粘りを魅せる
練習試合とは全く違う、その声援とオーラに
意識しないようにしていた美月も少し、表情
が固くなっていた。
「行ーけー、行ーけー、ねーこーま!!」
しかし、拡声器独特のキーンと甲高い音が響き、
そのいつも聞こえる頼もしい応援団長の声と、
その笑顔に、美月も緊張は次第に解れていき、
あかねと目が合うと、しっかりせねばと彼女も
気合いが入る。
美月が手を振れば、あかねも嬉しそうな顔を
して、彼女に手を振り返していた。
「相変わらず気合い入ってんなー!お前の妹。」
『あかねちゃん見ると元気出るから、すっごく
ありがたいよね。』
「いつも、スンマセン…」
「おかげで梟谷の応援にも負けてないな。」
そして、美月に嬉しく手を振る人物はもう一人。
今回は灰羽の姉も加わって、夜久と一緒に美人
が拝めたことを喜び、その後もアップが始まる
と猫又も雰囲気が上々だと満足そうに彼らの
具合を眺め、美月もそれに頷いた。
とにかく木兎を乗せない、何本でも食らいつく。
彼らはそう決め合って、いつも円陣を組み、
美月も黒尾の決まった台詞に耳を傾けて、心を
落ち着かせると、ゆっくり息を吐いた。
『木兎君に負けないくらい、皆のかっこいい
ところ、いっぱい見せようね。』
美月は笑顔で彼らの背中を押して、コートへ
送り出し、その後の視線をゆらりと木兎に向け
ていた。
いつもの雰囲気とは違う、真っ直ぐコートを
見つめている彼の鋭い視線を悔しいくらいに
かっこいいと思ってしまう自分がいる。
『本当、厄介なくらい集中してるんだろうな。』
試合開始のホイッスルが鳴り、美月の感じた
通り、彼は最初の攻撃から絶好調だった。
2階席まで飛ばす威力の迷いの無い攻撃に圧巻
して、敵なのに拍手を送りそうになる。
『木兎君らしい、引き込み方ですね。』
しかし、絶好調なのは向こうだけじゃない。
夜久も美月に向けた言葉通り、木兎の攻撃を
よく読んでいた。
『やっくんもやっくんで最高。』
木兎得意のクロスを夜久が静かに拾い、その
自然なレシーブに見蕩れていると、木兎も自分
の攻撃を綺麗に拾う彼を見てスイッチが入った
のか、その後の攻撃も彼は絶好調だった。
「悔しいが、木兎絶好調ですね…!」
「ああ、ホレボレするね。」
直井や猫又も彼の攻撃を誉め、木兎もいつもは
ブロックで止めていた黒尾に大人しいじゃんよ!
と挑発の意も込めて口を出し、黒尾はそれに
乗らない反応を見せていた。
「目立てばいいってモンじゃねえの。
今にしょぼくれさせてやるから、待っとけ。」
練習試合の時とは違うその状況を灰羽は面白く
なさそうに眺め、それが調整だとわかっている
美月はゆっくり冷静にそれを見守る。
その証拠に、クロスは夜久がしっかりと拾い
上げており、木兎の攻撃は夜久に取られてしま
うクロスよりもストレート間もなく取るであろ
う、タイムアウトに向け、彼女はいつでも動け
るように身構えていた。
「木兎さんは、絶好調。」
「それは言わなくてもわかる。」
「あと夜久君も絶好調。」
「おう!今日はよく見えるぜ!」
『気持ちいいくらい取れてたね、痺れたよ。』
「美月もサンキュ!」
美月の褒め言葉を笑顔で受け止めて、ドリンク
を口にした夜久は美月と嬉しそうにハイタッチ
を交わしていた。
集合すれば、孤爪も木兎の調子のいいコースを
指摘していて、海が締めるコースを変えるかの
確認をすれば、孤爪は絶好調の彼をおいしく
使ってからにしようと提案をし、黒尾も孤爪の
その戦略に、ニヤリと不敵な笑みを見せる。
「たまには目立たせて頂きます。」
「まだ1本ぼっちだ!!」
そして、黒尾と孤爪がスイッチして木兎の打つ
ストレートを止めたところでエンジンはかかり、
孤爪の中の予定を決行。
徹底的に護りを固め、彼らが木兎の失敗を促す
事に成功をすると、美月も嬉しくなり、小さく
ガッツポーズを見せた。
「よし、守備はハマってきた。ここでチームを
のせる1点をくれよ。」
『リエーフ、決めてね。』
18対19と、向こうの方がまだ1点のリードを
見せているが、調子はしっかり乗っている模様。
大型新人の活躍を願って、前衛に出てきた彼に
美月は声援をしっかりと送っていた。
黒尾のジャンプサーブもいいコースに入り、
高めのトスで灰羽が打つも、向こうの守りも
固く、木葉に滑り込まれ、止められてしまった。
「叩けリエーフ!」
先輩の叫ぶ声に灰羽も長い腕を振り上げたが、
見事な空振りを見せて、ポコンと頭に当たって
しまったそのボールは、福永のフォローも間に
合わず、ゆっくりと床へ落ちてく。
『ああ〜、リエーフ〜。』
思わずそれを見ていられなかった美月も両手で
顔を押さえ、殴り込みに行きそうになる夜久を
後輩達が必死に押え、監督達も頭を抱えながら、
耐えきれずにタイムアウトを取るのだった。
「研磨、リエーフの事頼むからな。」
猫又に声をかけられた孤爪が、あからさまに
嫌そうな顔を見せると、猫又も「お前こういう
時の表情は豊かだよな。」と指摘して、美月も
彼しかいないとお願いする形で彼の名を呼び、
孤爪の背中をポンと押す。
『こういう時は、研磨が1番なんだよね。』
後は灰羽に詰め寄る孤爪にお任せをして、仲間
に忙しくタオルを渡し、その間美月は他の人達
のモチベーションを上げる続けることを心掛け
ていた。
『次、木兎君のきっついサーブもこの調子だと
大丈夫そうだね!』
「おう、美月惚れんなよ?」
『もう、やっくんには惚れ惚れしてるよ。』
「あ…その、うん、ありがとな。」
「美月ちゃん、褒めすぎヨクナイ。程々に。」
美月の言葉を真面目に捉えた夜久が顔を真っ赤
にさせて、黒尾が面白くなさそうな顔をして
いるとタイムアウトは終了し、最後に孤爪の
厳しい発言にショックを受けていた灰羽の背中
を押し出した。
『取り返しておいでね!』
案の定、木兎は力強いサーブを決めて来て、海
がそれを冷静に打ち返してチャンスボールに
変えると、孤爪が高く上げ、打点の高い位置を
灰羽が打ち込む。
『あ、もう、鷲尾君も木葉君も上手すぎる!』
普通だと決まるはずの攻撃も、相手も同じく
フォローが嫌になるほど上手いため、その攻撃
は止められて、灰羽は悔しそうな顔を見せた。
『うん、整ってる整ってる。』
セットポイントを先に取られても、心に余裕が
あるのは、この光景を何度も何度も味わって
来ていたから。
灰羽の高い攻撃が決まってきたことに手応えを
感じて喜ぶのも束の間、彼のサーブミスにより
1セット目は梟谷に奪われてしまう形となるの
だが。
猫又のガマン比べだという言葉に皆が頷いて、
2セット目は、その我慢比べで1つリードした
自分達が先に2桁へ乗っかった。
『猛虎、ナイスキー!』
梟谷にもタイムアウトを取らせ、赤葦を狙い
牽制する事で木兎の万全な攻撃を少しでも減ら
せるようにと、孤爪も作戦をしっかりと練る。
リバウンドの上手さ、赤葦以外でもセットの
対応と、陰ながら木葉達が器用にフォローを
入れることに厄介さを感じながらも着々と粘り、
相手に苛立ちや焦りを持たせる事に、穴を潰す
ことに美月も手応えを感じていく。
『ナイス、ドシャット!!!』
エースのスパイクを黒尾と海の手が確実に捕え、
遮られた時の木兎の歪む表情を美月はしっかり
と目にした。
「クロスって、どう打ってたっけ〜?」
発言は想定外だが、彼の迷いは予定よりも早く
も感じたが、一応作戦通り。
『木兎君、今なんて言った?』
その言葉が聞こえてきて、敵の言葉を聞き返し
そうになったが、赤葦の表情から向こうが2回目
のタイムアウトを取ることを予測して、美月は
次の自分のやるべき作業へと、気持ちを切り
替えた。