それぞれの部屋では
「あ。その本、面白いよな!」
「スガ君も知ってるんだ…。」
菅原がそう声を掛けると、夜久の顔が少しだけ
引き攣り、事情を把握している黒尾だけは一人
面白がって、顔を伏せて笑いを堪え、木兎は
お前ホントやな奴だなと、黒尾に率直な感想を
吐いていた。
赤葦から美月に勧めていたという本は既に読み
終えて、次こそは自分と美月だけが知る本に
出会えたと思い込んでいたら、菅原も知る本
だった模様で、嬉しそうに彼に話しかける菅原
に複雑な気持ちで、笑顔を返す。
「美月のオススメ。」
「そう…なんだ。」
菅原はたまたまそれを読んでいたのか、夜久が
そう説明をすると、更に喜ぶ表情を見せたので、
自ら彼らの趣味の共通点を引き出してしまった
事に少しだけ後悔をしたが、やっぱり彼との
会話は楽しい。
「隣の席でさ、よくアイツ読書してるんだよ。
釣られて読み始めたら、ハマっちゃって。」
「そっか、クラス一緒だって言ってたもんな。
この人の別の作品も面白くってさ…!」
「へー、そうなんだ。」
菅原もまた、隣に美月がいる日々を羨んで、
夜久の言葉を聞いて少しだけ寂しそうな顔を
見せるが、笑顔に変えて他のタイトルを夜久に
教え、話はどんどんと広がっていった。
「爽やかだな。」
「爽やかだね。」
醜い争いに進展すること無く、頬杖付いてそれ
を残念そうに黒尾と木兎が見届けるので、赤葦
は「見習いましょうよ。」と呆れた顔で2人に声を
掛ける。
「美月ちゃん、読書が趣味なのかー。」
「ぼっくんには、無理難題な趣味ね。」
「そういうお前こそ、読まねーだろ!」
「人並みに。」
「それは、読まねー口だな。バレー馬鹿に
付き合う美月ちゃん、優しいよな。」
「お前にだけは言われたくねーよ!」
段々と言い争いになっていくその会話を赤葦は
途中で放ったのか、鞄から自分が持ってきて
いた小説を取り出して、席を木兎と黒尾から
離れると、パラパラと静かにページを捲る。
さりげなく、彼らを月島もまた観察していた
模様で、それぞれが持つ作品のタイトルを静か
に頭の中に入れておくのだった。
『っくしゅん、やだ…風邪?』
一方、その頃の美月は、ひと仕事終えてお風呂
も済ませ、仕事仲間の待つ部屋へと入って行け
ば、そこからは至福の時間。
風邪予防に持ってきていたブランケットを体に
巻くと、お気に入りのお菓子を袋から出して、
綺麗に並んである布団へゴロンと転がった。
「美月、ヘアオイル変えたの?」
『そうそう。前のが無くなったから、違う
ものに、冒険してみた。』
「美味しいー。」
『食べ物じゃないのに、感想が変だって。』
お疲れ様と互いに労いの言葉をかけたら、白福
は美月が使っていたヘアオイルの香りがお気に
召したのか、スンスンと鼻を鳴らしながら、
コロコロと転がって彼女に近寄るので、美月も
ぴとりと寄り添って、2人楽しく笑い合った。
その隣の布団では、清水がまだまだ覚えること
が沢山残っている谷地にアドバイスを送って
いて、それを耳にした2人は、清水に同意する
ようにコクコクと首を縦に頷く。
「学校の水道って、何でお湯が出ないんだろ。」
「噂では、私立の学校ではお湯が出るという…。」
「マジかー。」
『私立と練習試合で当たらないかな。
ちょっと体験してみたい…。』
普段は話さない仕事の愚痴を話したり、他校の
設備を羨む声に納得したり、わかる!と今日
ほど沢山使った日は、無いのでは?とそれも
可笑しくなって、美月はくすくすと笑い始めた。
「体育館にエアコンもあるとか。」
「そんな夢みたいな学校が…。あー、もう
ポテチも食べよ。」
『雪絵ちゃん、チョコあげるから私にも
くださいな。』
「もちろん、はいあーん。」
「あんたら本当に食べるね…」
『エネルギー使っちゃってさ。』
隣で白福が開ける袋が美味しそうに見えたの
か、お互い交換しあって美味しく頂くと、雀田
が呆れた顔で2人を眺め、清水も彼女達のやり
取りに笑い、谷地へのアドバイスを続けた。
美月も反対に、谷地を励ます清水と謙遜をする
谷地を微笑ましく見守りながら、清水と同様に
彼女を褒める。
『頼もしい後輩がいる潔子ちゃんが羨ましいな。
私なんか、卒業したら大丈夫かなって心配。』
「ウチは主将が末っ子だしなー。」
『そっちは赤葦君がしっかりしてるもんね。』
「美月、赤葦どう?」
『どうって、頼もしい子だなって思うよ?
いつでも、冷静で上手く纏めてるなーって。』
「バレーで真面目に答えるか。」
「赤葦もなかなか、報われないねー。」
『え、ちゃんと褒めてるのに!』
はいはいと白福と雀田に話を流されて、ポテチ
の袋が空になった所で、次は何を食べるかと
いう話になり、カロリーが気になる年頃の女子
達は、そこで小さな会議となる。
「アンタら、まだ食べる気?」
『茎わかめなら、カロリーオフじゃない?
今日最後だもん、パーッと行きたいよね!』
「美月、今度パジャマパーティーしようよ。」
『それ乗った!』
「それだと、最後じゃないじゃん!」
わいわいとまた1つ袋を取り出して、女子会は
まだまだ続くのか、彼女達の楽しそうな声が
響き、彼女達が眠りにつくのは、もう少し先
の話。
翌日、その夜更かしに少しだけ後悔をすること
になるのだが、合宿は怪我なく終了を迎え、
一足先に帰る烏野を美月も一緒に見送った。
『また、絶対に会おうね。』
「互いに、頑張ろう。」
『仁花ちゃんは、いい所で力を抜きなよ?』
「心配かけてしまって、すみません。
日々精進しますっ!」
『早速、力入りすぎ。』
黒尾と澤村同様、美月も清水、谷地と再び東京
で再会する約束をして、ピンとせ筋が伸びる
谷地を解しながら、笑顔で2人と別れの挨拶を
する。
自主練を共に過ごした月島にも挨拶をしようと
すれば、横入りをした黒尾が壁になって、月島
も眉間に皺を寄せていた。
「蛍君、またねっ。」
「今のは、絶対にわざとですよね。
あと、その呼び方止めてくださいよ。」
『クロ、ちょっと…邪魔しないで!
蛍君も向こうでいっぱい活躍してね。』
「はい、ありがとうございます。」
「素直な月島を初めて見た。」
「俺もなんだけど…。」
最後にわしゃわしゃ頭を撫でようとすれば、
既に癖付いてしまっている月島は、彼女に
合わせて膝を曲げ始めるので、見たことも無い
チームメイトの姿に、日向と山口は目を見開く。
「何?ジロジロ見ないでよ。」と驚く2人には、
いつも通りの冷たい言葉を吐く、いつもの月島
で、心を少しだけ開かせた美月を尊敬の眼差し
で見ている日向に、彼女は可愛さを感じていた
のか、彼に癒されながら、ひらひらと手を振った。