お出かけ日和


帰宅中に、孤爪から思いもせぬ言葉が出て来て、
黒尾と美月は揃って顔を見合せた。


「どうしたの、2人して。」


「おう…、だってなぁ、美月。」


『研磨の口から、その名前が出るとは思っても
見なくて。』


明日の休日は、久しぶりに部活も休みとなり、
滅多にないオフ日に何をしようかと3人で休み
の計画を話題にだせば、孤爪がショッピング
モールに行きたいと言い出した。


もちろんこの度の休日も、彼は家で寛ぎたい
と言い出すと思い込んでいた2人は、彼の言葉
をもう一度聞き直し、それにため息を吐く彼は
丁寧にもう一度繰り返す。


正しくは、彼はその敷地内にある映画館で、
自分がやっていたゲームの映画版がただ見たい
だけだったのだが、普段外出をしたがらない
彼からのお誘いは、驚くのに十分だった。


『うん、いいね、行こう!』


「これなら、近くの所でもやってんじゃねーの?
わざわざ、そっちの遠い所まで行かなくても。」


「あそこの映画館は、人が凄いから嫌だ。
こっちなら、買い物目的の人が多いし、
ゆっくり楽しみたいし。」


「人が多いことに変わりはねえのにな。」


「じゃあ、俺と美月だけで行こうかな。」


横でああだこうだ言い出した黒尾の言葉が少し
鬱陶しいと感じたのか、むすっとした顔で孤爪
がそう言うと、2人だけのデートは、孤爪といえ
ど納得いかないのか、「いや、行くし。」とすぐ
に返信をする。


『見たらきっと、楽しいよね!』


そのゲームのことはよく分かっていないはずの
美月は、嫌な顔を見せることなく、明日の
お出かけ予定を楽しみにして、笑っていた。


孤爪の指定したその集合時間の早さに、2人は
また驚いていたが、何だかんだ孤爪には甘く
なってしまう2人。


寝坊すること無く無事に集まり、駅から出る
シャトルバスもあまりにも早い時間だからか、
座る余裕があった。


映画の内容も、孤爪も黒尾もゲームに忠実だな
と目を光らせて、美月はその横で最近のゲーム
の凄さに関心をして、最近は疎くなったそれを
久しぶりにやりたくもなっていた。


「いいよ、今度貸そうか?」


「お前、そもそも本体持ってねーだろ。」


「じゃあ、ウチでやればいいじゃん。俺は
今は別の機種のヤツにハマってるし…。」


『わからなかったら、研磨に聞けるもんね。
アリかも。』


「敵が倒せなくて、三日坊主とみた。」


『それは酷い!クロはやった事あるの?』


映画の余韻に浸る中、フードコートでそんな
会話を繰り広げながら、ちゃっかりとゲーム
がクリア済みの黒尾は、誇らしげにラーメン
を啜っていた。


「何なら、俺が手取り足取り教えようか?」


美月の向かいに座って不敵な笑みを見せる黒尾
に、彼女の隣に座っていた孤爪が顰めっ面を
見せて、ガシッと彼の脛を蹴って、それ以上は
言わせなかった。


「お前な…手加減。」


「知らない。」


2人はハンバーガーを買っていたのか、孤爪は
素知らぬ顔で黒尾から視線を逸らし、ストロー
が刺さったジュースを吸って、美月は期間限定
のイチゴのチョコが入ったパイが美味しかった
のか、そちらに夢中になっていた。


『研磨の方が、最悪倒してくれそうだから
いいや。』


「いや、ちょっとテンポ遅くない?返事から
結構時間経ってんだけど。」


『ごめん、美味しくてつい!』


「美月、それ1口ちょうだい。」


美味しそうに齧る美月に惹かれたのか、孤爪
が顔を寄せてきたので、彼女もそのまま彼に
差し出せば、彼も嬉しそうに口にしていた。


ちゃっかりと口にはみ出したチョコを彼女に
指で拭ってもらったりもして、それを羨んで
黒尾はわざとらしく音を立てて、勢いよく
ラーメンを啜る。

そして2人が食べ終えたのを確認したら、彼は
すぐにスポーツショップに行くことを提案する
のだった。


あ、このお店可愛いかも。


通りすがりに見た、アクセサリーショップに
視線を奪われて、美月のその目の動きを2人が
見逃す訳が無く、黒尾が先に口を開いた。


「気になるもんでもあったか?」


「美月付き合ってくれたし、言ってくれたら
一緒に行くよ?」


『いやいや、大丈夫!』


2人がはそう言って、美月の行きたいところに
お供する気でいたのか、足を止めたので、彼女
は手を横にブンブンと降って、足を進めた。


『そろそろ、リエーフの誕生日でしょ?
彼のプレゼントを最初に買わなきゃだし。』


その店は女性客で賑わっていて、店の前で待た
せることに気兼ねするのか、美月はそう答えて
スポーツショップを指さして、2人も彼女が
そう言うならと、また足を進めようとした。


「おっと、前方に可愛い子発見。」


「奇遇だな、こんな所で何してるんだ?」


すると、聞き覚えのある声に振り返り、美月
はよく知る顔見知りを見たら、嬉しそうにぱぁ
っと顔を明るくさせる。


『やっくんに海だー!こんな所で会うなんて。
今日は、研磨さんのリクエストで映画を見に
来たのですよ。』


「研磨からとか、珍しいな!」


「好きなゲームが映画化してて…。」


「なるほどな。つーか美月、その服もめっちゃ
好きかも!」


「うん、本当に。似合ってるな。」


たまたまその場に遭遇した夜久と海が珍しく
孤爪も一緒にいる事に不思議そうに首を傾げ、
答えに納得したところで、視線はそのまま
美月に移動する。


『そ…そうかな?適当に着ちゃったし。』


どちらかといえば、一緒に来た2人に合わせて、
ボーイッシュなスタイルで、大きめのパーカー
と緩いパンツで上手く着こなしていて、夜久と
海に褒められると思っていなかったのか、彼女
は恥ずかしそうに、ほんのりと頬を染める。


『本当、2人ともお世辞が上手だよね。』


ふんわりと照れくさそうに笑う美月の表情に、
黒尾は夜久が落ちたことを把握して、更に気に
食わない案件が発生した彼は、同級生を殺さな
いの。と注意をしながら、彼女の背中を押し、
彼女の先を歩き出した。


『ちょうどいいじゃん、リエーフのプレゼント
皆で選ぼうか。』


「何か、俺らタイミングいい感じ?」


「うん、アイデアは増えるから助かるね。」


「アレだよ。サポーターにしようぜ。
でもって、擦り切れるまでレシーブ練させる。」


「出たよ、鬼先輩の恐ろしいまでのスパルタ。」


『そこは、喜ぶものにしないんだね。』


スポーツショップまで歩きながらそう言って
足を進め、ここの敷地内のスポーツショップが
なかなかに大型だと分かった彼らは足取りが
速くなる。


容赦ない夜久の発言に黒尾も苦笑いを浮かべ、
海は程々になと微笑んで、美月も困った顔で
笑顔を向けていた。


「今、俺のこと話してました!?」


『えぇ!!?』


美月の驚く声と共に、大きな影が突然現れて、
ぎゅっと背後から大きな手が伸びて、背中に
ある支えで、何とか転ばずには済む。


「美月さん、見ーつけた!」


『リエーフ、どうしてここに!?』


戸惑う彼女に構うことなく、無邪気な笑顔で
見下ろされて、彼女は目を丸くする。
ぐっと抱きしめる力は強まって、その後には
慌てた声が聞こえてきた。


「もう、レーヴォチカ何やってるの!?」


ゆらりと長い髪が揺れるのが見えて、美月も
その美しさに、動きが固まる。


この感覚は、2回目だ。


その銀色の綺麗な髪の毛の持ち主も、彼女の姿
を確認すると、嬉しそうに目を輝かせていた。






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