宣戦布告


「これ、美月に似合いそう。」


黒尾が、密かにプレゼントを用意していた頃。
彼とは別の場で、彼と同じ事を考えていた一人
の男は、とある店でマフラーを手に取り、睨め
っこをしていた。


突然のプレゼントに驚かれるかな?と少し頭を
悩ませるが、いつも色々として貰ってばっかり
なので、こういう時こそ何かを贈りたい。


そんなことを考えていた夜久は、集中していたからか、1歩下がった時に誰かとぶつかってしま
い、ぶつかった相手に謝れば、聞いたことのある
声がして、相手も小さく驚く声を上げていた。


「まさか、こんな所で会うなんて。」


「おう、赤葦。久しぶりだな。」


「夜久さんは、可愛いらしいマフラーするん
ですね。」


「違う!これは別の人用っつーか…赤葦もその
ブックカバーは意外だな。」


「俺もこれは、とある人用に。」


目の前にいたのは、この店にいるのが意外な人物
の赤葦京治。
察しのいい2人は、互いに手に持つもので何かに
気がついたようで、はっとお互いの発言に言葉
を詰まらせる。


「美月さんに似合いそうですね。。」


「そっちも、よく知ってるな。」


どちらも、彼女はきっと喜ぶものだろう。
彼らは相手の手に持つものを見て、そう言葉を
残し、2人はそのまま会計を済ましてラッピング
もして貰って、その場は穏便に別れた。


そしてそこから数日経ったクリスマスイブに、
夜久は彼女に渡そうと、この前準備したマフラー
を持ってきていた。


「美月さん、これから旅行ですか?」


美月がいつもより大きめのリュックで帰ろうと
していたのを灰羽が不思議に思い、声を掛けて
いた。


『違う違う、明日もちゃんとここに来るよ。』


「にしても、荷物が多くないですか?」


『今日は、雪絵ちゃんちにお泊まりだから。』


クリスマスイブにやっと、彼女達は春高出場の
お祝いを兼ねて女子会をするらしく、美月は
それを楽しみにしていたのか、嬉しそうに笑い、
いいですね!と灰羽も言葉を返した。


彼女は、梟谷学園の近くの駅で待ち合わせして
いるらしく、赤葦もその情報は耳に届いている
のかもしれないと夜久はふと考えてしまう。


「美月、これ受け取って!で、直ぐに開けろ。」


渡すことに迷いを見せていた夜久だったが、2人
の会話を耳にしたら、居ても立ってもいられなく
なったのか、直ぐに自分のカバンの後ろに隠して
いた紙袋を取り出して美月に手渡し、受け取る
美月は突然の出来事に戸惑いながら紙袋を見た。


『うん?…失礼しまーす。』


夜久に急かされて、混乱しながら包装紙を綺麗
に開けると、そこには彼女好みのマフラー。
美月が感激の声を上げる間もなく、夜久はすぐ
にそれを手にして、まだ何も巻いていなかった
彼女の首に、ぐるぐると巻き始めた。


『やっくん、これはすっごく可愛いし、嬉しい
んだけど、突然どうしちゃったの!?』


「これは、お守り!」


『うーん?プレゼントじゃないのか。』


「深く考えなくていいから、似合うと思って
買ってきただけだし!」


『うん、やっくんが選んでくれたんだよね。
大切にするよ。』


巻かれた部分を大事そうに手に持って、ふんわり
と笑いかけてくれた瞬間、夜久の心に落ち着く
温かい気持ちが流れてきた。


「あ…うん、引いたよな?ごめん、いきなり。」


『引かない、引かない!明日張り切って
美味しいケーキ、作って来るね!』


「…うん、待ってる。」


彼女がそっと触れた部分がマフラーから夜久の
手に変わって、目を真っ直ぐ見つめられてしまう
ものだから、冷静に戻った夜久は急に照れ臭く
なってしまい、そこから視線を下げた。


手を握り合う二人を見ながら、真っ先に止める
はずの黒尾が、今日は腕を組んで静かに見届け、
孤爪はどうしたの?と黒尾に尋ねれば、彼は
なるほどね。と言葉に出すだけ。


先程の美月に柔らかくも、半分命令口調だった
のも珍しかったのに、強引にそのプレゼントを
身に付けさせるのが珍しく、夜久の余裕のない
行動を見て、黒尾と孤爪は何かを感じ取り、
苦笑いを浮かべていた。


「アイツ、誰かにあったな。」


「みたいだね。」


自分だけで無く、夜久まで準備をしていた事に
は驚きだが、今は自分の代わりに魔除け的な
行動を取ってくれた事には感謝。


それは効果覿面だった模様で、美月が皆と別れ、
待ち合わせ場所に向かえば、白福達よりも先に
その場に訪れていた赤葦は、その彼女の姿を
見て、彼は眉間に皺を寄せる。


「しょうがないけど、先を越されたか。」


『京治君、偶然だね!今何か喋った?』


「なんでもないです、こちらの話ですし。
白福さんから聞いて、美月さんに会いたかった
から会いに来ました。」


『そうなんだ、私も会えて嬉しいです。
タイミングがラッキーだったね。』


木兎の目を盗むのは大変だったが、彼女を目の
前にすると、その疲労も気が付くと何処かに
飛び、この前のお礼ですと赤葦が紙袋手渡す
と、なんの事やらと美月が首を傾げれば、この前
会った時の事だと言われ、受け取った彼女は
慌てる。


『そんなそんな、気にしなくていいのに!』


「俺が美月さんの喜ぶ顔が見たいだけだから。」


『京治君、優し過ぎるよ。』


「知ってますか?美月さんは、もっともっと
優しい人なんですよ。」


赤葦はそう言うと、美月の手を被せる形でぎゅっ
と握り締めた。
赤葦の大人びた笑い方に、何処に視線を向ける
のが正解か分からない彼女は、困り顔で結局
赤葦の目を見つめると、赤葦は目を細めて
開けてくださいと言った。


『じゃあ、お言葉に甘えて…ってこれ可愛い。
サイズ感もいい感じ!』


「美月さん、俺と同じ文庫本の持ち運びやすい
タイプが好きでしたよね?」


『すっごく、好きです!』


そこからは、少し好きな本のタイプの共通点で
盛り上がり、はっと美月はその会話の途中で
何かを思い出し、鞄から急いで一冊の本を取り 出した。


『これ1回読んじゃったものになるけど、今は
とりあえず受け取ってください!
京治君の好きそうな本もまた選びますから。』


「はい、また美月さんに会えるのであれば、
喜んで受け取らせていただきます。」


その一冊は、自分と美月を特別なその日に巡り
合わせてくれた思い入れのある小説。
そのタイトルを見たら、あの時の嬉しかった
瞬間を思い返せて、赤葦の胸は弾んだ。


このまま彼女を連れ出せたらいいのにと、欲を
出してしまったら、楽しい時間はまもなく終了
を迎える。


「あ、美月ちゃん発見!」


その音は自分のよく知る先輩の声で、木兎が指
を指しながら2人の元へ向かうと、良い雰囲気
だったのにと、赤葦は心の中で悪態を吐いた。


「クリスマスに美月ちゃんに会えるなんてラッキー!」


「木兎さん、今日はイブです。それは明日です。」


「細かいことにいちいちうるせえよ、赤葦は!」


お前ばっかりずるいだろ!と、木兎は赤葦の
帰りの支度がいつもに増し更にスピードアップ
した理由をそこで理解したのか、口を尖らせて
不服そうな顔を見せ、その後には美月に嬉しそう
な笑顔を向けた。


『ふふっ、相変わらず仲良しだね。私も木兎君
にも会えてラッキーだったな。』


「美月ちゃんへのプレゼントは用意出来てねえ
から、とりあえずハグしとくな。」


『ええっ!?ちょっと流石に人目が!!!』


この人は、何もなしにして大胆な行動を。


どうやったらその流れでそうなるんですか!と
赤葦が指摘する前に、木兎は先に行動に出て、
顔を真っ赤にする美月に構わず、嬉しそうに
腕の中にすっぽりと収めていた。


「美月ちゃん、色々あってご無沙汰だったから
補充。」


『木兎君はここだと有名人だから、周りの視線
が痛いよー!』


黒尾が不在の今、止める人物は赤葦しか残って
おらず、自分がこの後したかったやり取りを
奪われた怒りもあって、木兎を引き剥がそうと
する力は自然と強くなっていた。


「木兎さん、美月さんが困ってますから。」


「いででで、赤葦、加減!腕もげる!!!」


ずるずると彼を引き摺って、そうすれば白福達
もやって来たので、ホームまで仕方なく赤葦は
向かおうとする。


『明日、そちらにもお裾分けあるからね!』


美月が赤葦にお礼を言いながら、付け加えた
言葉の意味は、その次の日に理解して、白福の
持ってきた白い箱に野郎達が目を輝かせる。


「俺のハグのおかげかな!?」


「何言ってるんですか。」


イチゴの乗ったそれは、白福達と楽しく作った
と説明を耳にしながら、その一口の幸せを噛み
締める。


木兎と赤葦は、その味にまた彼女を恋しくなっ
てしまった。





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