共に悦ぶ


「わかった!!?」


後輩の成長も感じたその一点に、感極まった
気持ちも混ざって、美月の涙は止まらなかった。


灰羽と芝山が向き合って、互いの信頼を確認し
合って、仲間が傍に居ることを把握して、噛み
合ったチームワークの心地良さに手を弾き合い、
良かったと声を漏らし、彼女は目頭を手で覆う。


振り返れば、座り込んで安堵の涙を流している
美月に、黒尾はすぐに彼女に手を差し伸べた。


「悪い、不安にさせたよな。」


ブンブンと言葉に出さずに、首を振って黒尾の
謝罪を否定して、彼に引き上げられてゆっくり
立ち上がった美月は、そのまま黒尾に抱きつい
て、彼もまた彼女の背中を優しく撫でていた。


『クロ、ごめん…。私、前向きな言葉しか
吐かないって言った癖に、これが決まるまで、
弱音が頭に浮かんじゃってた。』


「実際、吐いてねえんだから嘘じゃねえよ。
お前も頑張ってくれたもんな。」


意気地無しでごめんと彼に謝る彼女を否定して、
美月、ありがとね。と黒尾は感謝の言葉を向け、
今は涙腺が緩みっぱなしの彼女は、ぐっと唇を
再び噛み締めて涙を流し、困った顔で笑う黒尾
の視線は、次に灰羽に向いた。


「どうよ?
止めるだけじゃなかったブロックは。」


「…芝山と俺、二人で夜久さんの一人分で、
だから力を合わせなきゃいけないんだって
思って、そんで。」


今の一本で芝山の言った意味が分かりました。
とスパイカーを操る快感を覚えた後輩の様子に、
黒尾も手応えを感じたのか、ニヤリと笑う。


すると、リエーフも優生君も凄く頑張ったねと
震えた声で褒め始めた美月に、灰羽は慌てて、
美月さん涙が!と自分の指で彼女の涙を拭って、
孤爪も彼女に駆け寄って、黒尾と同じく彼女の
背中を摩っていた。


「美月、お前泣きすぎだって!」


挨拶を終えて、後輩に支えながら仲間の元へと
戻った夜久が、同じく嬉し涙を流しながら仲間
達と抱擁をしっかり交し、後輩達をしっかりと
褒めた後に彼女にそう言い、…と言いながら、
泣かしたのは俺らだもんなと抱きしめながら、
彼女の頭を撫でていた。


「美月、ありがとな。お前が隣にいてくれた時、
本当に心強かった。」


『うぅ…っ、やっくんの偉大さを私は今日、
思い知らされたよ。』


彼の背中の服をぎゅっと掴んで、彼とも勝利の
嬉しさを大粒の涙を流して、分かち合う。
やっくんもかっこよかったよ!と涙を拭って
満面の笑顔を向け合って、黒尾と海がそろそろ
行くぞと夜久を2人が両脇に抱えて、移動した。


彼女は立ち去る準備をと、荷物を片付け初め、
黒尾がこの試合を思い返し、自分の本心を3人
にふと伝えていた。


「少なくとも、この試合中。多少のマグレでも
リエーフの持ち味が発揮される方がいい気が
していた。
でも、あいつはその上を行きやがったよ。」


「お前ヘタクソにはヘタクソって言ってやれよ。
具体的にな!」


『やっくん、そう言えば怒ってたね。』


夜久はさらっとそう言い除けて、容赦ない先輩
の発言に、残りの先輩3人は苦笑いを浮かべて、
海はなかなか言えないよと返し、美月もそれに
こくこくと首を縦に振る。


「そうそう、夜っ久ん程レシーブに自信満々じゃ
ないからね。」


「?じゃあ自信満々になれよ。」


「ちょいちょい、無茶言うよね。」


そんな会話をしながら、端に座らせようとした
夜久の無茶振りな反応に、美月も声を出して
笑ってやっくんらしいと答えれば、黒尾もだな
と返事をして、彼女の手伝いをしようと立ち
上がる。


「戸美ざまぁだな。」


見知らぬその声に黒尾はピクリと反応をして、
彼女はあ。と一言黒尾の表情を見たらぽつりと
溢れ、その場に向かった黒尾に穏便にねと願い
ながら、止めはせずに片付けを続ける。


『トラブルは困るけど、クロのライバル思いな
トコロは、結構好きだよ。』


「あー、もう、美月ちゃん止めて。」


戻ってきた黒尾に美月がこそっと彼にそう囁く
と、思わぬ褒め言葉が擽ったいのか、視線を
逸らして、次に行くぞと背を向けるので、彼女
はくすくすと彼の反応を面白がる。


そして夜久を担ぐ2人の後ろについて行き、梟谷
の試合を見に別の会場へと移動をした。


『間に合ったね!』


ライバルの元へ駆けつければ、梟谷と井闥山の
試合はまだ続いていて、最後の1点は佐久早が
3枚ブロックを前にしても、上手く赤葦の手に
弾かせて決め、インターハイの予選を思い出し
た彼女は、眉間に皺を寄せた。


『あぁ…惜しい、ちゃんと守備は綺麗に揃って
いたのに。』


「やっぱ井闥山か〜。」とギャラリーの声に自分
達も耳にして、やっぱという言葉は、ここでは
相応しくないと思う美月は、不服だったのか、
口を尖らせていた。


「でも、1セット取ってる。さすが梟谷だな。」


「木兎サン、絶好調だったしね。少なくとも
準決終わった時点では。」


『ちゃんと攻撃に追い付いてたから、この試合
もどちらが勝つか分からない試合だったよ。』


みんなよく頑張った!と労いの言葉をはっきり
と発した美月や黒尾達の視線の先には、敗北
を悔しがる木兎の姿があって、彼はんがー!と
雄叫びを上げていた。


「覚えとけよ、佐久早。今度…」


「木兎さん、終盤に3連続サーブミスは頂け
ません。修正していきましょう。」


勝者に指をさし、捨て台詞を吐こうとした木兎
を遮って、いつもの調子で、淡々とダメ出しを
する赤葦に、木兎は赤葦!!!タイミング!!!
と地面に倒れ込んで、木兎は嘆いていた。


「タイミングだいじ!!」と注意をする木兎と
そんな先輩を素知らぬ態度で黙々と片付け始め
る後輩に美月は困った笑顔を向け、黒尾達も容赦
ない後輩の姿に苦笑いを浮かべていた。


そして、赤葦と美月はぱちりと目が会い、彼は
ゆっくり美月に近付くと、柔らかい笑みを向け、
まだ少し目が赤い彼女の心配をして、周りを
気にせず、彼は彼女の頬に両手を添えていた。


「美月さん、誰に泣かされたんですか?」


『赤葦君、大丈夫だよ。これは嬉し涙だから。』


「…それなら、いいです。」


「アカーシくーん、俺らも見えてるよね?」


「黒尾さんもいたんですね。お疲れ様でした。」


「美月ちゃん、元気ちょーだい!」


じっと彼女の瞳を見るその距離に、黒尾が冷静
でいる訳がなく、顔を歪ませてぐいっと1歩へ
出ると、もう1人の厄介者は遠慮無く、走って
寄ってくると、美月をむぎゅっと自分の胸に
押し付けていた。


『木兎君、い、息が〜!!!』


「悪い、悪い!!!」


「お前ら、うちのマネージャーを我が物顔で
扱い過ぎだかんな?」


「お前には、言われたくねーよ!」


『みんな、今日はカッコイイ日だったね。
とりあえず、みんながお疲れ様だ。』


軽く口喧嘩をしながらも、それぞれの表情は
自分達が互いにまだ戦える事を喜んでおり、
その気持ちは美月も彼らと全く同じで、木兎の
圧迫で鼻を赤くした彼女は見上げて笑い、その
破壊力に、3人はもごもごと黙り込む。


そして彼女は、試合後も軽く火花を散らした
男達をすり抜け、夏を共に過ごした仕事仲間と、
嬉しそうに抱擁を交わしていた。


「美月、お疲れ様〜。」


『お祝いパーティ、決行だね!』


「パァーっとやっちゃうか!」


「「俺達も混ぜてください。」」


「だから、女子だけでやるんだってば。」


「絶対、ダメ〜〜。」






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