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ずいぶん似通った異世界かと思いきや、パラレルワールド。今の状態を表すならばそれが一番しっくりくるものなのだろう。

食事後、一通りのやり取りを終えひとまずの共同生活をするにあたっての決まり事をいくつか確認しあった。
費用は全面彼女ーーなまえちゃん持ち、というところが心苦しくはあるがオレの所持品は警察手帳のみ。ひとまずは彼女の厚意に甘えるしかない。
料理はオレ。掃除や洗濯は週一か週二もしくは必要であれば逐一するが気になるようであれば都度自由にして構わない事、個室として二階の部屋を好きに使ってくれと言われた。外出はオレのタイミングで一人でもいいし付き添いもする、との事でスペアキーを渡された。
彼女の危機管理能力が心配になったが信用しているという事なのか、はたまた信頼したいという事なのか、どちらにせよ受け入れられているのだろう状況に心が解れていく。

「ありがとう…他にも何かあれば何でも言ってくれ」
「はい。あとは…服ですよね。好みとかってあります?」
「いや、最初に着てた服があるしそれで十分だよ。下着の用意までしてもらったし」
「ずっとスウェット、て訳にも…それに、すごい言いにくいんですけど…その服、穴、開いてますよね…?」

衣服の心配までされたが、替えの下着は既に用意してくれているし初日ーーと言えばいいのだろうかーーに着ていた服はあるので当分はそれで事足りるだろうと思っていた。
だが、彼女に言われ思い返す。そうなのだ、確かに心臓を撃ち抜いた筈なのだからコートもシャツも穴が開いている、オレの心臓部にもその跡がある。もし仮定通りパラレルワールドだとしたら服や身体は原状回復とはならないのだろうか。ご丁寧に身体にも衣服にも撃ち抜いたであろう事実がポッカリと開いている。
こんな格好で出歩いては良くて不審者、その服が着られないとなると露出狂ですぐさま手錠をかけられる羽目になるだろう。

「どうするにせよ、まずは服、ですね」

日用品や普段着なども買い物は基本的にネットで済ますという彼女は慣れた手付きで、見慣れたような、でも少し違うようなファストファッションの通販ページをスクロールしていく。

「ブランドものじゃなくて申し訳ないですが最近は割と質もしっかりしてますので」
「とんでもない。着る服があるだけでありがたいよ」
「あ、でもコートと靴はちゃんとしたのにしますよ」
「別にそこまでは…」
「…じゃあ早速、何でも言わせていただきますね。私のわがままなので諦めてください」
「…そう、言われると。じゃあサイズはオレも見させてもらうけどチョイスはなまえちゃんに任せるよ」
「え、それは責任重大じゃないですか。景光くんも一緒に見てくださいよ」

これ良いですね、こっちで良くないか?など笑いながら彼女は手早く買い物カゴへ該当商品を放り込む。彼女の蓄えがどれ程なのか不明だが急な出費には変わらないだろう、そんなに買わなくても…と思いながらチラと見ると、

「私も丁度買う物もあったのでついでです。それにカゴ内で再度吟味するので」

そんなに顔に出ていたのだろうか、彼女の人に気負わせまいとする言葉に大人しく画面を見つめる。結果、似たような物は数点削除されたがほとんどがオレの衣服でいっぱいの買い物カゴはそのまま購入ボタンをタップし画面を閉じられる。

「オレが言うのもなんだけど、そんなに買わなくても良かったんじゃないか…?」
「…もし必要じゃなくなったら兄に回すので大丈夫です」

スウェットのシルエットが兄と似てるので多分体格近いんじゃないですかね、と付け加えながら一仕事を終えたかのように煙草を取り出し、咥え、火をつける。ただ煙草を吸っているだけなのにどこか優雅ささえ感じられた。そう思いながら彼女の横顔を見ていると煙草の催促かと受け取ったのかどうぞ、と促す視線に小さく笑いながら礼を言い箱を開ける。

「…景光くんも、煙草吸うんですよね?」
「うん?」
「カートン出しとくのでもう好きに吸ってください」
「それは…ありがたいけど…」
「景光くんも喫煙者なんですよね?だとしたら吸う度にいちいち聞かれたりお礼言わたり面倒なので好きに吸ってくれた方が楽です」
「…なまえちゃん、オトコマエって言われない?」
「友人のナンパ避けくらいしか出来ないですけどね」

彼女にとって喫煙という行為は生活に必要不可欠なのだろう。オレ自身も不可欠、とまではいかないと思っていたがいつのまにか日常に煙草が染み付いていたのだろう。日常生活においての不自由さを自分本位かのようになくす発言にまたひとつ彼女の性質をような気がした。

「…じゃあ、遠慮なく」
「どうぞご自由に」

コート、どうしましょうか。
流れるバラエティー番組を横目に、彼女がスマホを操作しながら問いかけてくる。どうやら注文した品は明後日には届く予定だそうだが、コート類は選んでいなかった。季節に合わせた暖かそうな衣類を選んでくれたとはいえ、もし外に出る場合、上着がないままだと多少人目を引くだろう。

「まだ外に出ると決まった訳じゃないし…」
「いざ出る、てなった時にないと困りますよね?」
「それは…そうだけど」
「…バーのオーナーが趣味でショップもやってるんですけど、そこなら防犯カメラもありません」
「…なまえちゃん、君は一体何者なんだい…?」
「しがない社畜改め、ただのプータローですよ…SFやミステリーが好きな、ね」

潜入していた時から、人目につくのは憚られたので無用な外出はもちろんの事こと、監視カメラの類は常に気を掛けて行動していた。今がどういった状況で自分の行動ひとつで鬼が出るか蛇が出るかわからぬ世界で、状態をある程度把握しているであろう冷静で頭の回る彼女の存在はありがたかった。

そうと決まれば、と早速今晩バーに赴きショップへの来店の相談をしてくる、と言う彼女の目はどことなくキラキラと輝いているような気がした。SFやミステリー好きだという彼女は恐らく今の状況に対して少なからずの好奇心を抱いているのであろう。その対象が自分である、という事にまるで他人の夢を見ているかのような感覚はあれど不思議と嫌な気持ちにはならなかった。

「…すみません、不謹慎でしたね」
「…いや、君もそんな表情をするんだな、と思って」
「…私の事なんだと思ってるんですか」
「恩人だと思っているよ」

今のところは、という部分は声に出さずに返すと、想定外の答えだったようで何ともいえない表情に変わる。ふ、と小さな溜め息か微笑みかを漏らしながらテレビボードの引き出しから小さな端末を取り出す。

「私の外出中…というか取り敢えずはこちらを使ってください。Wi-Fi環境があれば通信も通話も出来ますので」



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