流れ弾からの災難
「美月、お疲れ様ー。この前はありがとう。」
『あ、2人ともお疲れ様ー。
こちらこそ、呼んでくれてありがとね。』
授業が終わって直ぐに、合宿の為に森然高校へ
と向かっていた美月達は、最寄り駅で梟谷の
メンバーと出会い、白福と雀田と仲良く会話を
しながら、階段を昇っていく。
「美月ちゃ…、ぐおっ!」
「ぼっくん、ひっさしぶりー。元気にしてた?」
「お前、首が締まるだろうが!!!」
会って早々、美月に声を掛けようとした木兎は、
黒尾に先手を打たれて首根っこを捕まれ、女子
同士で盛り上がるその空間には入れずに、彼女
と会話をするチャンスは逃してしまって、今回
は黒尾の勝利。
階段を登り終えれば、そこからはマネージャー
は忙しい時間が待っているので、後輩が持って
くれていた荷物をお礼を言いながら預かって、
すぐに練習準備に取り掛かる。
「美月、木兎達知らない?生川もまもなく到着
って連絡が入ったんだけど…。」
『あれ、まだここに来ていないってことは、
第3体育館で準備中なのかな?呼んでくるね!』
集合場所としていた第1体育館には森然高校の
選手達だけがいて、梟谷や自分の仲間達の姿は
無く、なんとなく彼らの居場所の想像が付いて
いた美月が、集合を掛けに足を運べば、丁度
小鹿野と一緒になって、2人で彼らのいる場所
へと向かおうとした。
「おう、みんなここにいたのかー。いないから
探し……え?」
小鹿野が扉を開けば、第3体育館にいた梟谷と
音駒は何故かドッジボール中で、小鹿野が彼ら
に呼び掛けたのと同時に、頭上を掠めたボール
が、真後ろにいた美月の頭上も通り過ぎて、外
に向かって飛び出して行く。
『わっ、何なに!!?小鹿野君大丈夫!!?』
「美月ちゃんごめんね、大丈夫!!?」
『私は当たってないけど…木兎君こそ、
鼻血は大丈夫?』
「俺は全然平気、唾付けときゃ治る!」
「木兎、てめぇ危ねーだろ!」
木兎が謝りながら接触の確認をすると、運が
いい事に掠ってもいない事で、彼女が小柄で
良かったと、彼も胸を撫で下ろした。
赤葦も彼女が無事だった事に安心をしたのか、
額に手を当て、黒尾の怒声は体育館に響く。
「美月さんが怪我が無いので何よりですが、
さすがに自分の心配をして下さい。」
『私は全然大丈夫なんだけど…あれっ。』
美月は自分よりも小鹿野や木兎を心配をして
いたが、目の前で木兎のスパイクを受け止め
ようとしたのに近い状態なので、突然の迫力に
腰を抜かし、すぐに黒尾と夜久が彼女を心配
して、慌てて彼女の元へと駆け寄った。
『びっ…くり、したからかな。』
「全然、大丈夫じゃねーだろ!
美月に当たってなくて良かったわ。」
「美月、立てるか?」
足腰に力が入らず、ペタンとその場に座り込ん
でしまっていた美月に、2人が手を差し伸べた
が、彼女は、きょとんと目が点になったまま、
黒尾達を見て固まっている。
『木兎君の凄さを改めて思い知らされた感じ。』
「え、凄い?美月ちゃんに褒められると、
何だか照れるなー。」
「木兎さん、褒められたからって調子に乗らない
でください。」
「赤葦、その顔やべーって!」
その威力に恐怖よりも感動の方が勝ってしまっ
ていた彼女は、やっぱりかっこいいよねと褒め
始めたので、黒尾と夜久は顔を引き攣らせる。
彼女のその言葉に浮かれそうになった木兎は、
赤葦がすぐに釘を刺し、その表情から木兎も
青ざめた表情に変わっていった。
「よし、美月行くぞ。」
『ちょっと、クロ…!?自分でもう歩けそう
なのに。』
「バランス崩して捻挫したら、危ねーだろ。」
「美月諦めろ、今のコイツに何言っても無駄
だと思う。」
もちろん黒尾も彼女の反応が不服だったので、
腕を彼女の足に通して、それを拒む彼女の言葉
も完全に無視。
黒尾に姫抱きスタイルで担ぎ上げられると、
暴れたらかえって危ないので、下手に抵抗も
出来ず、観念した彼女は夜久に言われた通り、
黒尾にされるがまま集合場所まで運ばれて、
夜久が扉を開ければ、鬼の形相の監督達が
出迎えた。
それもそのはず、先程の飛んだ流れ弾は見事に
監督達に見つかっており、その使われたボール
を片手に持つ監督に、しっかりと絞られた彼ら
は、すぐに練習の準備に取り掛かるのだった。
「うちの木兎がごめんねー。怪我が無くって、
本当に良かった。」
『いやいや!ドッジボールしてたのは、ウチの
メンバーもだし、それは本当にお互い様。』
「黒尾君が美月を抱えてるから、大怪我でも
したのかと思った。」
「マジでビビったわー。」
『ごめんね、うちの主将は心配性なもので…。
もう大丈夫なんだけど。』
「美月、もう少し座っとけよー。」
赤葦から事情を聞いた白福や雀田も、椅子に
座って暫く休憩をする美月の心配をして、様子
を伺っていたので、美月は自分が既に万全で
あるアピールをしながら、ブンブンと手を振り
回す。
すると、目を光らせて見ていた黒尾の野次が
聞こえて来るので、彼女は顔を顰め、白福と
雀田は彼女を面白がって、笑いを堪えた。
「美月ったら、本当に大切にされちゃって。」
『大袈裟過ぎて、恥ずかしくなってきた…。』
「厚意はきちんと受け取らなきゃ。」
「そうそう、相変わらず愛されちゃって。」
『もー、そんなんじゃないってば。
ウチの主将は、後輩にもこんな感じだし。』
「はいはい、怒らないのー。」
揶揄って来る白福達に美月は拗ねた顔を見せて
頬を膨らませば、彼女達はさらに面白がって、
つんつんと宥めながら彼女頬をつつく。
彼女が本格的に動き出せたのは、ハプニング
からおよそ1時間経ったくらいで、その頃には
生川のマネージャー達も準備を済ませており、
烏野が到着しても、本日はそれをネタにされる
日となってしまった。
『リエーフ、もう大丈夫だからね。』
「これくらい、俺だってしますよ!
黒尾さんも心配してましたし。」
烏野が合流をして、通常練習自主練の時間に
なると、馴染みのメンバー分のドリンクを準備
して運ぼうとしたら、灰羽も彼女を心配して
いたのか、珍しく彼女を待ち、代わりに運ぼう
とドリンクのカゴを持ち上げる。
『リエーフも優しいね、ありがとう。』
本日は休憩の方が多く、後輩に全て持たせる
ことに罪悪感がある美月は、一緒に彼の持つ
カゴの取っ手を握って、灰羽に微笑んだ。
「あーあ。せっかく美月さんにカッコイイとこ
を見せようと思ってたのに!」
微笑ましく、2人がドリンクを体育館へ運ぶ
最中に、灰羽は不満があるのか、そう言って
悔しがるので、美月はそう言って励ますが、
彼は気に入らないと言った顔を見せた。
『ふふっ、ここにわざわざ来てくれただけでも
十分カッコよかったけどなー。』
「だとしたら、美月さん運んだ時の黒尾さん
なんか、カッコよすぎじゃないですか!」
『うーん、そう…なっちゃうかー。
…確かに、ちょっと格好良かったかも。』
灰羽に向けた返事に困ったのか、悩みながら
そう答えると、背後から誰かの気配を感じて、
美月はぴたりと立ち止まる。
何となく、彼女は嫌な予感がして振り返れば、
トイレでその場から離れていた黒尾に、2人の
会話は聞かれていた模様で、むせた咳をする
黒尾の顔は真っ赤になって、緩む口元を隠して
震えている。
試合中以外での慣れない発言に、彼女も意識
したのか、黒尾の反応を見て、今のはナシ!
と顔を紅潮させて叫び出すのだった。
「そうですよ、ナシにしましょう!
黒尾さんは、美月さんに触りたかったとか、
きっとヤラシイ気持ちしかないって!」
「リエーフてめぇ、後のレシーブ練覚えとけよ。」