皆で対策を


「美月さーん!」


『わ、ちょっと、リエーフここ校舎!』


「いや、部室でもおかしいだろ。」


テスト期間中で放課後は部活がなかったその週、
3年生の教室では絶対に見かけない休憩時間に、
190cmの自分よりかなり大きな後輩が、その場
に現れた。


美月を発見するやいなや、周りの目を気にする
ことも無く飛び付いて、物珍しそうにする周囲
の目が痛い美月が注意をしようとすれば、その
言葉が出てくる。


そしてその次に冷静な言葉で続けたのは彼女の
傍に居た黒尾で、同じく一緒だった夜久も怪我
をするだろうがと!美月の心配をして一喝し、
泣きついて来た時の声を上げた後輩を彼女は、
とりあえず落ち着いてねと宥めた。


「ちょっと、期末がヤバいかもしれないです。」


「数学なら、コイツはダメだぞ?」


『クロは一言多い!数学じゃないかもしんない
じゃん。』


「俺が困ってるのは、英語っす。」


「おい、何やってんだよロシア人!」


「ロシアは英語じゃないだろ。」


「だから俺は日本生まれの日本育ちですって!」


『期末は範囲広いもんね。テストまでにはまだ
間に合うか。』


テストまではあと3日、ギリギリになって助けを
求めて来た灰羽に先輩は野次を飛ばし、賑やか
なその聞きなれた声を不思議に思った海も何事
かと顔を覗かせた。


「リエーフ、こんな所でどうしたんだ?」


『あ、海あのね!』


美月が事情を説明すると、海もうんうんと頷き、
彼女と考えている事は同じなのか、それじゃあ
と冷静に提案をする。


「皆で、期末対策しないとだな。万が一赤点を
取ったら練習に支障も出るだろうし。」


『やっぱり、そう思うよね。…となると、他の
後輩も大丈夫か心配になってきちゃったね。』


「山本とかにも声を掛けるか?」


同じく後輩が心配になった夜久もそう提案して、
美月が様子を伺いに次の休憩時間に2年生の教室
へ足を運べば、何故か彼は孤爪のクラスの教室
にいて、テストに絶望する山本に視線を向けた
後に、彼女と目が合った孤爪の目はげんなりと
していた。


『うん、皆でテスト勉強しよっか。』


その光景に美月も納得して、そのまま福永にも
声を掛けに行って、結局皆でファミレスへ行く
事となり、美月の向かいの席に灰羽を。


そして灰羽の隣には黒尾、美月の隣には彼女の
ノートを借りたがっていた夜久が座って、隣の
テーブルには海と山本、福永と海が座った。
灰羽以外の1年生は、自分のペースがあるだろう
からと黒尾が気にして、今回は声は掛けずで。


「普通は、2年生じゃなく下級生の心配をするん
だろうけどな。」


「勉強に関しては、芝山達の方が虎よりも断然
頼もしいし。」


「さっきから、お前はその目をやめろよ!」


じっとりと冷たい視線を山本に送る孤爪のその
表情に海は苦笑いを浮かべ、対策を取ろうと
するだけマシだからとフォローを入れて、ふと
彼女はライバルでもある友人の学校を思い出す。


『そういえば、月島君も同じ様な愚痴を吐いて
たなぁ。仁花ちゃんが大変そうって…。』


「月島って連絡取ってくるんすか!?俺、連絡
送ってもスルーの時あるのに。」


「多分、ツッキーは人を選んでるんじゃないです
かね。 もれなく、俺も同じくだけど。」


「お前ら2人ともウザそうなメッセージ送りそう
だもんな。」


「夜久クンは、オブラートって言葉知ってる?」


ぽつりと言った美月の情報に灰羽は驚愕して、
哀れむ目を向けながら、灰羽と同じ身でもある
黒尾はポンと彼の肩を叩いた。


その会話を聞いて、夜久も辛辣な言葉を向けれ
ば、美月はそろそろ始めようと手を叩いて軌道
を正し、夜久に自分のノートを手渡した。


『はい、やっくん。』


「美月、サンキュー。」


『お腹空くと頭が回らないよね?ポテト注文
しとく?』


「おう、半分こしようぜ。」


「なんか、2人共距離が近くないスか?」


「腹立つだろ?教室だとこんな感じ。」


次に気になるのは、夜久と美月だったのか、普段
は割と自分には厳しい先輩の緩む表情を妙だと
思うのか怪訝な顔を見せ、その相手が自分に
常に優しい大好きな先輩に向けたものだからか、
気に入らない。


今日は妙に意気投合するもう1人の先輩が頬杖
付いて説明をし、「代表決定戦から更にね。」と
黒尾も慣れた口調でも、見ていてもちろん気分
は良くないらしく、口元は歪んで見えた。


「そうなんすね、夜久さんの癖に。」


「ね、夜久君の癖に。」


「どういう意味だ、お前ら。」


まあまあ、と困った顔で宥める美月はリエーフ
の分からないところは?と優しく尋ねて来て
くれていて、灰羽はつい身を乗り出した彼女の
柔らかそうな部分が視界に入った。


「灰羽君、よそ見しない。」


「いや、やっぱり美月さんの胸は見ちゃいます
って!」


『えぇっ!?もう、リエーフ!!!』


先程まで同意してくれていた隣は、こういう時
は厳しいらしく、ノートに頭を持ってかれる。
素直な言葉しか出ない後輩は、言い訳も素直で、
美月もそれには慌てて、咄嗟に前を隠した。


「クソ…、あの席が今日程羨ましいとは。」


「虎は、こっちに集中してよね。」


「わかってるよ、お前だって美月さんの隣に
行きたい癖に…って、いでででっ!」


隣のテーブルを羨む横では、山本の余計な一言
に孤爪は口止めをしたいのか、ぎゅっと彼の腿
を抓って、海が集中しようかと向けた笑顔は、
妙に恐ろしかった。


そしてそこから、しばらく真面目な時間が続き、
もう一息の所はあるが、灰羽が覚えるポイント
を何とか理解を示し、美月も黒尾に数学の助け
を求めて、それぞれが理解をした所で、ご褒美
の腹ごしらえをする雑談に変わり、店を後に
する。


「外、めっちゃ寒っ!!!」


『やっぱり、日が沈むと冷え込むね。』


来た時は夕日が差し込んでいた外が一気に暗く
なっていて、自分の吐く息の白さが寒さを余計
に際立たせている。


「やっぱり、美月があったかい。」


『店に出てちょっとしか経ってないのに、
研磨の手冷たい!』


寒さが苦手な孤爪は足早に美月の隣にぴっとり
引っ付いて暖を取り、今までにないスピードに
山本は呆れた顔を見せる。


美月は慣れた様子で孤爪を受け入れて、寒がる
彼の手を興味本位で握ってみれば、ひんやりと
自分の体温を奪われそうになり、孤爪もそれを
気にして、自分のポケットの中に手を入れた。


「そこより、まだ温かい箇所があるっしょ。」


『ひゃん、冷たい!!!クロは何でいつも勝手
に人の足に触るの?!』


「寒い寒い言う癖に、そんな短いの履いてる
牧野さんが悪いと思いまーす。」


「うわあ…、お前なぁ。」


我が物顔で美月の背後に忍び寄せ、黒尾が彼女
の太腿の裏側にむにっと片手で触れれば、その
冷たい刺激にピクっと跳ね、その反応を楽しん
でニヤリと笑い、またお前はと彼らの同級生は、
若干引いた目で見ていた。


「何で夜久さん、嬉しそうな顔してるんスか。」


「タイツの女の子って、可愛くない?」


「女子はハイソックス!!!」


「ああ、またそうやって口論して。」


「なんか、変態ばっかっスね。美月さん、
研磨さんとあっち行きましょ。」


「「リエーフだけには、言われたくねえよ!!」」


夜久と黒尾の言い争いが始まれば、海が止める
前に灰羽が孤爪で美月を挟み、彼女に引っ付く
と腕を組んで自分を棚に上げ、あたかもまとも
な発言をし始めるので、彼に変態と呼ばれて
しまった2人の先輩は怒り出し、ムキになる彼
に思わず美月も孤爪と吹き出した。


『あ、雪!!!』


そんな言葉を遮って、雪は小粒だが東京にも
しんしんと降り始める。


「冬ですな。」『冬ですね。』と後ろにいた黒尾
と言葉を交わして、皆が近寄って極力身を寄せ
れば、寒さは少しだけ凌げた気分になる気が
した。




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