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兄からの電話以降、景光くんがおかしい。今まで、と言ってもたかが数日間だがあまりこちらの事を詮索してくる様な事はなかった、のだが、兄のバイトを始めたのはいつ頃か、連れられて行く先で妙な出来事はなかったか、などやたらと私の言うバイトに興味を持った様だった。

「えーと、ただのパーティー会場ですし危ない事なんて何もなかったですよ?」
「本当に…?」
「はい」
「…なまえちゃんがバイトをした後に、そのパーティーの主催企業が検挙されたりだとか、そういった事はなかった…?」
「え?うーん…あったかもしれないですけどそこまでは…ニュースも流し見程度ですし、企業の不正や不祥事なんかはそれこそ毎日のようにどこかで起こってるでしょうし…」
「…そうだな…いや、すまなかった」
「ふふ、なんで景光くんが謝るんですか?」

企業の不正や政治家の疑惑など。悲しい事に挙げればキリがないのだが、糾弾のニュースは日々テレビ、新聞、ネット等各媒体で垂れ流されている。しかしそれは氷山の一角だろう。私の会社もそれはもうハラスメントのオンパレードでよくこんなとこで働いていたな…とどこか他人事の様に考える。景光くんが謝ったのはそこを指しての事だろうと思うが彼が謝る理由はどこにもない。
午後のおやつに、と先日適当に買ってきたお菓子を広げながら談笑しているとスマホが小さく震える。どうやらもうすぐ荷物が届くようだ。

一応景光くんにも荷物が数時間以内に届く事を伝えると、予想通り数時間後の夕飯中にインターホンが鳴り響く。配達員さんにお礼を告げ、無事に荷物を受け取る。これでひとまず明日の外出は大丈夫だろう。サイズや質感など合わない物はないか確認の為に夕飯後に一通り試着してもらう。

「ありがとう、どれも問題ないよ」
「よかった…似合いますね、景光くん」
「ああ、これ?」

そう言いながらクイッ、と黒のハイネックケーブルニットの首元を掴む。合わなければ兄に回すと言いながらも兄にはあまり似合わないだろうなと思いつつ景光くんなら絶対に似合うと思って勝手に追加で買っていた物だった。予想通りというか想像以上に似合っていたが、どこか既視感を覚える。彼の今の格好に近い姿をどこで見たのだろうか。ここに単行本があればすぐに捲って思い出せるのだろうが今は自分の記憶しかない。うんうんと頭を捻って思い出す。……そうだ、景光くんが、スコッチが初登場の時に着てたのがハイネックだったような。

「最初のシャツも似合ってましたけど、何でも着こなせそうですね」
「ありがとう。じゃあコートもなまえちゃんに任せようかな?」
「えっ。いやそれは好きな物選んでくださいよ」
「オレ服の事とか詳しくないしなぁ」
「私だってただの素人ですよ…」

正直、彼に似合うコートをコーディネートしてみたい気持ちがないと言えば嘘になるが試着くらいなら勧めてみても許されるだろうか。
そんな事を考えながら、晩酌を楽しむ。

「なまえちゃんって…見た目より食べるな…」
「あぁ…食べても出ないのは元々ですし、食べるの遅いので仕事してる時は取り敢えず腹に入ればいいかなと手短に済ませてたので」
「豪快だなぁ」
「でも今は…景光くんのが美味しいからですよ」
「…、それは、良かった」

何故か顔を両手で覆う景光くんに頭の中で疑問符を浮かべつつも特に気にする事なく缶を煽った。



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