癒しの代表


「おっ、今回も画伯の名作のお出ましか?」


「えっと、今回は柴犬だろ?」


『テカチュウ。』


「待て待て待て、テカチュウにそんな太い眉毛
なんて無いだろうが。」


時間には余裕のあった日曜日。
張り切って今回も美月がお馴染みのものを作り、
飾りのクッキーは、これで三回目となった。


「この調子だと、クリスマス大丈夫?」


『クリスマスは100円ショップグッズがあるから
何とかなるもん!』


「そこは頼るんだな。」


てっきり、芝山の名前にちなんだものを作った
と読んだ夜久が、美月を傷つけまいとそう尋ね
ると、この度も見事にそれは大ハズレ。


耐えきれなくなった黒尾がすかさず違和感を
指摘し、唯一、上手いじゃないかと褒めてくれ
た同級生は海だけだった。


「わー、すごい!ちゃんとテカチュウですよ。」


賑やかな先輩の後ろで、控えめにお礼を言って
微笑む後輩の可愛らしさに、美月は癒されて、
まず1番は本日の主人公である彼にケーキを差し
出した。


『優生君に、今日も癒されようと思います。』


「俺は特に何もしてないのに。」


こちらこそ、いつもありがとうございます!と
真面目にペコペコと頭を下げた後に美味しさで
目を輝かせる芝山に、美月はそういうとこだよ?
とその仕草にまた目尻を下げていた。


「芝山の時だけだよな、美月さんがメロメロに
なってんのって。」


「犬岡にも、よくあんな顔するだろ?」


「え!俺だけっすか!!?」


「日頃の行いでしょ。リエーフが場所とか構わず
に美月に抱きついたりするから。」


同級生に、自分には見せない表情を向けている
のが不服の灰羽が、そう言って不貞腐れている
と、冷静な言葉を容赦なく孤爪が吐き出す。


「だってあんないい匂いを隣でさせられたら、
誰だってむぎゅってしたくなるでしょ!」


「それは…分からなくもないけど。」


灰羽の言い分を完全に否定できない孤爪は、言葉
を詰まらせ、孤爪の普段を知っている黒尾はその
様子を面白がってニヤニヤと笑みを向けていた。


孤爪もまた、美月が自分の隣に座っている時は、
居心地の良さからつい彼女に甘えがちだ。


ついこの前も、炬燵を出した黒尾の部屋で、
黒尾が蜜柑を剥く横で、美月の背中に引っ付い
てゲームをして、黒尾が彼女に渡した蜜柑を
後ろで食べさせて貰っていた孤爪の姿が黒尾の
頭には浮かんでいた。


それを仲間に知られたくない孤爪は、クロ何?
と何も言わせないようにと念を押せば、黒尾も
わかってるよと、孤爪のその反応を楽しむ。


『優生君、ほっぺに付いてるよ。』


「わっ、すみません!」


その間、美月は先にケーキを口にしていた1年生
達を温かい目で見守っていて、来週はクリスマス
が待っていたので、犬岡の時と同じく、ガトー
ショコラにしていたら、芝山の頬についたそれ
を美月は指で拭って、自然と口にしていた。


「美月さん!?」


『しまった、ごめん!研磨と違うもんね。』


「待ってくださいよ、研磨さんはいつもされてる
んですか!?」


美月の突然の行動に、芝山がかあっと顔が赤く
染まって、恥ずかしがる後輩の姿を目にしたら、
彼女も罰が悪そうに謝り、ぽろっと出てしまい、
彼女は咄嗟に口元を押えた。


その名前を聞いた灰羽は目を見開いて、凄い形相
で孤爪に視線を送り、孤爪が頭を抱えている横
では、黒尾はお腹を抱えて笑っていた。


「日頃の行いなんて、関係ないんじゃ…。」


「・・・・・・。」


「ねえ、研磨さん?」


『いや、違うよ!研磨じゃなくて、うちの猫の
ケンミャーの事で。』


「美月、それは無理があるだろ。そもそも
猫なんか飼ってねえだろ。」


「ケンミャーって、ネーミングセンス皆無!」


慌てて墓穴を掘る美月が更に黒尾のツボに入った
のか、ふるふると身体を震わせながら、それ以上
は止めとけと彼女の肩を叩き、孤爪もそのケーキ
を食す輪の中に入って、ヤケ食いを始めた。


「俺達は何も聞いてないですから!」


気を使ってフォローを入れ始める芝山と犬岡に、
こくりと頷いて、孤爪はその優しさがかえって
胸が痛いと思いながら、黙々とケーキを口に
した。


『皆さま、お疲れ様でした。』


その日はやたら、黒尾と灰羽が動かされる日と
なって、久しぶりに黒尾も全力で行ったからか
灰羽と一緒になって倒れ込み、美月がモップ
掛けをしようとすれば芝山達も一緒になって、
彼女を手伝おうとする。


『大丈夫、私がチャチャッと終わらせるから、
今のうちに身体を休めてね?』


「俺はまだ動けるんで大丈夫です!」


「これもトレーニングのうちですから。」


『ありがとう、2人はやっぱり頼もしいね。』


練習内容が以前よりも更にハードになった為、
疲労感を溜めさせないようにと彼女が断ろうと
すれば、まだまだやる気を見せる後輩達は、嫌
な顔をせずに、それぞれが散ってモップ掛けを
開始する。


「俺だって、まだまだ動けますから!」


すると、美月が言った言葉から灰羽も火がつい
て、彼女の持つモップを取って動き始めたので、
仕方なしに彼女も別の作業へ移行すれば、普段
よりも早めに、片付けは終了を迎えた。


『ありがとう、皆のおかげだね。』


「当たり前です、美月さんは今日早起きして
俺の為にケーキを作ってくれたんだし!」


今日は早く寝て、明日に備えてくださいね?と
芝山は美月の疲労を心配して、真っ直ぐな瞳で
貫かれると、彼の純粋過ぎる視線は彼女の心を
射抜いたのか、彼女は耐え切れずにぎゅっと
自分の腕の中に芝山を包んでいた。


『大丈夫です、優生君で元気をいっぱい貰い
ました。』


「わぁ、ちょっ…美月さん!!?」


慣れないその抱擁に、芝山は茹でダコ状態で
取り乱して、仲間も珍しい彼女からの抱擁に
慌てた様子で、2人の元へと駆け寄る。


美月は可愛らしい後輩に夢中なのか、悶絶して
言葉を失い、抱きしめる力は増していく一方で、
芝山が意識しないように心掛ければ自体は悪化。


「ハグなら俺がいっぱいしてあげますから!!」


「後輩を可愛がりたい病が、重症かよ。」


「美月!!!気持ちはわかるけど、後輩を困ら
せたらダメだって!」


「俺、もう限界です〜〜〜!!!」


むにりと当たっているのは完全に美月は無意識。
芝山の場合は、割と穏やかに見守っていた先輩
達もさすがにそれだけは!と必死に彼女を引き
剥がそうとして、芝山の恥ずかしさで嘆く声が
体育館に響く。


ただ、彼女に包まれたその香りと柔らかさは
心地良くて、ほんの少しだけ、彼らの気持ちが
芝山も分かる気がした。


「美月ちゃん、そんなにハグしたいなら黒尾さん
が激しいのしてやろうか?」


「美月こっち。」


「研磨さんもついに我慢の限界が!」






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