13
コンビニから戻った彼女ーーなまえちゃんは、宣言通りに漬物とコーヒー、お茶、ジュース類などをぶら下げていた。
恐らく外では生活がままならないだろうオレを置いてくれるのはありがたかったが、同時に今になりいくら緊急事態だったとはいえ家捜しをした事に僅かながら罪悪感が込み上げる。きっと、フェアを好むだろう彼女に対しては謝罪しなければ、と思ったがあまりの警戒心のなさに心配を通り越してしまった。
彼女からすれば本の上で見知った人物であるかもしれないが今は異常事態。女性の一人暮らしに得体の知れない男が転がり込む、という事や家捜しをされたというのに怒りも戸惑いすらもしない彼女に少しカマの意味も持たせ押し倒したものの、彼女の態度は変わらなかった。それどころかオレに対しての信用と信頼、牽制の意思までありありと見せられてしまう。
出て行った時と変わりない表情で飲み物を冷蔵庫に仕舞っていた彼女が声を上げる。
「わぁ、ホントに味噌汁ありましたね」
「…期限も問題ないだろう?」
「ええ。見つけてくれてありがとうございます」
へら、と笑いながら部屋に戻ってきた彼女は缶コーヒーを二本ローテーブルに置き、ソファーに腰掛けようとしたが、ふと足を止める。
「景光くんもソファー、使ってくださいね?」
「ありがとう。でもオレが座ると流石に狭くなってしまうだろう?そこまで気にしないでくれ」
「…わかりました」
些か不満が残る顔ではあるが、そのままソファーに腰を下ろしおもむろにスマホを弄りながら、白、紺、緑だとどの色が好みですか?と聞かれて以降、そのまま時間が過ぎていった。お互いに無言ではあるがテレビからテンション高めに紹介される今流行りだというカフェや話題の場所、それらに対して時たま彼女が言葉を発して相槌を打つ。
互いコーヒーを飲みつつ煙草を燻らせたりしつつ、腹を探り合うでもなく、仕事の話でもない、特に中身もない取り留めのない会話。こんなに穏やか時を過ごしたのはいつぶりだろうか。彼女が意図してものなのかそうではないのかーー恐らく後者だと見受けられるが随分と久し振りに落ち着いた時間を過ごしたように思う。彼女の飾らない自然体が心地良い。
そうこうしている内にすっかり夜の時間となる。
「そろそろ準備しますね」
「何か手伝える事あるかな?」
「ありがとうございます。珈琲飲んでゆっくりしててください」
着替えを取り出しメイク道具だろうか、小ぶりなポーチを持ち洗面室へと向かう彼女を見送る。
ゆっくりしてて、とは言われたがおにぎりと味噌汁の為の湯を用意し沸くのを待つ。
数十分程すると、着替えを済ませ化粧もしたのだろう彼女の顔は素顔より幾分かキリッとしており中性的な顔立ちがより際立っている。服装も相まって改めて見ても男性だと言われれば納得してしまう出立ちであった。
「あれ、景光くん、見惚れちゃいました?」
「…いや、確かに友人のナンパ避けには最高だな、と」
まじまじと見てしまっていると揶揄うように言った彼女に思わず言葉が詰まる。
「でしょ?飲みに行く時もこれがなんだかんだ一番なんですよねぇ」
後はこれも、と言いながら左手薬指にシンプルな指輪を被せる。
装飾品だとしてもわざわざその指を選ぶ意味を考えていると彼女が続ける。
「あー男性からの声掛けは減ったんですけど、女性からが…まぁこれがあればある程度は諦めてくれますから」
「一人で、大丈夫か…?」
「今から行く店はオーナーがしっかり目を光らせているので。まぁ自衛しないよりはした方が、ですかね」
仕方ない、というような表情で笑う彼女ーーなまえちゃんを見て、自分が隣に居られれば、と想像してしまいすぐに振り払う。
「…おにぎり、出来てるよ。丁度お湯も沸いた」
「ありがとうございます」
ローテーブルで彼女が買ってきてくれた漬物と共に軽く夕食を済ます。猫舌なのだという彼女は味噌汁を飲むのに少し苦戦していて、次からはぬるめにして用意しようと考えた。
「帰る時は一応メッセージ入れますね」
「気を付けてな…」
「…はい。行ってきます」
食事を終え、ボディーバックをかけながら玄関に向かう彼女を見送った。
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