遭遇の災難
遠くから互いに目が合った瞬間、馴染みない2人
が素早く息の合う行動を取ったのだが、それは
悲しくも意味をなさなかった。
こっちに来ないでください。
そっちに行きたくない。
何より、この人を避難させねば!!!
仲間達と春高グッズの売り場へと向かう途中、
他校の先輩からの謎の押し売りから逃げ切ろう
とした途中、孤爪と月島は互いの立ち位置を確認
して、目線だけで合図を送り会っていた。
孤爪の隣には会いたかった人物が笑っていたが、
その後ろには面倒臭い人物もしっかりといて、
月島の癒しは絶対に掻き消される。
今自分の目の前でお土産をああだこうだと冷や
かしてくる梟谷の先輩方に近づけさせたく無い
と考える月島は、彼女と会話出来るチャンスを
名残惜しくも諦めた。
孤爪も自然と目線を逸らすので、それに安心した
矢先、犬岡の大きな呼び声が聞こえてきて、2人
はガックリと肩を落とすのだった。
「何やってんだよ。」
『あ、蛍君だ!良かった、会う事出来たね!
さっき、入場の時はバッチリ見届けたよー。』
月島にとって、こちらに向かって来ているのは
まさに天使と悪魔。
孤爪は自分のせいじゃないと言いたそうに、
静かに後ろに引っ込んでいる。
ニヤニヤと不敵な笑みを見せる黒尾の前には、
美月が月島に会えた事を嬉しそうに、ひらひらと
彼女は彼に手を振っていた。
「美月ちゃんだ!」
『木兎君もお疲れ様!木兎君達もお買い物?』
「そんなとこ!んで、ツッキーにさっき会ってさ…。」
「で、何を買いに来て絡まれてるわけ?お登り
カラス君は。」
『もう、クロは意地悪な言い方しないの!』
返すとしたら、彼女に1番に返事を向けたかった
のに、やはりその後は木兎が彼女の名前を呼び、
悔しいことに邪魔が入る。
会ってすぐに彼女に抱きつこうとする木兎を赤葦
が先手を打って阻止をしてくれていたので、そこ
に関してのストレスは無かったが、彼の中に
モヤモヤとした気持ちは生じていた。
月島が複雑な表情でむずむずと口元を動かすと、
黒尾はそれを楽しんでいて、余計な一言を自分に
付け加えた。
「いえ、べつに…。」
美月と会話する機会は、きっとこの先もあるから
と判断した月島は、今はこの場から立ち去る事
を優先しようと決意する。
素っ気ない返事で目のあった彼女に忘れず一礼
をして、このまま姿をくらまそうと彼は企むが、
それもまた、木兎によって阻止されてしまうの
だった。
「えっ?ツッキーは兄ちゃんにお土産買うって
言ってただろ!?」
『お兄ちゃん…?』
月島は音駒のメンバー達と出会う前に、家族へ
の土産だと伝えたはずなのだが、木兎の中では
勝手に兄に変換されて、逃げ場を失った彼は、
黙り込むしか出来なくなる。
不思議そうに首を傾げる美月の隣で「へえー」
と黒尾に月島の予測通りに口角を上げ、月島は
その表情に顔を顰めた。
「やっぱりツッキーは末っ子だったか、どおり
で。」
『蛍君はお兄さんがいるんだね!そっかそっか。
蛍君はお兄ちゃん思いなんだね。』
優しいんだと褒め出す美月に、こちらが問い
たくなるワードを残し勝手に納得する黒尾。
長い間同じ土地で育っていても、こうも印象が
違うものなのかと月島は考える。
黒尾に何が言いたいのかと月島は言いたかった
が、そんな事を口にすれば帰って面倒臭くなる
のは安易に想像付いたので、人の気も知らずに
勝手に会話し始めた木兎と黒尾は無視をして、
彼は赤葦と美月の会話に意識を向けた。
「美月さんも何か買われるんですか?」
『それが、どうしようか悩み中なんだよね。
蛍君はお兄さんのお土産、決まりそう?』
「僕もどれにしようか決めてなくて。」
「美月さんなら、真剣に考えてくれるんじゃない
かな?」
『センスは無いから、アドバイスの自信は無い
けど…蛍君、良かったら一緒に見に行く?』
彼女からの嬉しいお誘いに、月島はポーカー
フェイスを装いながらも何処か嬉しそうにして
いて、赤葦は月島がやけに素直だと妬く気持ち
よりも興味の方が今は勝つ。
「俺も見に行こうかな。」
美月と月島なら穏やかに物色出来ると考えた赤葦
も彼らとなら見に行きたくなって、月島も赤葦
なら嫌な気分はせず、それならと再び売店に視線
を向け、先程から自由な会話をしていた先輩達は
未だ賑やかに会話中で、無視しようにも出来ない
状態となっていた。
「ほら、クイズ王とかなれるんじゃねーの?」
正しくは、彼らの会話は美月と交した会話中でも
内容はしっかり彼らの耳の中には入っていて、
自分の観察眼を自慢する黒尾を恥ずかしそうに
彼女は苦笑いを浮かべる。
赤葦は、それに食いつく木兎に冷たい視線を
送っていた。
その木兎の発言に吹き出したのは、福永だけ。
面白かった?と福永に詰寄る木兎を見て、後輩
それぞれがため息を吐いて、美月は木兎君は
相変わらず面白いねと温かく見守っていた。
「つーかお前らはどさくさに紛れて、勝手に人
んちのマネージャー誘拐すんなよ?」
「誘拐だなんて人聞きの悪い。ただすぐそこへ
見に行くだけですよ。」
『蛍君が困ってるから助けようと!』
「お前は、そう言ってツッキーとちゃっかり
お揃いの公式キャラのストラップ買いそう。」
「僕には似合わないと思うんですけど。」
「美月ちゃん、それならエースの心得Tシャツ
買って着ようよ!俺とお揃い!!」
「木兎さんは、まだ言ってるんですか…?」
『私にエースの心得は恐れ多いなぁ。』
「美月ちゃんが、俺の着てくれてる…!?
ってなるじゃん。」
「「いや、お前だけのシャツじゃねえだろ。」」
腕を組んで美月が着用する姿を勝手に想像して
頷く木兎に対して、黒尾とその会話の流れを聞い
ていた木葉もチームメイトの発言を突っ込まず
にはいられなかったらしく、黒尾と2人揃って
指摘をし、それでも木兎はマイペースにハッと
目を大きく開けた。
「それがもし、俺のサイズだったら…最早それ
は彼シャツじゃん?!」
「またこの人は…。」
「美月、俺も気になるのあるから一緒にあっち
行こう?」
『研磨が珍しいね。』
勝手に想像を膨らました木兎は止まらない。
また始まったと赤葦は頭を抱え、くだらないと
月島もまた黙り込んで、孤爪は嫌な予感がする
と美月を避難させ、木兎のその発言よりも前に、
夜久達の所へ自然にフェードアウトさせていた。
「木兎…お前アレはだもんな、知らねえだろ。
サイズアウトしたシャツを着た美月の姿を。」
美月がその場から離脱したからか、誇らしげな
顔で、彼女をよく知るその男も腕を組み、それ
は普段より小さいサイズのTシャツを着た時の
彼女を言い表していたらしく、ふふんと黒尾は鼻を鳴らし、木兎を煽り始めた。
「…まあ、そうだよな。知らねえもんな、
想像もさせねえけど。」
「…確かに、大きめシャツの美月さんも布に
余裕が無い美月さんもどっちも捨て難い。」
「…赤葦さん?」
「うるせー、俺は断然彼シャツ派だっての!」
黒尾はひたすら意味深な言葉を並べて、これは
牽制だと察した月島の隣では、それに動じぬ
様子で、木兎に呆れた言葉を向けていた赤葦が、
黒尾の一言で突然の真顔に変わり、月島は急に
静かに悩み始める彼に呆然とする。
すると木葉も「ヤバ、想像するわ。」と吐き、
周りもどっちが好きかとざわつき始め、そこから
先は大きめシャツ派か小さめシャツ派かといった
年頃の男子らしい話題に。
先輩達に付いていけない月島は、くいっと眼鏡
を上げて誤魔化していたが、余計なちょっかい
をかけてくる黒尾は彼の動作を見逃さない。
「ムッツリツッキーは、想像しちゃダメよ?」
「なっ!?しませんよ!!!」
遠くで、孤爪と平穏に買い物をする姿が視界に
入り、あちら側へと逃げ出したいと願ったが、
先輩達はまだしばらく、逃がしてはくれない。
もうしばらくすれば、くだらねえ話をするな!
とその討論が耳に入った夜久の怒鳴り声と黒尾
へのキックは間違いなく待ち構えていた。
「いっそ、自分の思うがままに破いてしまえば
良くないですか?」
「赤葦、お前の発想が一番怖いしさせない。」
『ただいまー…って、蛍君の顔赤いよ?
どうしたの?』
「いえ、何でも…無いです。」
「ねえ、もう終わった?」
「ぐはっ、ツッキーも赤葦も孤爪もお前ら
視線が冷てえんだって!」