密かに贈る


『クロ、もしかして迎えに来てくれたの?!』


「ここの線が結構混み合うの、お前忘れてた
だろ?」


楽しかった女子会はあっという間に翌朝を迎え、
白福達とは別れた所で、一人駅まで向かえば、
ホームで黒尾が待っていて、驚く美月に黒尾は
そう答えると、彼女が運んでいたケーキは彼に
奪われた。


「これもせっかく作ったのに、潰されたら嫌だろ
うし。」


いつもより早起きをして、彼がわざわざここまで
足を運んでくれた事を申し訳ないと思い、返す
言葉を美月が迷っていると、電車はすぐに来て
しまった。


「俺がここに来ないと納得いかなかっただけ
だから、余計なことは考えるの禁止。」


『ありがとう、クロ。』


彼の優しさに感謝して、美月が見上げれば、黒尾
は目を細め、彼女の背中を押し電車に乗り込む。


「やっぱ、付けてんだ。」


夜久が、昨日彼女にプレゼントしたマフラーを
身に付けているのを目にすると、気に入ら無い
が、彼女に風邪を引かれては困るので、今は
文句無しに飲み込んだ。


黒尾は、ケーキが潰されない位置を確保すると、
美月も潰されない様に、彼女の腰元に腕を回す。
その安心感に、美月は彼に身を寄せ、彼の制服
を掴み、しばらく電車に揺られていた。


「美月さん、待ってましたよ!…ってなんだ、
今日も黒尾さんと一緒なのか。なんか、
黒尾さんちょっと、顔赤くなってません?」


「ああ…ちょっと暖房きつかったからかな。」


てっきり、黒尾と美月達が別々で来るものだと
思っていた灰羽は、待ち遠しい彼女の登場に扉
に顔を向けると、今日は口煩い先輩のいない間
に彼女に甘えようとしていたのか、彼女の後ろ
から現れた先輩の存在を確認すると、少し残念
そうに肩を落とす。


普段なら、なんだとはなんだと怒り出す黒尾も、
先程の一緒に電車に乗った際の自分を必死に頼る
美月の仕草を可愛らしいと思ったのか、熱を下げ
ようと彼は冷えた手を首元にあて、視線は質問を
する灰羽から、そらしていた。


『なんか、クロがいつもよりも大人しい。』


「何かありました?」


『何も何も。』


ずっと彼の隣を歩いていた美月も不思議に思い、
黒尾のぎこちない仕草を見上げて、灰羽にそう
聞かれるとブンブンと首を振る。


「美月のケーキ、早く食べたい。」


すると、待ちきれずに珍しく早い時間に部室に
やって来ていた孤爪が、灰羽の後ろからにょき
っと顔を出し、灰羽も気配を消して彼がここに
顔を出したので、驚く声を上げた。


『ちょっと待ってね、すぐに準備しなきゃ!』


美月は孤爪にそう言ってにっこりと笑顔を見せる
と、未だに大人しい黒尾を心配に思ったのか、
彼と同じくひんやりとすっかり外気で冷えて
しまった自分の手を彼の頬にぴたりと添える。


「なっ!お前何すん…。」


『うん、熱は無いみたいだね。よかった、
私のせいで風邪引かせたかと思った。』


「そんなヤワじゃねえよ。」


動揺を見せる黒尾に美月は構うこと無く、仲間
の体調に異常はないことを確認すると安心して、
彼と一緒に中に入ろうと呼びかける。


続けて、『クロがいて助かったよ?』とお礼を言われると、黒尾も目を細めて、ケーキを待ち
詫びる後輩達に、じゃーんと自分が持つそれを
差し出していた。


「美月さん、今回のケーキ可愛いですね!」


『ありがとう、今回は結構自信作!』


「画伯シリーズが無いのも、なんか寂しいな。」


誇らしげに胸を張っている美月の前には、白福達
と楽しくデコレーションした、真っ白なホール
ケーキが置かれていて、すっかり彼女の手作り
クッキーが自然と楽しみになっていた黒尾は、
もの寂しそうにそれを眺めた。


「美月のクッキーも面白いから好きだけど、
これはこれで、めっちゃ可愛いから俺は好き。」


「夜っ久んは、またそうやって株を稼ぐ…。」


『今回は梟谷マネちゃんのセンスも混ざって
ますからね。だからきっと、美味しさ2倍。』


美月の言う通り、見た目以上に味もばっちりで、
その美味しさに黙々と食べ始める後輩達を満足
そうに眺めて、お楽しみの皆のプレゼント交換
は練習の後に行われた。


「研磨さんと美月さんからのプレゼント以外、
みんなバレー用品じゃないっスか!」


「だって、合理的かなと思って。」


「俺は美月が当たったら困るだろうから、違う
ものにしただけだし。だから、俺のが当たった
人は美月と交換してもらう予定だった。」


「それだと、プレゼント交換になんねえだろ!」


『だとしたら、私に来てよかったね。』


音楽がストップして、それぞれが自分の元に届く
と、灰羽がそれぞれが開けたプレゼントにそう言い出せば、孤爪の言葉を山本が突っ込んだ。


たまたま、孤爪のプレゼントが美月の手元には
届いていて、プレゼント交換は無事に済む。
孤爪彼女に向けて贈ったものは手袋で、夜久の
マフラーと被らなかった事にホッとした様子だ。


『研磨とやっくんのお陰で風邪引かないや。』


「俺も、大切に使わせて貰おう。」


美月からは、猫のマグカップとタオル。
彼女の用意したプレゼントを受け取ったのは、
どうやら海だった様で、何故か申し訳無さそう
に笑い、周りは羨ましさはもちろんあるが、彼
が受け取ってくれるのが、1番心が平穏だと納得
していた。


『ふふっ、あったかい。』


早速、2人のプレゼントを身に付け、クリスマス
関係無く、本日は遅い時間まで練習をしていた
彼らは、すっかりと冷えきって暗くなった夜道
を歩けば、灰羽はその姿を見て、悔しくなった
のか、手をポケットに突っ込んで、道端の石を
蹴る。


「なんか、夜久さんと研磨さんばっか美月さんに
格好良いトコ見せてて、悔しい。」


「美月が使ってくれてるの見ると、やっぱ嬉しい。」


「うん、いっぱい使ってあげてね。」


「俺も、何かプレゼントしたかった!」


『もちろん、大切にする。リエーフは気持ち
だけで充分嬉しいからね?』


夜久と孤爪の言葉を聞けば、余計に灰羽の中の
悔しさは増すのか、口を尖らせる。


本当は赤葦を見ていた夜久は心穏やかでは無い。
でも、彼女の柔らかく笑うその表情を見れば、
今は彼も心穏やかに過ごせていた。


自分と同じ立場であろう、彼女達の後ろを歩く
黒尾が全く苛立つ様子を見せないので、灰羽は
本当は黒尾の体調が悪いのでは?と不安そうに
彼を見ていた。


「あ?どうしたよ、リエーフ。」


「一番騒ぎ出しそうな黒尾さんが静かだから。」


「大人の余裕ってやつ?」


「どの口が。」


夜久の冷たい言葉に孤爪が吹き出すと、黒尾は
歩く足を速めて、美月の隣に屈みこみ、彼女
の耳元で「ポケット。」と一言囁いた。


『ポケット?』


その意味を理解していない彼女は、黒尾にポン
と制服のポケットを叩かれ、手袋を外して自分
のポケットに手を伸ばすと、何かがある感触。


『え、嘘…クロってマジシャン?』


「そこはサンタって言いなさいよ。美月が変な輩
に騙されないか心配。」


彼女がいつ黒尾がポケットの中に忍ばせていたのか分からずで、目を大きく開き、感動混ざりで
彼にそう尋ねれば、その反応に黒尾は笑った。


ふるふると喜びで震える手を上から被せて、彼
は開けようと美月を見て、その反応が2人きり
だと色々危なかったと考えながら、彼女の手を
止める。


「無くすといけないから、帰って開けなさい。」


『そっか、小さいものだもんね。』


「…まあ、そんなとこ。」


プレゼントしたものがアクセサリーだと周りに
知られるのは照れ臭くて、彼は再びそれを彼女
のポケットに再びしまって、耳まで赤いその顔
を見られたくなくて、先々歩き出す。


「アイツの様子おかしいのは、そういう事。」


「妙にそわそわしてるとは、思っていたけど。」


堂々プレゼントした組は、美月へのサプライズ
を狡いといった様子でじっとりと見つめていて、
彼らよりも更に不機嫌になる男は、もう1人。


「いいです、俺は美月さんに愛をあげますから!」


黒尾と美月の間に割り込んで、灰羽はすっかり
寂しくなった様子で大きな身体でむぎゅっと彼
女を包み込む。


「お前、危ねぇだろが!」


「黒尾さんはもうカッコイイ所見せ過ぎだから
もうダメです!」


今は上下関係を無視して威嚇する灰羽は、彼女を抱きしめる力を強めて、甘えん坊になる後輩
を困った顔で宥める。


そこからはしばらく賑やかに帰り、帰宅して1人
部屋で黒尾のプレゼントを開けた彼女は、再び
初めて贈られた品物に目を丸くさせた。


『凄く、可愛い。』


翌日、2人が目を合わさずにもじもじとすれば、
孤爪も不服そうに彼女の手を引いた。





top