とある夕方の過ごし方
『んっ猛虎、こっち向いて!』
「ちょっと美月さん、それ絶対わざとでしょ!?
ハードル高いこと仕掛けないでくださいよ。」
11月11日の日曜日。
部活終わりに立ち寄ったコンビニで、イベント
事が大好きな彼女が、その日にちなんで山本に
向けてとあるものを咥えて差し出せば、彼は
顔を真っ赤にして想像通りの反応を見せるので、
美月は面白がって彼にジリジリと近寄っていた。
「えー、美月さん俺ならそのゲーム一緒にする
のに!」
「お前だと恥じらいがないから、面白くない
だろ。」
「そういうお前が1番避けられねえか?」
「そりゃね、もう激しいの御見舞するからね。」
「そう言いながら、クロが1番恥ずかしがって
何も出来なかったりするんじゃないの?
夜久君とは美月も夜久君もどっちも恥ずかし
がりそう。」
「研磨は時々、痛い所突くよな?」
「研磨、お口チャック。」
孤爪がスマホのゲームをしながらも2人を冷静に
考察し、夜久も黒尾も大正解と言うしかなくて
顔を顰める。
逃げ出した山本に諦めて、美月は美味しそうに
それを口にする。
春高予選まで、ついに10日を切ってしまった
その日も、途中でこうしてエネルギーを補給
しないと、家まで持たない程だった。
「あんまし甘いもんばっかり食べすぎんなよ?」
『そう思ってサラダ味。しょっぱいよ?』
「そうじゃなくて、また寝落ちするぞ?」
「美月さん、俺にも1本くださーい!」
黒尾のその忠告も遅く、そのまましばらく経つ
とこくり、こくりと船を漕ぎ、お得意の反射
神経で動く彼らは、両手が空いていた為に勝利
する黒尾が美月を受け止めて、すっかり夢の中
に落ちてしまった彼女の髪を孤爪は優しく撫で
ていた。
「あっぶね、頭をぶつけるとこだったぞ。」
「お祝い事がいっぱいあったから、美月も
疲れちゃったんだろうね。」
「一体、メレンゲ何回立てたんだろうな。」
ベッドを背もたれにして、座って雑誌を読んで
いた彼女は黒尾たちと一緒に帰宅しても、3人
集って寛いで、のんびりとした空間で眠気の方
が勝ったのか、美月はそのまま電池切れ。
このやり取りも、2人はすっかりと慣れた様子
で、孤爪は彼女の手に持っていた雑誌をロー
テーブルに置いていた。
ここ最近、動きっ放しだった彼女を2人は近く
で見ていたからか、そんな会話を交わすと、
気持ち良さそうに寝息を立てる彼女を愛しそう
に見つめる。
「ほら、美月。風邪ひくからベッド行けよ?」
『ん、クロ…もうちょっと。』
美月が寝る場所まではそこまで距離がないと
いうのに、彼女はそれを拒んで黒尾に甘えた
反応を見せ、そのまま黒尾温もりが心地よく
感じたのか、ずるずると彼に寄り添ったまま、
勝手に彼の太腿を枕にし始めた。
「久しぶりの甘えんぼ美月だ。」
「コイツはまた人の足を勝手に…。」
『…クロ、なんか硬い。』
「いや、文句言うなら下ろすぞ。」
『んー、やだやだ。あったかいのがいい。』
「はいはい、好きに使ってくださいよ?」
ぐるんと夕日が眩しく感じたのか、黒尾のお腹
側に向きを変えて、そのままぐりぐりと恥じる
様子もなく、気持ち良さそうにそのまま寝息を
立てる。
そうなったら彼も仕方なくて、孤爪が渡して
きたもこもこのブランケットを彼女に掛けて、
彼女の頭を撫でていると、意識をするからなの
か、腹部に熱を感じていた。
彼女のお気に入りの大きめのブランケットを
渡した孤爪は、いつもの様に彼女の部屋に持っ
てきていたゲームを始め、そこには静かな空気
が流れる。
「やば、釣られて眠たくなるな。」
「美月、あったかいから気持ちいいよね。
そろそろ変わる?」
「たまにはこっちにも堪能させてくださいよ。」
携帯ゲームを持ち込んでいた孤爪は、ちらりと
2人様子を伺ったら、自分もその温もりを味わい
たくなったのか、黒尾に向かってそう言えば、
黒尾は直ぐに却下する。
彼が変なことさえしなければ、孤爪も眠る美月
の邪魔は極力避けたいので、止めることなく、
またゲームを再開するのだった。
孤爪が再びゲームに熱中をして、自分の世界に
入ってしまえば、そこからは2人だけの空間の
出来上がり。
少し触ったくらいでは起きない美月は、柔らかい
頬を黒尾につんつんと続かれたり、にぎにぎと
指の腹を押されたり、指通りのいい髪を触られ
たり、しばらく彼女は彼に、好き放題されて
いたが、彼女は全く起きる気配は無し。
「だいぶ、伸びてくれたよな。」
この夏は忙しくて短くしなかったからか、少し
自分好みになってきてくれているその長さを
黒尾は嬉しく梳いてみる。
寒くなるこの季節は、割と彼女はこのまま伸ば
そうとしてくれるから、彼にとっては少しだけ
嬉しい時期だった。
その静けさと心地良さから、自分も睡魔が押し
寄せて来たのか、黒尾も段々と瞼が重たくなり、
膝枕から今度は腕枕へと切り替えて、そのまま
美月に寄り添う形で、黒尾も横になって、自分
にもそのブランケットを掛けた。
すると、彼女から黒尾の胸元に顔を近づけて、
そのまま彼の服をぎゅっと掴んでくるので、
その仕草が彼のお気に入りポイントでもあって、
喜びをかみ締めながら、ポンポンと彼女の背中
を叩く。
「ちょっと、その独り占めはずるいでしょ。」
そしてその2人の空間は、ほんの僅かの時間で、
孤爪に見つかると、そのまま彼もテーブルを
動かして彼女の背中に寄り添うように横になり、
邪魔が入ってしまうのが、秋の夕方の一連の流れ
となっていた。
「クロ、反対向いてよ。クロと見つめ合うのは
ちょっと…。」
「いやいや。服掴まれてるんだから、無理を
言わないで頂戴よ。」
自分の要望が通らなかったことに、孤爪は不服
そうな表情を見せて、後ろから美月のお腹に手
を回していた。
「研磨くんのえっち、何処触ってんのよ。」
「別に、変な所は触ってないし。クロこそ、
美月に添い寝して変な事考えないでよ。」
「いや、お前いるのに何もしねーよ。」
「俺がいなかったらするの?」
3人が川の字になって、ぎゅうぎゅうと引っ付き
ながらの光景は、きっとチームメイトも驚かせ
てしまう姿。
2人の温もりに挟まれて幸せそうな美月は、
二人の会話も未だに夢の中にいて入っておらず、
小さな口論はもうしばらく続きそうだ。
「美月の髪の長さを気に入っているところ悪い
けど、この前美容院の予約入れてるの見たよ。」
「…マジで?」
「うん本当に。そういえば、夜久君の好きそう
な髪型だったかもしれない。」
「研磨、ちょっと美月の行く美容院の電話番号
教えて。」
「いやいや、声でバレるから止めときなよ。
後で美月に怒られるよ?」