次の試合に向けて
タイムアウト後の木兎を立ち直せる赤葦の早さ
に、美月は驚かされた。
灰羽を欺いて、木兎へ攻撃の道を切り開いた
赤葦を敵ながら華麗だと尊敬し、見事に彼の道
に沿い、攻撃を決めた木兎もさすがだと思わ
される。
『切り替え、締めてこ!!!』
「気合い入れ直せ!来るぞ!!」
強烈な一撃に、夜久も悔しそうな表情を見せ、
決まったあとの表情で、彼の調子が戻った事に
気がついた美月と黒尾は、コート内にいる仲間
に声を張って、自分達も気を引き締めた。
梟谷の仕掛ける攻撃を粘りを見せて拾い上げ、
打つとこが無いように守りを固めるも、木兎は
鋭いコースで決めて、先にマッチポイントを
決められてしまう。
そして、デュースまで持ち込ませる粘りを見せ
るが、調子に乗ったままの木兎を止めることは
出来ず、久しぶりにフルセットを取られ、その
試合は惜しくもセットを取り返すことなく、
終わってしまった。
「カッコ良し男かよ、クソが。」
最後に決められたスパイクを見ると、合宿中に
何度も目にした、彼の背中に書かれていた心得
を思い出して、彼の為の言葉だなと美月は思い
知らされた。
『もう木兎君、ズルいよ…カッコイイよ。』
木兎の攻撃はやっぱり好きだという気持ちと、
負けて悔しい気持ちとが入り混ざって、複雑な
表情でその試合結果を見て、もごもごと口を
動かしていると、猫又も赤葦の手腕を認めて
いた。
『絶対に次も会えるから!』
「わかってる。12月には全国行きのお祝い
パーティーだね。」
「美月のケーキ、楽しみにしてるし。」
「なになに、ケーキ?」
「木兎はダーメ、女子だけのお楽しみだし。」
試合終了後に握手を交わして、白福達と少しだけ
会話をすると、マネージャーとして次に会うの
は東京体育館だと約束をして、2人と別れた。
『チャンスはまだある!』
後が無いと焦りを見せる海と夜久に次の試合に
向けて前向きな言葉を掛けて、彼らと一緒に
トーナメント表を眺めていると、芝山達の誰か
を慰める声を耳にして振り返る。
美月が目にした時は、芝山が背中を撫で、犬岡
が励ましの言葉を掛けていたのだが、意味を
なさなかったのか、彼女を目にすると、優しい
後輩達はすぐに美月に助けを求めるので、彼女
はスペースを開けてもらい、灰羽の横に腰を
掛けた。
『リエーフ、姿勢。せっかくの自慢のポイント
が、台無しじゃん。』
「さっきの試合、大してイイトコ無しだった
からな。」
美月の声にも反応を見せず、夜久も灰羽の様子
を見て苦笑いを浮かべ、彼女は黒尾と目が合う
と、彼も灰羽の傍に寄って来た。
「俺…、俺はもっとバシバシ点取って、ブロック
決めて。」
2人は犬岡達と交代をして灰羽の話に耳を傾け、
観客席からワーキャー言われる男なんですっ!
と灰羽は悔しそうに自分の拳を叩きつけていた。
黒尾は「お前のそういう馬鹿っぽい感じ、嫌い
じゃないよ」と返し、落ち込みすぎていない事に
安心をした美月は、灰羽らしいと困った顔で
笑っていた。
「美月さんにカッコイイって言わせたかった!」
「腹立つくらい、途中から赤葦と木兎にメロメロ
だったもんね、美月ちゃん。」
『ちょっと、誤解を招くからそんな言い方を
しないでよー。』
「確かに、ブロックとかドッカンドッカン決め
たら、気持ちイイし、ヒーローだよな。」
「リエーフはまず空回りなんとかして。」
多少の嫌味を混ぜながら話は戻して、黒尾は灰羽
の言葉を肯定すると、美月も確かにねと頷いて、
孤爪は背後から厳しい視線で、後輩の欠点を
指摘する。
「音駒はチームワークのチームだから、輪を
乱しちゃ駄目だってわかってるんですけど…!」
『うんうん、リエーフもちゃんと考えてくれて
いるんだよね。』
「お前ちゃんとそんな事考えてたのか!」
意外だといった顔を見せる黒尾に、灰羽は再び
考え込む表情をして口を噤む。
彼のその姿を見て、黒尾はまぁ大事だな。と
納得した表情で見上げていた。
美月も黒尾の目を見ると、この後の先輩からの
アドバイスを邪魔をしないようにと、ゆっくり
その席から立ち上がり、軽く食事を摂る夜久達
の隣に座って、自分も軽く持って来ていたパン
を口にした。
『主将にお任せしちゃった。てか、研磨は
ちゃんとエネルギー取ってた?』
「さっきおにぎり食って、隅で休んでる。」
『うん、ならそっとした方がいっか。』
彼女が食べ終わる頃には、黒尾は灰羽と会話を
済ませていて、ポケットに手を突っ込んで戻っ
て来た彼に、ブロックタイプの栄養食の袋を
空けて、彼の口元にあーんと差し出した。
「え、その嬉しいサービス何?」
『上手くリエーフを励ませなかった、お詫び。
さすがクロだなって。説得に使ったカロリーを
補ってもらおっかなって。』
彼女が申し訳なさそうにポツリとそう吐くと、
黒尾は目を細めて笑い、彼女が差し出したそれ
に齧り付いた。
そして咀嚼をしながら、しおらしい表情を見せ
る美月の額を軽く指で弾く。
「プレイヤーじゃねえんだから、出来ねえ会話
だってあるだろ。つーか、前向きな言葉しか
吐かないんじゃなかった?」
黒尾に弾かれた箇所を手で押え、しまったと
慌てた表情を見せる美月に、これでチャラと
伝える形で、黒尾はトントンと自分の口元を
叩いて、もう一口と差し出したそれの催促を
する。
『じゃあ、先輩のクロが普通にかっこよかった
って言えばよかったね。』
「え、黒尾さん大丈夫っスか!?」
前向きな言葉に訂正せねば…としばらく考えて、
くしゃりと笑ってそう答えた美月の笑顔に黒尾
は咀嚼を止めて、ゴホゴホと噎せ返るので、
苦しそうにする彼の姿に、山本達が驚いて、
急いで彼には水を差し出した。
「胸が苦しい。」
その言葉や赤い顔は、詰まらせたからなのか。
それとも、不意打ちの照れ臭くなる言葉から
なのか。
美月は前者だと思って心配しながら彼の背中を
叩き、他の仲間は後者だとわかっているので、
呆れた顔を見せる。
「美月からあーんは贅沢過ぎてバチが当たった
んだろ。」
「夜久君、もっと仲間を心配して!」
冷静な夜久の態度に黒尾はツッコミを入れて、
美月も楽しそうに笑い、その声を聞くと、灰羽
も彼女に近寄ってきた。
「次は、美月さんホレボレさせますからね!」
背後から抱きついてきた、いつもの可愛い後輩
に微笑んで、会場に入る前に悔し涙を見せた
別のチームを見て、仲間達の表情は再び強ばる。
『もう1回、チャンスがある!』
試合後に掛けた言葉を彼女はもう一度、自分
にも言い聞かせる為にも吐いて、気合いを入れ、
皆についてボールカゴを押して歩き出した。
「まぁ、こうなるわな。」
「ハァ〜〜?俺らは決勝に行く気満々でした〜。
…つって実際負けてるんで、黙りますね。」
想定内だと発する大将に黒尾はそう言い返し、
彼の言葉に大将も眉を顰めていた。
黒尾は、自分のよく知る相手と握手を交わし、
円陣を組む時に、再度黒尾は大将は厄介だと
彼の説明をする。
「フェイントは常にあると思っておけ。
あとブロックアウトも上手いからフォローな。
リバウンドも。」
「ハイ!!」
黒尾の忠告に頼もしい仲間達の返事。
美月も周りも、応援に気合いは入っていた。
「お前は5点ミスったって10点取ってくれりゃあ
いいんだよ。」
「夜久さん!」
先程の空振りの光景が蘇るのか、深く息を吐く
灰羽に美月が声をかけようとすると、その1歩
前に夜久が立ち、灰羽に声を掛ける。
「あとは相手に取られなきゃいいハナシだ。」
その逞しい背中に美月だけでは無く、黒尾達も
かっけぇぇぇ!!!と叫び出しそうになり、
美月は言葉にならず、ふるふると体を震わせる。
「美月。あとで、あーんしてくれよ?」
後輩からは憧れの眼差しをしっかり受けて、
美月の反応に夜久は満足した笑顔を向けると、
コクコクと頷く彼女は頼りにしてますと彼の背
に両手で優しく触れ、コートへと送り出した。
「何なんだ…、リベロは男前じゃなきゃやれない
ポジションなのか…?」
春の高校バレー東京代表3位決定戦。
ここから、絶対に負けられない試合が始まる。