内緒のお楽しみ


「かろうじてそっちは犬だが、もう1つのは
やっぱブタにしか見えねーな。」


『なっ!走君がキーテイちゃんと誕生日一緒
だったから、一緒に乗せただけです。』


「キーテイちゃんだったのか。」


リベンジだと張り切って、箱から自信満々に
取り出したら、黒尾の辛辣な感想に美月が怒り
出し、美月に言われて気がついた夜久を見て、
孤爪はまた吹き出していた。


「俺はなんでも嬉しいです!」


『走君はどこかの誰かさんと違って優しいね、
ありがとう。』


「とんでもないです、こちらこそ俺の為に
ありがとうございます。」


ちゃんと犬ですよ!と真っ直ぐな瞳で言い切る
純粋過ぎる後輩に、美月は微笑むと、改めて
おめでとうとお祝いの言葉を掛けた。


「何か、俺だけ悪者感あるじゃん。」


「クロはストレートに言い過ぎなんだよ。」


今回も、1年生達が美味しそうに食べてくれた
ことに安心をして、それにまざって孤爪もマジ
食いに混ざっていて、山本が「相変わらず、これ
だけは遠慮がねーな。」と呆れた顔を見せる。


『クロには、あげない!』


「ほら、こうなるの分かってんのにな。」


そして、揶揄い過ぎた黒尾は美月にそう言われ
てお預けを食らい、夜久もまた黒尾に呆れた顔
を向けて、なかなかそこだけは成長をしないを
残念に思う。


しかし、何だかんだ言いながら平等に黒尾にも
与える彼女は、ちゃんと黒尾の分も残していた
のだった。


「…うま。」


エネルギーをしっかり摂った、その日の練習
は、いつにも増して好調だった。


「ぐべぇっ!」


「ほら、リエーフ。へばってないでまだまだ
行くぞ。」


「えー、まだまだなんですか!?」


「当たり前だ、タダで済むと思うなよ。」


先日に美月の頬へキスをした灰羽は、バッチリ
と夜久に見つかって、予定より更にメニューを
追加されて、嘆く声が体育館に響く。


まだまだ改善する点はあるが、1年生達の動き
も段々と良くなってきていて、今は合宿の効果
をしっかりと実感している頃合だった。


更に課題が募る人間もそこにいたりはするが、
ここ最近の練習試合でも、手応えは感じている。

代表決定戦の日取りも迫ってきており、孤爪の
スマホには日向から、全国行きが決まったとの
連絡も1週間前には入っていた。


『気合い入りますねー。』


その連絡を受けてからの仲間の顔付きは少し
だけ変わったようにも見えて、美月も出来る
だけのサポートを一緒に励む。

犬岡も先輩達から灰羽と同じくサポーターを
プレゼントに贈られて、嬉しそうは顔を見せて
いた。

そして期待に応えられるようにと、彼は気合い
十分で、見ていて何とも頼もしい。


そのやる気は放課後まで続いていて、自主練も
率先して行って、その彼の体力に美月も驚いた
様子を見せるのだった。


『よし、行くか。』


そして、気合いを入れているのは部員だけでは
無く、マネージャーも。


ドラッグストアの広告を片手に、本日スポーツ
ドリンクの粉がセールだった様で、少しでも
部費の節約に繋がるように、練習の合間に抜け
て、買いに行こうとすれば、そこに犬岡が近づ
いてきた。


「美月さん、これから買い出しですか?
俺、荷物持ち手伝います!」


『大丈夫だよ、1人で行けるから。』


「さっき、黒尾さん達について行くように
言われちゃって。」


『そうなんだ、じゃあ一緒にお願いしよう
かな。』


ついでに足りない物も買い足しておこうとして
いたのが黒尾にはお見通しだったのか、大量の
荷物になることを心配した彼が、手伝いに行く
よう犬岡に伝え、せっかくの彼の練習時間を
割いてしまうことを美月は申し訳なく思う。


『走君、ごめんね。でも助かっちゃった。』


「俺も美月さんのお役に立てたみたいでよかった
です。」


足りなかったものが想像よりも多く、彼が一緒
に来てくれてよかったと考えながら、前にも
同じようなことがあった気がして、その次には
黒尾のほら見ろと呆れた顔が頭に浮かぶ。


買い出しの手伝いなんて面倒臭いはずなのに、
犬岡は嫌な顔をひとつも見せずに、にっこりと
笑って元気に返事をしてくれて、品物が高い
位置に置かれていた時には、助かった。


そして荷物も彼女が大丈夫だと言っても彼の方
が重たい荷物を持ってくれていて、軽々とそれ
を運ぶ彼はどこか楽しそうにも見えた。


「何か、デートしてるみたいですね。」


『ふふっ、本当だね。走君とのデートは
久しぶりですね。』


冗談でそう言いなが、並んで歩けば、そこには
微笑ましい2人の姿。
本当は、どちらかといえば姉の様に慕っており
彼女も弟の様に可愛がる。


この関係に満足をしている犬岡は、ありがとう
と嬉しそうに笑っている美月を見るのが好きで、
美月も同じく頼りになる後輩に感謝をするの
だった。


『走君、ちょっとだけ寄り道しない?』


突然、閃いた様に言い出した彼女が指す先は
コンビニ。
入口の前にあるベンチに荷物を置いて、その
まま荷物番を犬岡にお願いした彼女は、1人
店に入ると、すぐに出てきて、嬉しそうに彼に
袋を差し出した。


『ごめん、一つしかなかったや。』


彼女はそう言って謝りながら、少しひんやりと
したこの時期にちょうどいいそれを見せたら、
綺麗に二つに割って、半分こ。


「肉まんですか!?」


『走君が、手伝ってくれたお礼に。』


「俺、今日ケーキまで焼いてもらったのに!」


『今日は走君の誕生日だったわけだし、それと
これとはまた別だよ。』


まさかのご褒美に犬岡が驚いていると、美月は
さぞ当たり前のように言い除けて、まだ熱いよ
と笑いながら、それを渡した。


皆には内緒ね!と悪戯をする子供みたいに笑う
彼女は、犬岡も彼女の好きなところなので、
素直に受け取り、それを1口ぱくりと口にした。


「…美味しい。」


『ねっ!練習までまだ時間あるし、もうひと
踏ん張りしなきゃだね。』


「ありがとうございます。」


犬岡の言葉を聞くと彼女はまたにっこりと彼に
微笑んで、こちらこそです。と控えめの言葉が
帰ってくる。


「美月さんのお陰で、やる気が一気に出ました。」


『私も、走君のその顔見たら元気出た。』


見返りなんて求めてないのに、彼女はいつも
偉そうな格好は全く見せないで、こうして自分
にご褒美と優しい笑顔を向けてくれるので、
犬岡がそんな所が大好きだった。


そのご褒美は、いつも食べるものと同じはず
なのに、何故か別格に感じて、無くなって
しまうのがどうも惜しい。


早く皆の元へ戻りたいけど、もう少しだけ、
彼女と一緒にここにもいたい。


一緒になって美味しそうに頬張る美月を見たら、
この時だけはほんの少し、彼女を独り占めした
い気持ちが、彼の中には芽生えそうになるの
だった。




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