時々はときめきを
『本当にサポーターにしたんだね。』
「おう、擦り切れるまで使わせるからな!」
「何なんですか、本当に鬼ですか!」
可愛い可愛い後輩の為にと、張り切って夜久が
灰羽にプレゼントを渡せば、複雑そうな顔で、
彼は受け取ったプレゼントと睨めっこをして
いた。
「さすがは鬼先輩、ブレないな。」
『やっくんの真っ直ぐなところ好きだよ。』
黒尾がそう言う横で、美月がケーキを掲げて
ヘラっと笑って夜久に褒め言葉をかけると、
美月の発した好きという響きが気に入ったのか、
彼も口元を緩ませる。
「ちょっと、今日は俺の誕生日ですよね!」
すると本日の主役の後輩は、なんで嬉しそう
なんすかと二人の間に割いって口を尖らせ、
誕生日にあやかってふんだんに組み込まれた、
練習メニューにげんなりした顔を見せていた。
「美月、それ何?なんでブタ?」
『違うよ、リエーフにちなんでライオン!』
「ぶふっ!!!」
「研磨、お前美月さんに失礼だぞ。」
「そういうトラだって、体震えてるし。」
「これは、美月さんの手作りを食べることが
出来る嬉しさから…って福永、そこでノート
に上手く描くんじゃねーよ、美月さんの立場が
ねえだろ!」
『猛虎、それ…一番傷付くかもしれない。』
「オバケは上手じゃないか。」
今回も時間の都合で作られたチーズケーキの上
には、この度はクッキーが乗せられていて、
疑問に思った黒尾の言葉を美月はショックを
受けながら、訂正をする。
彼女からの予想外の回答が面白かった孤爪は、
我慢できずに吹き出し、山本もいくら幼なじみ
といえどと注意をしたが、その自称ライオンの
クッキーは、まともに目を合わせれないでいた。
海のフォローを虚しく耳にしていると、灰羽は
自分の為にクッキーまで焼いてくれていたのが
嬉しかったのか、乗せられていたそれをひょい
っと取って、すぐに齧り付いた。
「クッキーもめっちゃウマ!食べれば一緒
じゃないですか。このヒツジ!」
『だからライオンなんだけど…もういっか。』
「あ、諦めた。」
「美月さんもせっかく焼いたんだから、
食べましょうよ。」
人の話を全く耳に入れていない後輩は、無邪気
に笑って抱きつくと、美月にフォークを差し
出し、あーんと彼女に一口食べさせる。
「お前らから先食えな?」
「いいんですか!?ありがとうございます。」
「やった!!!」
黒尾が今回は後輩からだと促して、1年生達が
ケーキを美味しそうに食べている姿を見ていた
美月は、それに癒されたのか、微笑ましく
見届けていた。
「走君の時には、犬をリベンジかな。」
「え、俺の時もまた焼いてくれるんですか!?」
『ホットケーキミックス使ったらあんまし
時間かからなかったし、今度は、ガトー
ショコラにしようね。』
「やった!!!」
「動物クッキーは止めとけ。ほら、また未確認
生物を錬成するだけだろ。」
まさか自分にも!?と感激した顔を見せる犬岡
が可愛く見えたのか、もちろんと彼女も首を
縦に頷く。
そして黒尾の失礼な発言に顔を顰め、犬は型が
あるから大丈夫だと、次の失敗はしっかりと
否定するのだった。
囁かな誕生日会は一旦、そこで幕を閉じて、
いつも通りの朝練がはじまり、本当に夜久の
予言通り、朝から早速、練習は激しめだった。
「美月さーん、元気ください。」
『ちょっと、待ってね。』
朝から散々動かされていた灰羽は、心の癒しを
求めようと、放課後の練習前に準備を済ませた
美月にそうお願いをしたら、彼女は両手を広げ
て彼を受け止めるのを待ち構えていた。
彼女の予想外の行動に、灰羽も目を丸くして、
どうやらこれは誕生日仕様の甘やかしなのか、
『バッチコイ!』と彼女らしくない掛け声も
聞こえてきた。
その仕草は灰羽は胸を弾ませて、思い切り彼女
を自分の腕で包み込み、そして甘やかされて、
肺いっぱいに大好きな彼女の香りを楽しむ。
『リエーフ、また大きくなった?』
「まだまだ、発展途上です。」
彼女の首に腕を回して、顔を埋めると、その
体格を実感したのか、彼女がそう指摘をして、
灰羽に男の子だもんねと答えているが、その
言葉と反応は逆で、意識はしていないのか、
いつもの様に子供をあやす撫で方をする。
「美月さん、いつもより甘い匂いがしますね。」
『仕事前に、チョコ食べたのバレちゃった?』
そういえば、明日は話題の一大イベントが確か
あるんだっけな。
ふとその香りで思い出したのか、そんな事を
頭の中で考えながら、欲張りな後輩はむくむく
と悪戯心が湧いて出てきたのか、パチリと美月
と目と目を合わせていた。
「美月さん、トリックオアトリート。」
『ごめん、さっき食べちゃった。』
灰羽は思い付きでにっこりと笑い、彼女にそう 言ってみると、てっきりその香りに釣られて、 灰羽もチョコレートが欲しくなったものだと
勘違いをした美月は、灰羽にそう答えると、
ポンポンと自分のポケットを叩いていた。
そして、その意味をきちんと分かっていて、
ポケットの中は既に空のはずなのに、手探りで
何かを探す動作を見せてしまうのは、灰羽の
エネルギーになるものを自然と探してしまう
からなのか。
『んーごめん、元気出るもの無かったね。』
「ちょっと、そんな顔見るとイタズラしにくい
じゃないですか。」
せっかくの軽いハロウィンのノリを楽しもうと
思っていたのにと困った顔で笑って、真面目に
返してくる優しい先輩を目の前にしたら、調子 が狂ってしまい、そうじゃないのにと嘆きたく
なる。
甘やかされるのはいいが、子供扱いが納得いか
なくて、もう一度、彼女を思い切り抱きしめ、
そのまま自分の顔を彼女の胸に思い切り押し
こんで、もう一度、その香りを堪能する。
「じゃあ、美月さん食べよっかな。」
疚しい気持ちを抱えて発しても、どうやら彼女
もこの半年弱で彼の近すぎる距離感に麻痺し、
美味しくないよ!と笑いながら、彼の頭を
撫でて否定していた。
なので、たまにはわざと彼女を意識させようと
して、灰羽もとある行動を決行しようと心に
決める。
「ん、ご馳走様でした。最高のプレゼントっ
すね!」
ゆらりと銀色に光る自分の髪の毛が、美月の額に
ふわっとかかって、唇とまではいかず、彼女の
頬に軽く自分の唇が触れたら、満足した顔で
舌なめずりをし、彼女から離れて体育館へと
向かって走った。
彼はそのまま駆けっていく足を止めない。
大胆な後輩の行動に茹だった彼女を発見して、
もれなく恐い先輩達が彼に怒り出す前に。
真っ赤な自分の顔を絶対に見られないように。