打付ける黒尾に驚いた
夜久が驚いた夜久がぎょっと体を跳ねさせて、
どうしたんだよと目を丸くさせる。
「…やられた。今日何の日か今思い出したわ。
やっくん、今日俺も練習休んでいい?」
「気持ちは分からんこともないが、そんな理由
で休んでみろ。海の説教待ちだぞ?」
「ですよねー。」
合宿中には、無駄にアピールをされてきたのに
つい今の今まで忘れていた彼は、唸っていた。
終わった事は仕方ねーだろと腕を組む夜久は
潔く、でも気に入らないのか、その後は無言で
眉間に皺を寄せていた。
「大〜成〜功〜。」
ニヤニヤとスマホ画面を見ながらご機嫌な様子
を見せる白福を見て、雀田は何をやってんの?
と首を傾げる。
「木兎の誕生日プレゼントということで、美月をサプライズで呼んじゃって、お返しを倍返し
して貰おうーって作戦。」
「うわぁー、アンタじゃないと浮かばない
発想だわ。」
備品が紛れていたというのは、真っ赤な嘘。
事情を聞いた雀田は、呆れた顔で顔を引き攣ら
せながら、苦笑いを浮かべる。
でも、誕生日なのに赤葦が冷たいと朝から早速
しょぼくれモードの面倒臭さから解放される
には丁度いいと、今はまだこの後のお楽しみを
知らない彼の方を見るのだった。
そして、自分はすっかりその事を忘れていた
ので、どうやって誤魔化そうかと頭を悩ませる。
「あ、そーじゃん!」
彼女は何かを閃くと、着いたら自分に連絡を
入れるように、美月にメッセージを送る。
白福に逆にどうしたの?と尋ねられ、彼女に
しか聞こえない声で耳打ちをする。
すると、ナイスアイデア!といい反応を白福は
見せたので、軽くタッチをしながら放課後の
彼女の到着まで待ち、自分が彼女を待つ間、
白福が代わりに作業をこなしていくのだった。
『ここで連絡してって言われたよなー。』
バスに乗ってここまでやってきた美月は、1人
で来るのが初めてだからなのか、少し不安そう
に学園付近までやってきた。
他校の制服は目立つ為、周りの視線も気になる
のか、顔を強ばらせていると、雀田の姿を見つ
けたら安心し、半泣き状態で彼女の元へ走って
寄ってきたので、雀田はそんな彼女が面白かっ
たのか、笑いながら彼女の頭を撫でた。
「いらっしゃい美月、良くぞここまで来た。」
『かおりちゃん、他校に1人は緊張するんだよ!』
「わかったわかった。」
美月の反応を楽しみながら、雀田は手を引いて
自分達の更衣室まで連れて行って、てっきり
備品のある倉庫へと連れて行かれるのだと
思い込んでいた美月は、頭にクエスチョン
マークを浮かべて、雀田を見た。
「ちょっとさー、サプライズに付き合って欲しい
んだよねー。」
しょぼくれモードをいつもよりも長い時間、
引き摺った木兎は、調子を取り戻せずにいた。
その様子に痺れを切らした白福が、まだかなと
時計を確認していれば、雀田が体育館から合図
を送ったので、彼女は予定通りに事が進み、
小さくガッツポーズをした。
ちなみに、他の仲間達にはクラッカーを鳴らす
事しか伝えていない。
この提案をすれば、確実に赤葦からは却下され
てしまう事が安易に想像ついたからだ。
監督達が職員会議で席を外している今を見計ら
って、白福の合図で、赤葦達が木兎を体育館の
入口に上手く乗せて誘導させ、仲間達は後に
回り込む。
「え、何だよお前ら!」
木兎は、ニヤつく周りがよからぬ事を考えて
いると疑って、キョロキョロと当たりを見回し
始めた所で、白福がこちらに注目〜と扉を指
差し、雀田がドアを開けるのと同時に後ろから
クラッカーが鳴らされた。
『は、ハッピーバースデー、木兎君。』
照れ臭そうに紙袋を差し出しながら、美月が
登場をして、梟谷の女子の制服を身に纏わされ た彼女が、もじもじとしながら、その着慣れ
ない格好に頬を赤め、それを見開いた目で見て
いるのは、木兎だけで無く、全く聞かされて
いなかった男連中も一緒で、驚きの声を上げて
いた。
「美月ちゃん、似合ってる!!!」
「「「はあああぁっ!!!?」」」
赤葦達のその形相に怯えてしまった美月を庇う
ように、木兎が彼女に背を向けて両手を広げる
と壁を作り、「今日だけは俺のだからな!」と
主張した。
「主将命令!今から、10分休憩!!!」
「うーわ、言うと思った。」
「誕生日だけに、9分20秒しか許しませんよ。」
「木兎ー、うちらへのお返し期待してるー。」
何となく、白福達のやり切った様子から状況を
察した赤葦が、軽くため息を吐いて忠告をした
が、既に喜びから耳に入っていない木兎が、
彼女をそのまま担いで、体育館裏の2人きりに
なれる、取っておきの場所へ向かっていった。
まあ、今日くらい許してやるかと皆がコートに
戻る中、赤葦だけは容赦無くカウントを始め
出し、さすがの先輩達も苦笑い。
体育館裏へと連れて行かれた美月は突然起きた
出来事に頭が整理がつかなかったのか、表情を
コロコロと変えるので、そのリアクションが
可笑しかった彼は、美月ちゃん落ち着いてね
と笑顔を向け、裏口の段差に彼女を座らせた。
そして、紙袋の中身をそこで確認をした彼は、
真顔で彼女の顔を見た。
「これってもしかして、美月ちゃんの手作り?」
木兎との質問に美月が頷けば、へなへなへなっ
と力尽きた様にその場へ木兎はしゃがみ混み、
彼の反応が気に入らないのかと心配をして、
彼女も恐る恐る、木兎君?と彼の名を呼んだ。
「やべぇ、どの差し入れよりも1番嬉しい。」
真っ赤な顔で手を当てて、初めて目にする照れ
ている木兎を見ると、こちらも恥ずかしくなっ
てしまったのか、『お口と好みに、合うか
わかんない…んですけど。』と彼女も釣られて
噛みながら、口元に手を当てる。
しばらく沈黙が続いていると、先に口を開いた
のは木兎の方で、ちらっと彼女を見たら、また
嬉しそうにいつもの笑顔を見せるので、彼女も
安心をして笑顔を返す。
「俺さ、どーも最近美月ちゃんと離れてる気が
して、寂しかったんだよな。
だから、てっきり流されるだろうなーって
思ってて、まさかプレゼントの準備してくれて
るのは、意外だった…つーか。」
『そうなの?私にとっては木兎君も大切な友達
だから、絶対に忘れたりしないよ。…だから、
こ、光太郎君、誕生日おめでとう。』
自分の不安を真面目に吐けば、彼女も真面目に
言葉を返して、改めてお祝いの言葉を緊張しな
がら、彼に伝える。
「もう、それ最高。」
幸せを噛み締めていると、9分20秒はすぐに
過ぎてしまって、赤葦が時間ですと邪魔をする
様に現れた。
そして彼女を木兎が送ろうとすれば、今度は
さりげなく黒尾が現れて、コンビニで適当に
買ってきたであろう、サラミを木兎に俺から
のプレゼントと言いながら、語尾にハート
マークを付けて渡して来た。
「そーだよな!お前らのせーだよ。」
「何だよ突然、嫌なら返せよそれ。」
楽しそうにクスクスと笑っている美月を見たら、
黒尾に向けて、負けねーからなと彼に向けて
鋭い目をして啖呵を切る。
黒尾はそんな木兎の様子に少し驚きを見せなが
らも、ニヤリと笑いながら、奪えるもんなら
奪ってみろ。と小さく言い返した。
「そもそも美月さんは、2人のものでも無いですよね。」
「「赤葦は、水を差さないでください!」」