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恐らく、心配そうな眼差し、を向けられバーに向かう。

自分からした話とはいえ不用意に心配をかけ過ぎたか、とも思うもオーナーのバーでは本当に嫌な目に遭った事はない。初見の客から熱い眼差しを向けられる事はあるが、それとなくオーナーがフォローしてくれているのでこれといった実害はない。一度オーナーにすみません、と伝えたところ、店を守るのが俺の仕事だからね、と言われ、一人で飲みに行く時は専らこの店になった。

店に着くと何も言わずともハイネケンを差し出される。それをありがたく受け取り、半分ほど飲んだところでオーナーにショップに行きたい事を伝える。

「実は…友人、を連れて行きたいんですけど、いいですか…?」
「なまえちゃんの友人なら大歓迎だよ」
「ありがとうございます…連れて行く、というか、その友人にコートと靴を選びたいんですけど…出来れば静かに選べればなぁ、と…」
「じゃあ俺は引っ込んでおいた方がいいかな?」
「…そうしていただけるのであれば、ありがたいですが…」
「なまえちゃんがわざわざこうして言ってくれるくらいだ、それだけで十分だよ」
「…危害を加える様な人間ではないのは私が保証します」

メンズ物を取り扱う店に友人を連れて行き衣服を選びたいという言葉に一瞬驚いた表情をしながらも深く追求する事はなく、こちらのあまり人目につきたくないという要求にも難なく応じてくれるオーナーの深い懐に感謝し、二杯目はスコッチをトワイスアップでオーダーする。
グラスを傾けながら、思わず友人と言ってしまったが知人よりはマシだろうと思いつつ私と景光くんの関係を考える。オーナーに言ったように友人?いや違う。では知人?友人よりかは近い気もするがあまりしっくりとこない。物理的な状況で言うなら同居人。間違いではないだろうが、シェアハウスでもない家で恋人同士でもない二人が同居。謎過ぎるにも程がある。…保護者?年上に対して保護者と言っていいものかどうか迷うが、今の状況は確かに保護しているという事になるだろう。同居人兼保護者。うん。これだな。

自分の中で納得し三杯目をオーダーして、退職した話や他愛無い会話をしつつおかわりをしながら、そういえば、と尋ねる。

「この近くでスコッチ買える酒屋でおすすめってあります?」
「ウイスキー類ならあそこの店がおすすめだけど、スコッチ買いに行くの?」
「ええ、退職記念に家で飲む用にも買おうかなぁと思って」
「銘柄は決めてる?」
「いえ特には」

それなら、と言いながらカウンターの裏側から一本のボトルを取り出しこちら側にラベルが見えるように差し出してくる。
トン、とカウンターに置かれたボトルはこの店にも鎮座するものと同じでラベルにはMACALLANの文字。オススメはコレ、という事だろう。ちなみに今飲んでいるのはChivas Regalだ。
マッカランは確かにこの店でも何度か飲んだ事があるし色々迷うよりいいか、と納得しかけたところ、紙袋をガサガサとしながらそれを入れるオーナーに疑問の視線を投げかける。

「さすがにボトルを裸で持って帰るのは豪快すぎるでしょ〜」
「えっ?」
「これは店からなまえちゃんへの退職祝い」
「えっ!いやそんな…」
「厚意は素直に受け取るのも大事だよ。…とか言って実は発注してたのスッカリ忘れててダブっちゃってさ〜お酒を無駄にしない為にも受け取ってくれるとありがたいんだけどな〜」

見た目からは(失礼ながら)想像出来ないがこう見えてしっかりしているオーナーだ。店の商品である酒をダブりで発注する事は考えにくい。それを私がわかっている事を理解した上で気負わせないようにする発言に折れ、有り難く受け取る事にした。
ふとスマホに目をやれば一時間半程経っていた。景光くんには一、二時間で戻ると告げていたので丁度良い時間だ。途中入店したグループの女性客から熱い視線も感じていたのはオーナーも気付いており、空のグラスと視線で伝票を持ってきてくれていた。

「定休日なら夜でも大丈夫だから」
「重ね重ねありがとうございます」
「その日ならこっちも開けるよ?」
「…相談してみます」
「無理にとは言わないからね」
「ありがとうございます」

店を後にし、駅に向かいながら先程のオーナーとの会話を思い返す。なるべく人目につかないようにという私の申し出に、通常ショップは日中のオープンになるので夜となるとバーの定休日にならざるを得ない、それに加えてこっちも開けるよ、というのは定休日なので貸切でバーを開けるーー強制ではないにしろ、私がショップに連れて行きたいという人物に会わせてほしい、という事だろう。オーナーからすれば邪推などはなく私の兄、もしくは父のような存在として心配半分、興味本位半分、といったところだろうか。
今まで数回彼氏という存在がいた事はあったし外に飲みに行く事ももちろんあった。が、オーナーには申し訳ないがこの店に彼氏を連れてくるのは自分のテリトリーを荒らされるようで一度も連れてきた事はなかった。それをオーナーも察しているようで何も言われなかったので、今回のお誘いには少し悩んでしまった。相談する、とは言ったものの私の一存で連れて行かなかったとしてもオーナーは何も咎めないだろうし、景光くんにも何も伝えなければ特に支障はないだろう。

景光くんにスーパーに寄ってから帰るという旨のメッセージを送り、改札を通る前にすぐそばにある大型のスーパーへ足を向ける。折角頂いた退職祝い。景光くんがお腹空いてるかもしれないが帰宅してから作らせるのも忍びない。適当に惣菜や乾き物を買い、帰路に着く。



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