選ぶ勇気
「あら、どうしたの美月ちゃん。スカート
なんか履いちゃって。」
『せっかくアリサさんが選んでくれたから、
こういう時に履かないともったいない気がして
…って、変かな?』
「いや、ちゃんと似合ってる。」
冬休みに入り、買い出しもあってこの日曜日は
休みとなっていた。
以前、アリサと購入したそのスカートを冬物の
モコモコのニットと合わせて、迎えに来てくれ
た黒尾の前に現れれば、珍しい美月の姿に彼は
きょとんとした顔で見つめた。
花火大会の時に学んだのか、美月の質問には
素直な感想を応えて、その返答が逆に予想外
だった彼女はむずむずと口元を動かし始める。
「ぷっ、何だよその顔。」
『だって、クロに褒められ慣れてなくて。』
「じゃあ、もっと言おうか。普通に可愛い。」
だから、攫われんなよ?とさらりといつも通り
の過保護な発言もあえて加えて、恥ずかしがって逃げ出さないように、彼女の手を引くと、
そのまま外へと連れ出す。
真っ赤な顔を見られたくなくて、黒尾は1歩先を
歩き出していた。
慣れないブーツは少しだけヒールがあって、
歩きやすさはあっても、歩幅はいつもよりも
小さかった。
必死に歩く美月を見ると、愛しさは余計に黒尾
の中で増して、彼女のペースに合わせてゆっくり
進み、デート気分のその道中に足取りが軽く
なる。
「今日はゆっくり満喫するか。」
『それ、いいね。賛成!』
クリスマス前の買い物はパスと携帯ゲームを
片手に顔を顰めたもう1人の幼なじみには感謝。
一応、期限を損ねないように手土産のアップル
パイは頭に入れておいて、予定の行先は変更し、
反対側の電車へと乗る。
日曜日のその時間も混み合っていて、彼女が
押し潰されないように守って、普段は手を繋ぐ
事を恥ずかしがる美月も、今日はそんな男女が
多い故に目立たないからか、はぐれない様にする
事に一生懸命で、彼女の方から握り締めていて、
黒尾は胸を弾ませた。
『クロ、ちゃんと傍にいてね?』
「ねえ、それは無自覚…ですよね。」
満員電車の不安にさらりと言ってきた美月の一言
が刺さった模様で、黒尾は心を鎮めようと顔を
上げ、電車の広告へ意識を向ける。
これは、絶対に今日の服装のせいもある。
いつになく、仕草が可愛らしく見えてしまう度
に黒尾は目頭を押さえて、美月は不思議に思い、
首を傾げていた。
『何か、今日のクロは変だよね。』
「ウン、ダイジョウブ。とりあえずそっとして
くれればいいから。」
彼が冷静に戻れた時は、100円ショップに寄る
時で、キャンドル、紙皿、オーナメント、それ
と壁飾り。
赤、緑、白、と色々なデザインの装飾に目移り
しながら、ああでもないこうでもないと頭を
悩ませ、今はケーキの飾りを睨めっこしていた。
「んなもん、食ったら全部一緒だろ。」
『もう。またそうやってムードもないこと言い
出すんだから。』
真剣な目をしている美月とは反対に、黒尾は
そういうの、ホント好きね。と何でも良さそう
に、選び終える彼女を静かに待つ。
2日後には美月が1年の中で1番大好きなイベント
が控えていて、その為か準備も念入りだった。
トナカイのカチューシャやサンタ帽もカゴには
入れてあって、彼女の頭は一つしかないのに、
それを誰が被るのかは、もう今は触れまい。
美月が楽しければいいと思ってしまっている彼
は彼女にされるがまま、翌日はそのカゴに入った
被り物をきっと被っているだろう。
すると、ふと黒尾の視界には、向かいの店に
あるアクセサリーショップが入って、そこには
イヤリングが並べてあり、美月の好きそうな
ものも置いてありそうな店だった。
「美月、もうちょい時間かかる?」
『うん。もう少しかかりそうだから、クロも
気になるお店あったら見てきて大丈夫だよ?』
「うん、そうするわ。」
美月がそう言うとまた今度は、部室の大掃除に
使う予定のグッズを見つけてしまったのか、
真剣な眼差しで睨めっこを始め、黒尾ははその
隙にその目に入ったアクセサリーショップに
移動した。
何にでも似合いそうな、猫の形のイヤリング。
それにはキラリとワンポイントあって、背伸び
していないデザインが彼女らしいと思って、
ふとそれを手に取っていた。
「お前、なんでこんな所にいるんだよ。」
「うわぁ、出た。」
「いや、それ、こっちのセリフだから。」
女子の店にそぐわない、長身の野郎たちが遭遇
し、よりにもよってとお互いにげんなりとした
顔を見せ、目的までもが同じことを何となく
察した彼らは、互いに手に取っているものを
見つめ、黙り込んだ。
ああ、そっちもか。
大将もこの場には一人でいて、彼女の為にここ
まで足を運んでいて、まさかの選ぶ店まで自分
と重なるとは思ってもみなかったのか、あから
さまに嫌そうな顔をして、口元は引き攣って
いる。
ちなみに、今の黒尾は彼と全く同じ表現だ。
「ミカちゃんの為に、優しい彼氏じゃん。
ネックレスとか束縛激しいね、優クンは。」
「鉄郎クンこそ、美月ちゃんと付き合ってもない
のに、アクセサリーとか愛が重いねー。」
そしてニヤリと一言、それぞれが嫌味をつけ
ながらも、勇気のいるレジまで小突きながら、
2人揃ってレジに足を運ぶ。
「「プレゼント用で。」」
そして何故か声を揃えて店員に差し出し、その
光景を目にした周りの女性からは、クスクスと
笑い声が聞こえていた。
幸い、美月はその頃お掃除用品に夢中だった
ので、その目立った様子は知らなかった模様。
「またフラれないように、気をつけてね?」
「うるせえ、お前も嫌われてしまえ!」
ラッピングが済んで、お互いに素直じゃない
別れの挨拶が済んだ頃には、美月も必要な物を
買い終えていて、アクセサリーショップの前で
ただ待ってくれていると思っていた彼女は黒尾
に声をかけ、黒尾がポケットに急いでしまう頃
には、大将の姿もそこには無かった。
『ごめんね、クロ。お待たせ!』
「結構買ったな、ほれ袋貸せよ。」
『ありがとう。』
美月が両手に持った袋を奪って、彼はまた彼女
の手を握った時には、もう彼らしくないぎこち
なさは無くなっていた。
それよりも、2日後にはもっと緊張する場面が
待ち構えているからか。
それはまたその場面が来たら考えようと、彼は
もう少しだけデートを堪能したくて、次は近く
にあるカフェへ行こうと提案すると、美月は
嬉しそうに目を輝かせていた。
「美月ちゃん、あそこのパフェ食べたくない?」
『すっごく食べたい!あ、それならお土産に
研磨にアップルパイ買って帰れるね。』
「おっと、忘れてたわ。」
『クロ、研磨が拗ねちゃうよ?』
そんな中、彼はまだ他の恋敵達も動き出して
いた事をこの時はまだ知らない。