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そこまで酔っていないであろう景光くんが割と盛大にこぼした。もしかして思ったより酔っていたのだろうか?顔にも態度にも出ない人はわかんないな…。そう思いながら景光くんを風呂場へと追いやりついでに鍋を片付ける。風呂を終えた景光くんは何故だかしょげていて様子がおかしい。やはり酔っていたのだろうか。ごめん、としょぼくれながら言われなんだか小さな子どもを相手にしているような感覚に陥った。成人男性、少なくとも自分より歳上である彼を目の前にしておかしな事を考えてしまったが、ふと疑問が浮かぶ。
そういえば景光くんは今何歳になるのだろうか。初対面の時は流されてしまったしそれ以降も特に互いに言及する事はなかった。まぁどちらにせよ歳上なのは変わらないしさほど重要な事ではないだろう。
そう、重要なのは今目の前で首を傾け、効果音をつけるとするならばキュルン、といったような眼差しで見つめてくる人物である。
「…軽率にハニトラするのやめてくれませんか…」
「えっ?ハニトラ?!してないよ…?!」
「(無自覚こわ…)いえ、わかりました。明日の服選んでおきますね」
「ありがとう、なまえちゃん」
この人本当に警察官で公安で黒い組織に潜入してたんだろうか…いや、景光くんの幼馴染である彼も見た目が既にアレなのでそんなものなのだろうか。深く考える事はやめにし、シャワーを浴びてくる事を告げれば今日の晩酌はお開きとなった。
適当にタオルドライし頭に被せたまま浴室から出るとてっきり先に寝室に移動したかと思っていた景光くんがビーズクッションで寛いでいた。
「ドライヤーしないの?」
「あー、ちょっと休憩してから乾かそうかなと思って」
「…飲んでから?」
「1本だけですよ…?」
「……ちょっと待ってて」
「?はい…」
出勤前に入浴した時は流石にそのまま洗面室で乾かして準備するが、今日は寝るだけだし時間もまだ早い。夜更かし、という時間には当てはまらないだろう。そう思い一息ついてから乾かそうと思っていたのだが何故か景光くんは深い溜め息を吐きながらリビングから消え去ってしまった。戻ってきた彼の手にはドライヤーとヘアオイル。
「はい、座って?」
「え?」
「そのままじゃ風邪引くだろう?乾かしてから休憩、しな」
「え、あ、それなら自分でやりますから」
「ドライヤー、面倒臭いんだろ?日頃のお礼だと思ってやらせてよ」
「お礼だなんてそんな…」
まあまあはいどうぞ、と言われながらソファに追いやられ隣に腰掛けた景光くんがドライヤーのスイッチを入れ手櫛で梳かしながら乾かし始める。
ドライヤーが面倒臭いのは当たっている。面倒臭いし風呂上がりにすぐだと疲れてしまうのでいつも休憩を挟んでからしているのだが、人に乾かしてもらうのってなんでこんなに気持ち良いのかなー…。美容室でも大体ウトウトしちゃうしなぁー…。
しかしここは美容室でもなく景光くんも美容師ではなく申し訳ないな、と思いながらも優しい指触りの手櫛とドライヤーの温風の誘惑に耐え切れずいつの間にか瞼が降りていた。夢と現の狭間で微かに聞こえた気がするのは、とても優しい声。
「…おやすみ、なまえちゃん」
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