会えなくても
まだ、出会って間もないはずの彼女の連絡を
何故か期待するように待ってしまい、必死な
自分が滑稽に見えた月島は、ダサいと自分を
鼻で笑った。
「へいツッキー、連絡先教えてよ!」
合同合宿中に何度も他校の先輩に強請られて、
しぶしぶスマホを差し出せば、たまたまそこを
通りがかった美月が、私も混ぜてくださいと
楽しそうにポケットに入っていたスマホを自分
に向けた時に、彼はそれが嫌じゃない気がした。
『月島君、前に9月が誕生日って教えてくれた
よね?これで合宿が無くても、ちゃんとお祝い
してあげられるね。』
7月の合宿中にそんな会話をしたのを覚えて、
8月には下の名前に呼び名が変わって、距離が
少しずつ近くなった気がして、月島は浮かれた
気持ちで、今日という日を期待しそうになって
いた。
朝起きて、通知画面には何も無い事を確認すると、いつも一緒にいる友達から「ツッキー、
おめでとう!」と祝う声をいつも通りあしらい、そのまま朝練、授業、部活といつもと変わら
ない生活を過ごしていれば、気がつけばあんな
に長く感じていた暑さは無くなり、ひんやりと
した夜風と共に空も暗くなっていた。
「美月さんだって、忙しいに決まってる。」
淡い期待はこのまま諦めて、寒くなってきた
部屋の窓を閉めようとしていると、突然机に
置いていたスマホは、期待していた名前を表示
していたのだが、それはまさかのテレビ電話の
着信画面を表示していて、その通知に驚いたのか、一旦、彼の動きは止まった。
あれ程期待していたものを無視なんて出来る
はずが無く、緩む口元を堪えながら通話ボタン
を押してみると、テレビ電話に出てくれた事に
安心した表情を見せた美月が、微笑んで手を
振っていた。
『良かった、蛍君と繋がった!』
「どうしたんですか、美月さん。」
本当は分かっているくせに、白々しく美月に
聞いてしまうのは、月島の性格上、仕方が無い。
『あれっ!?確か、誕生日だったよね?』
しかし、そんな彼に嫌な顔一つ見せることなく、
慌ててスケジュール帳を取り出して日付を確認
すると、やっぱりあってるじゃん!と優しい
笑顔を向けてくれるので、彼は本当にそれが
嬉しかった。
『せっかくだから、蛍君の顔を見て言いたく
なっちゃった。』
忙しい時間だったらごめんね!と謝る彼女に、
月島は大丈夫ですと微笑んで返して、電話だと
きっと言葉を詰まらせてしまいそうだった
彼は、彼女がテレビ電話を掛けてくれた事に
感謝した。
「美月さんも今日は、練習あったんですよね?」
『うん、もちろんあったよ!蛍君は?』
「俺もありました。」
『じゃあ、お互いお疲れ様だね。』
「そうですね。」
今日もよく頑張りましたと、合宿の自主練の時
みたいな褒め言葉を貰ってしまったら、また
背伸びをして頭を撫でて来る彼女に会いたく
なってしまい、照れ臭さを誤魔化して、月島は
くいっと眼鏡を上げた。
あなたに会いたくなりましたと、素直な気持ち
は、自分の口からはどうしても言い出せない。
そして何よりと考える彼は、「ところで…」と
話を切り出して、画面に見えている美月と目を
合わせ、思わず呆れて彼の口からは溜め息が
出てきた。
「そこ、誰か居ますよね?影が見えて、気に
なるんで出てきて貰ってもいいですか?」
上手く隠れていたはずだと思い込んでいたその
影は、月島に指摘を食らうと、ぎくっと焦って
ゆらりと動いた。
「えー、やっだー。バレちゃった?」
「黒尾さんだけじゃないですよね?
どうせ、木兎さんと赤葦さんもいたりして。」
「すげーな、ツッキーはエスパーかよ?」
「ごめん、月島。木兎さん達の悪ノリを
止めようとしたんだけど…。」
『クラッカー買いに行ったら、まさかの遭遇
しちゃって。』
テレビ電話から月島へクラッカーを鳴らそうと
思いついた美月が学校帰りの100円ショップへ
立ち寄ってみると、珍しくそれは置いておらず、
隣町まで足を運ぼうとしたら、黒尾が何かしら
の気配を感じとって彼女について行き、そう
していると、木兎達と遭遇してしまった。
そのまま3人が付いてきて、彼女の部屋へと
集まり、サプライズでお祝いしようと企んで
いるところで、結局、月島に3人は見つかって
しまう。
困った顔をして笑う美月は、月島に経緯を説明
し、その説明を聞いた彼は、呑気にやっほー!
と笑顔を見せる1人、期待させてごめんねーと
ニヒルに笑う1人、そして真顔のまま謝るのは、
果たして本心なのかを疑ってしまう1人に、
どうもわざわざすみませんと、心の籠もって
いないお礼を彼らにぶつけた。
「いやこちらこそ、ごーほー的に美月ちゃんの
部屋来れたからサンキュー、ツッキー!
なんかいい匂いするし。」
「これでいつでも来れますもんね。
場所はしっかりと特定出来ましたし…。」
「お前らは、俺がいない時にゃ来させねーよ。」
「うわぁ。僕は、全然嬉しく無いんですけど。」
『わー、蛍君!なんか、騒がしくなっちゃって
ゴメンね!!』
画面の真正面にいたはずの美月は気がつけば、
ぎゅうぎゅうと彼らに押し込まれて、端へと
移動して、お祝いの言葉を言えずに落ち込む
彼女を見ると、さすがに不憫に思った赤葦が、
俺が持ちますからと彼女のスマホを持ち、美月
だけを撮した。
『あ、そうだ。スマホスタンドそこにある!』
すると、この人数がバレてから、1人だけ映って
クラッカーを鳴らすのは、彼女もやはり恥ずか
しくなったのか、せっかくならみんなが見える
方がいいだろうと考え、スマホスタンドを机の
引き出しから取り出す。
そして、皆が見えるように机の上に立てて置く
と、せーの!と 彼女が合図を送って、皆で一斉にクラッカーを鳴らした。
「「「『ハッピーバースデー、ツッキー!』」」」
楽しそうに4人で祝ってくれた美月達を見て、
そこは、ツッキーなんだ。と彼女が皆と合わせ
たお祝いの言葉には少し気になりながらも、
やはり他校といえど、先輩達にはありがたい
気持ちが沸いて、むずむずと心の中が温まって
いる気がした。
でもやっぱり素直になれない彼は、表情が
変わることはなく、無表情のまま「どうも。」と
一言だけお礼を言って、そのままテレビ電話の
通話をプチッとオフにする。
「あ、切れた!ツッキー怒った?」
『さすがに大人数は、嫌だったのかなぁ。』
「いや、多分大丈夫だと思います。」
「ツッキーも可愛いトコあんじゃん。」
満足そうに無邪気な笑顔を見せた美月の表情は
鮮明に覚えておくこととして、嬉しかったです。
と一言だけ、彼らにメッセージを送ると、この
日の為に戻った兄の呼ぶ声が聞こえてきたので、
彼は仕方なく部屋から出ることにした。
そして、美月にだけ、会いたくなりました。と
勇気を出してメッセージを送れば、彼女からは
愛くるしいスタンプが届き、その表情を見た
彼の兄は目を丸くした。
「え、蛍。今笑ってなかった!?」
「は、気の所為でしょ。」