毎年恒例の幸せ
『研磨、誕生日おめでとう。』
いつもより早起きをして、待ち合わせの時間に
早めに到着をして、朝一番に会いたかった人物
の笑顔を見たら、それだけで充実した気分に
なる。
「ありがとう、美月。」
孤爪もお礼を言いながらふんわりと笑うと、
美月はニコニコ笑いながら、紙袋を差し出した。
『待ちきれないだろうから、小さいヤツを
作っておいたよ。』
「やった。」
朝練を終えたら、ゆっくりと味わってやろうと
本日のやる気を出させてくれる、彼女の手作り
の自分の大好物。
中身を確認して、目をわくわくと輝かせていると、最後に到着をした黒尾が「ああ、そうか。」
と納得した声を上げ、彼も孤爪にお祝いの言葉
を吐いた。
「誕生日だよな、おめでとう。」
「ありがとう。」
美月達と今ここで一緒なら、きっとバレー部恒例
のサプライズのお祝いも無いだろうと、孤爪は
のんびりとして構えることなく扉を開ければ、
2人は鞄の中に仕込んでいたのか、ドアを開ける
と目の前には、夜久、福永、山本がクラッカー
を構えていて、黒尾と美月も後ろから楽しそう
に紐を引っ張る。
「ハッピーバースデー、研磨!」
四方八方から食らった紙吹雪に、目立つことが
少しばかり苦手な彼は、油断したことに後悔を
していたのか、顔を顰めてお礼を言った。
「…わー、うん。ありがとう。」
「研磨さん、リアクションうっす!」
「お前、もう少し喜んだ顔をしろよな!」
一応、これまた恒例の本日の主役と書かれた襷
を灰羽に掛けられ、孤爪の反応が気に入らない
山本は、彼の肩に腕を掛けながら小突いて怒っ
て、彼らのやり取りを黒尾も美月も微笑ましく
見届けていた。
『研磨が楽しそうで何より。』
「あれ、美月。研磨のケーキは?」
『帰ってゆっくり食べたいって研磨が言う
から、お家に置いてる。』
「甘やかすねー。」
「今日の主役は研磨だから、研磨の好きなよう
にすればいいさ。」
「美月作ったやつ、美味いから食いたかったな。」
『ふふっ、ありがとう。
またクリスマスは、頑張ろうかな。』
福永の時に作ったチーズケーキが気に入って
いたのか、夜久が少しだけ寂しそうに肩を
落とし、海は微笑んで同じように後輩を見守る。
皆に褒められて自信がついた美月は、今後の為
にとカレンダーに印を付けていると、黒尾は
その日付を目にしながら、ふと思い立ったよう
に口を開き、腕を組んだ。
「家帰ってなら、俺も食いに行くかな…。」
夜久と同じく、彼も美月の味が恋しくなった
のか、近所の特権といわんばかりにそう口に
すると、孤爪からはじっとりと冷たい視線が
送られた。
「え、クロも来るの?」
「おまっ、そう言いながら朝も食うんだろうが。
欲張りさんか!」
もちろん、誕生日ケーキも孤爪のリクエストで
アップルパイをホールで焼いていたので、分け
前が減るのを嫌だと感じたのか、孤爪が拒否を
言葉を黒尾に向けるので、美月は正直過ぎる彼
の態度にくすくすと笑い出す。
『また、焼いてあげるから。』
「美月さん、本当に研磨には甘いっすよねー。」
『ん、猛虎はヤキモチ?
よし、甘やかしてあげるからおいでー。』
「はぅっ!だから、ハードル高過ぎですって。」
「じゃあ、俺がハグしてもらおー!」
『うわっ、ちよっとリエーフ!!』
孤爪が1番彼女に甘やかされている気がして、
山本の不服そうな声に美月が反応をして、両手
を広げれば、彼は顔を真っ赤にして取り乱すの
で、遠慮の無い後輩が代わりに彼女に飛びついた。
支えきれずに倒れ込む彼女に構うことなく、
灰羽は満面の笑みで擦り寄って、これまた毎度
お馴染みの展開に、夜久と黒尾の怒鳴り声が
部室に響く。
最後に孤爪が静かに怒って、後輩はしゅんと
なり、そこからは気を引き締めて、春高予選に
向けての、ハードな練習が始まった。
『お邪魔しまーす。』
「美月、いらっしゃい。」
今日程授業が長いと感じた日早く、午後の練習
が終わるのも待ちきれずにいると、黒尾に気が
つかれたのか、いつもよりもハードな内容に
少しだけ、孤爪は彼を恨む。
でも、練習を終えてからの達成感はいつもの倍 で、美月にはつい先程会ったというのに、
再び彼女が会いに来てくれると胸は弾んで、
自ら玄関に迎え入れると、孤爪の珍しい姿を
目にして、美月は目を丸くした。
『朝食べたのに、もう楽しみなの?』
「すっごく美味しかったから、もっと食べたく
なった。」
「それぐらい、ご飯もしっかり食べなさいよ。」
孤爪の素直な感想に彼女は声を出して笑って、
その後に続いて、暗い道が危ないからと一緒
に来た黒尾が、彼女の後ろからひょっこりと
顔を出して入ってきた。
「何、その顔。」
「…何でもない、ありがとう。」
「いいサポーター見付けたんだよ。」
『良かったね、研磨!新しいサポーター
欲しがってたもんね。あっ、私お手伝いして
くるね!』
孤爪は黒尾から手土産という名のプレゼントを
受け取って、この後のお楽しみを持った美月は、
彼の分もプレゼントを喜んで、そのまま彼の家
のキッチンへ向かい、その間に男達はゲームで
時間を潰して、いつもよりも賑やかな食卓は、
孤爪も嫌じゃなかった。
「あー、美味しかった。」
美月が皿洗いまで手伝いをしてから孤爪の部屋
に入ると、ベッドに両手を広げて満足そうな
表情を見せて寝転がり、彼がいつもよりもよく
食べている気がした美月は、嬉しくなって目を
細めた。
『研磨が喜んでくれてよかった。』
そう言って彼の横で腰掛けると、コロコロと
彼は転がりながら、美月に甘えて近寄って来る
ので、彼女もそれに応える様に、ゆっくりと
彼の髪の毛を優しく撫でる。
すると今度は体が起き上がったと思えば、彼は
そのままぎゅっと彼女を抱きしめて、愛しそう
に微笑んだ。
「美月、ほんと大好き。」
『ふふっ、ありがとう。』
毎年、この日だけは自分の素直な気持ちが出て
きて、自分の為に時間を割いてくれた彼女に、
感謝の意味を込めながら、そっと包み込む。
今年も笑って返されて、いつになれば照れた顔
を見せてくれるのだろうと、悩まされるのは
今年も同じで、なかなか叶わない願いに彼は
ため息を吐く。
「もしもーし、研磨君。俺がいることも
忘れてない?」
「クロも祝ってくれて、ありがとう。」
「お前ちょっとくらいニコリとしてくんない?」
『ふふっ、クロの事も大好きなんだけど、
恥ずかしいから、言えないだけだよね。』
そして、その光景を背に毎年不貞腐れながら、
黙々とゲームを行う黒尾の哀愁漂う背中を見る
のも、毎年お馴染みの光景となるのだった。
『研磨も少し逞しくなったよね、やっぱり
男の子だね。』
「えっ…。」
「そうよー、だから気をつけなさいよー。」
「クロは余計な事言わないで。」