行き先は何処へ


「やっぱ、大きい方がご利益ありそうだろ?」


「いや、地元の方が楽なんじゃないの?」


午前中で練習が終わった帰り道に、初詣をまだ
終えていない彼らは、参る場所を話し合って、
夜久の提案を黒尾は、イマイチと言った反応を
見せていた。


「俺は付き添い頼まれてるんで、パスで。」


「俺も同じく。」


彼らと同じその場に一緒に参加したいが、先に
決まっていた約束を断ったら恐ろしいと山本と
灰羽は片手を上げながら先に先輩にそう告げて、
それならと決定権を委ねられ、2人の視線が集中
した美月は、『私!?』と驚きの声を上げた。


『んー。静かなお参りも好きだし、屋台が並ぶ
大きい場所も楽しそうで捨てがたい。』


腕を組んで真剣に悩み、結局選びきれない美月が
困っていると、その間福永が鞄からティッシュ
とマーカーを取り出して、彼女の為に2択のクジ
を作ってくれていた。

「福永さん、何で鞄の中に赤いマーカー持ってん
ですか?」


「よせ、リエーフ。突っ込んだら負けだから。」


「これで、赤が出たら浅草寺!」


「じゃあ、白なら地元のトコな?」


「浅草寺は遠いから面倒臭い、俺はパス。」


『えー、責任重大じゃん!』


そうは言っても時間は刻々と過ぎるのであって、
せっかくの貴重な半休が勿体無い。
意を決して美月が引けば、そのティッシュの先
は、赤く染まっていた。


「はい、決定な。」


帰宅すれば、待ちに待ったお取り寄せのお気に
入りのブランドの福袋が届いていて、コーディ
ネート考える時間も惜しい彼女は、タイミング
感謝して、直ぐにそれを身に纏う。


『あ!そうだ、せっかくだしね。』


美月を迎えに来てくれた黒尾が、彼女の初めて
見る格好に動きが止まり、耳につけているそれ
と似合っていて、彼は目を泳がせた後に口元を
押さえて俯いていた。


「マジか…。」


白いケーブルニットの下にはキャラメルカラー
のプリーツスカート、そして防寒対策も忘れず
ショート丈のダウンを身に纏い、ふんわりした
装いとそのイヤリングが彼女に似合っていて、
黒尾の好みに刺さる。


『クロがプレゼントしてくれたコレ、やっぱり
可愛い。』


黒尾が唯一理性を保てているのは、夜久が美月に
贈ったマフラーも身につけているから。
しかし誰にも見せたくないのは変わりなくて、
夜久との待ち合わせ場所に到着すると、さっと
我が身を盾にして、夜久から美月の姿を隠した。


「あ?黒尾はさっきから、何やってんだよ。」


「やっぱり、帰ってもいい?」


「お前、ここまで来てそれを言うかよ。」


『クロ、前が見えないから!』


「美月…、めっっちゃ可愛い!」


『えっ、うん、ありがとう。』


「ほら出た、コレだよ。」


だから行かせたくなかったんだと、黒尾は夜久
のリアクションが想定内だったらしく、嫌そう
に顔を歪ませる。


「何だよ、素直な感想を述べたらダメなのか?」


美月の姿に目を輝かせた後で、黒尾の表情を目に
したら、夜久も黒尾をじっとりと冷たい視線を
向けて、2人は見つめ合う。


『ほらほら、時間が勿体ないから行こ行こ!』


挟まれた美月は、口喧嘩になる前にと2人を引導
して、目的地に向かおうとする。
すると、ふと夜久は彼女の耳元に目が入って、
それを褒めれば、その隣で黒尾がむずむずと口を動かしたのを見逃さなかった。


その反応で、あの時の黒尾からの贈り物だと気が
付いた彼は、彼女の手を引いて歩き出す。


ここ最近、ヤキモチを妬いたみっともない姿を
見せることが多く、夜久はそれも嫌で、表情を
美月に見らないように前を向いた 。


「夜久君も可愛いとこあるよね?」


「お前に言われても全然嬉しくねえ!」


黒尾も逆に彼のその異変に気がついて、茶化しながらそこを弄れば、彼は黒尾にそう言うと、
「お互い様だからな?」と一言吐いてから歩き、
今は休戦を2人だけで誓った。


2礼2拍手1礼と、お賽銭に小銭を投げて祈る事
は同じで、何を願ったか告げなくてもわかる彼
らは笑い合う。


『どうしよう、御守りは買っておいた方が良い
のかな?』


「美月が作ったやつがあれば無敵だって!」


「ご利益の大きい場所を気にしてたのは誰よ。」


参拝した後にふと、美月が気になった事を口に
出せば、夜久は迷うこと無くそう答え、黒尾は
夜久に苦笑いを浮かべながら、「御守りの持ち
過ぎはかえって良くない」と夜久の言った事は
肯定をする。


「それより腹減ったから、何か買おうぜ。」


「あそこに人形焼があるぞ?」


口を開けば言い争いが起こる2人は時折こうして
意気投合する事もあったりして、目に入る店が
同じ2人はそのまま人形焼の売る売店へ立寄り、
分け合って人形焼きを食べ始めた。


『もう、さっきまで喧嘩していたのに。』


待ち合わせ場所で、美月には理由の分からない
言い争いを繰り広げていた癖に、今は人混みの
中なのもあって、黒尾と夜久の2人が身を寄せ
あって仲良く食べている似た者同士の2人を見る
と、何故か面白くなって、美月は2人の後ろを
歩いている、思わずクスクス笑いが出てしまう。


「美月、何笑ってんだ?」


『2人共、今は仲良しだなあと思って。』


「失礼な、俺達はいつも仲良しですぅー。」


それを夜久が不思議そうに首を傾げれば、隣の
黒尾は不服そうに言い返し、美月の口の中に
人形焼を放り込んだ。


『あふっ、ちょっほクロ!』


「それ食ったら、温まるだろ?」


「お前は、ほんとにいきなりだよな。」


予想よりも熱かったそれに美月は戸惑うと、黒尾
は楽しそうに笑って、3人でその美味しさを一緒
に分かち合う。


まったりのんびりこのまま残りの時間は浅草を
散策…と、そう考えていたのだが、2人は目の前
でいきなり立ち止まった。


黒尾の背中に不意に鼻をぶつけてしまった美月
は、自分の鼻を痛そうに擦る。


『クロ、いきなり何…?』


と彼女が言いかけて、その口を紡ぐ。
目の前で知った顔のとあるカップルの痴話喧嘩
が聞こえてきてしまい、聞こえた内容が邪魔を してはいけないものだと思った美月は、自分の
口を咄嗟に塞いでいた。


痴話喧嘩の原因は、何故か自分達の学校の名が
出ていて、どちらかといえばその人物の彼女の
方が怒っていて、内容を耳にするとどうしても
彼女側の気持ちに寄り添ってしまう。


その彼女の可愛らしい発言を耳にすればする程、
美月は胸を締め付けられ、申し訳ない気持ちで
眉を下げていた。



「少女漫画ですな。」


「そうですな。」


このまま自分達は引き下がるべきだと2人の服の
裾を掴んで行き先を変えて退散しようとしたが、
時は既に遅い。


どうしても、彼を目にすると一言余計に発して
しまう黒尾は、夜久と人形焼を頬張りながら
会話をし、その声でそのカップルは振り返り、
残念ながらもこちらに気がついてしまった。






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