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起床時間アナウンスで目が覚め、一旦苗木の部屋を後にしたみょうじは、自分の部屋に戻り身支度を終わらせ、一番に食堂に入り朝食を作る。

料理を作り終えた辺りで食堂に人がまばらに入ってきたらしく、徐々に声がざわざわとしたものに変わっていった。

「おはよう、朝食出来てるよ。和風洋風どっちも出来てるから、皆好きなの取って食べてね」

空いているテーブルにバイキング形式にお皿を並べていくと周りから「うおおおお」と感嘆の声が上がる。

「さすが超高校級…!昨日もあの短時間料理の出来は素晴らしいと感動しておりましたが、朝からこのクオリティの料理を並べられると圧巻ですな!思わず涎が出てしまいそうなこの香りがなんともたまりませぬ…!」

でぶでぶ震えながら涎を拭う山田を尻目に他のメンバーは各自食べたい料理を取りに行った。

「コーヒーの香りもするな。挽いたのか?」

大和田が空中に鼻をひくつかせながら問うと、みょうじは頷いた。

「定番のしかなかったけど、コーヒーは豆があったから挽いてみた」

「流石だな!なら貰うぜ!やっぱり朝の始まりはコーヒーだよなぁ!」

豪快に笑いながら背中を無遠慮に叩かれ、内心ちょっとイラッとする。それを見た苗木はそんな彼女の内心はいざ知らず、あの力の凶暴さを受けた彼女を気の毒に思っていた。

「え?皆学園内を探してたの?」

ご飯を食べながら皆の話を聞いていると、どうやら全員、起きてすぐ食堂に向かわず、学園内を探索していたらしい。どうりで沢山料理が作れる余裕があったわけだ、まだ誰も来ないからと嬉々として品数をどんどん増やしていた自分が少し情けない。

「うん、だからもうお腹ペコペコなんだ〜!みょうじちゃんの美味しい料理がたくさん食べれて幸せだよ〜」

意図せずみょうじの気持ちを救ってくれた朝日奈の無邪気さに感謝しつつ、自分も料理を口に運ぶ。

「つっても、昨日以上の発見はあんまりなかったんだけどね〜」

江ノ島もウンザリしたような顔だったが、料理を口に入れた途端「…美味しい」と人が変わったように小さな声で呟く。美味しい美味しいと自分の作った料理を食べて貰えるのは、料理人冥利に尽きることである。

「おい」

しかしそこに水を差すのが隣に座る桑田だ。本当は苗木の隣に座りたかったのに、自分が席に着く頃には苗木の両隣は埋まってしまっていた。片方は勿論、舞園である。実に腹立たしい。

「悪いニュースと良いニュース…いや、良い提案がある。どっちから聞きたい?」
「どっちも聞きません」
「まーまーいいから」

何がいいのかさっぱりわからない。さらに言えばコソコソと話そうとする態度も気にくわない。正直みょうじは、桑田に対してあまり良い印象を抱いていなかった。

「じゃあ悪いニュースからな。苗木と舞園ちゃん、今朝デートしてたぜ」
「?!」

予想もしていなかった言葉のあまりの衝撃に、持っていた箸を落としかけた。

「…え?」
「今朝、苗木と舞園ちゃんが二人で体育館向かってるところを見た。そんで暫くブラブラしてたら今度は二人が帰ってくるところ見たぜ。苗木は何か…よくわかんねー悪趣味な刀持ってたから何か聞いたら、舞園に勧められてお守りにするんだってよ。そんなもの勧める舞園ちゃんも舞園ちゃんだけどよー、デレデレ言われる通りにする苗木も苗木だよな」

唖然として無意識に苗木達のいる席に目を向けると、苗木と舞園は仲良さそうに話している最中だった。舞園はキラキラした笑顔を向けているし、苗木も頬を染めながら時折照れ臭そうに笑っている。

「何でこの短時間でフラグ建ってるの…?」
「オメーが美味しい料理を作ってくれてた間の話だからな。同情するぜ」
「あああああ過去の自分が憎い!」

さすがにこれは桑田の話を信じざるを得ない。十数年ずっと苗木の隣にいた彼女にとってこれは初めてと言っていい程の大きな誤算だった。まさか、昨日の出会いのフラグはボッキリ折ったはずなのに、あの舞園にそこまでヒロイン属性があるとは思っていなかった。大失態である。

「ていうか何で桑田はそんな冷静なの?誠に取られちゃってるじゃん」
「よくぞ聞いてくれた悩める子羊ちゃん」
「誰が子羊か」
「言ったろ?良い提案もあるって」
「…まさか、」
「オレと一緒にあいつらの仲引き裂こうぜ!」

超良い笑顔でサムズアップする姿から発せられた言葉とは思えない。

「お断りします」
「はぁ?!何でだよ!」
「仲を引き裂くっていう目的はわかる。ただ、そういうことを誰かと手を組んではやらない。やりたくない」

ご飯を食べ終わり箸を置き、真っ直ぐに桑田を見据える。

「教えてくれてありがとう。でも私は自分で自分のことをするから、心配してくれなくていい」
「わかった…じゃあひとつだけ教えてくれ」

借りはあるから断れないな面倒臭い、とみょうじは冷静に酷いことを考える。

「なに?」
「舞園ちゃんってどんなタイプが好きなのかな」

苗木でしょうよ傷を抉るな!と叫びたい衝動を抑え、彼女は黙って桑田の頭を叩いた。

「…あ」
「苗木君?どうしたんですか?」
「いや、今なまえが桑田クンの頭を叩いてて」
「ええ!喧嘩ですか?」
「いや、そういう訳じゃなさそうだけど…なまえって案外喧嘩っ早いところあるんだよね。だから変に誤解されやすいんだけど…あの様子だと大丈夫そうかなぁ」
「仲良さそうで妬いちゃいますか?」
「え?全然」
「ふふ、そうなんですか」

「…」
「みょうじ…どんまい」
「うるさい!」

****

朝食の片付けも終わり、みょうじも学園内を探索しようとウロついていた。実は初めての探索である。昨日の入学式の時は苗木の後をついて行っただけだし、苗木が吹っ飛ばされてからはずっと看病という名の苗木観察を行っていた。

「はぁ…」

意図せずため息が漏れる。今も本当は苗木と一緒に探索しようと思っていたのに、苗木の部屋のチャイムを押しても応答はなかった。既に部屋にいないらしい。誰と一緒にいるかは明白だ。

「悔しい…悔しい〜」

勝手に地を這うような声で呟いてしまい、それが不気味な学園内の内装と相俟って余計恐ろしい演出になっている。

ふと、たまに小さなメダルみたいなものが落ちていることに気が付いた。購買部の中に入るとガチャガチャがあり、どうやらそれでこのメダルを使うらしい。試しにやってみると雑誌が出てきた。可愛らしい犬猫の写真が表紙だった、ペット雑誌だろうか。動物は好きだ、今度ゆっくり読んでみよう。

部屋に戻り雑誌を置くと、昼食を作るために食堂へ向かった。

****

「うーん…」

昼食も食べ終え、改めて学園内の探索をするも、確かに抜け道になりそうな場所は全くない。昨日の報告で分かっていたことだが、いざ目の前にそれを突き付けられると絶望が少しずつ胸の中に巣食い始める。
慌ててそれを振り切るように足を進めると、桑田と舞園、そして苗木が正面に立っていた。

「大丈夫だぜ舞園ちゃん、この学園からはオレがきっと助け出してみせるからな!だから安心してオレに抱かれ貫かれ「未成年ー!!!」

とんでもない発言をしようとする桑田もとい全身18禁野郎に渾身の飛び蹴りを食わせ、目の前で目をパチクリさせている舞園と苗木を見やり、

「色々無事?!」

主に苗木の耳が汚れていないかを確認した。
舞園は別にどうでもよかった。芸能界でこういう話もあるだろう。

「特に何もされてませんが…」
「誠も?」
「あ、うん、ボクはなんとも…それより桑田クンが…」
「こんな変態気にすることない、今のうちに逃げて」

主に苗木が逃げて欲しいと切実に思う。

「おいコラテメー何しくさってんだコラさすがの紳士なオレも場合によっちゃキレるぞコラ」
「コラコラコラコラ喧しいんですよチンピラですかあなたは、ていうか誰が紳士、何ウチの誠に汚らわしい欲望の末端を触れさせようとしてくれやがるんですか」
「なまえ、桑田クン…二人とも落ち着いてよ…」

二人の間に割って入ろうとする苗木は

「苗木は黙ってろ!」
「誠は黙ってて!」

二人に跳ね除けられる。

「だいたい今の口説きのセンスの悪さ!そんなんで舞園さんが落ちるとでも?!そんな発言で落ちるなんて今時二次元でもあり得ないわ少女漫画読んで出直してこい!」
「テメーの恋愛思考が少女漫画から来てるのはよーくわかったがな、今時そんなお子ちゃまな恋愛は三次元じゃ通用しねーんだよ三次元の男に慣れて出直してこい!」
「誠がいるわ!」
「あいつは両生類だ!」
「違うからね?!」

とばっちりを受けた苗木の顔は真っ赤である。


****




「苗木って両生類なの?」

夕食時、江ノ島から発せられた言葉に
苗木は思わずコーヒーを吹き出しそうになった。

「違うよ!誰から聞いたの?!」
「葉隠」

江ノ島の差した指の先にはテヘペロ、と言わんばかりの葉隠の顔があった。

「いや、なんかみょうじっち達が面白れー話してたから便乗しようと」
「完全な悪ふざけだよねソレ…!頼むからそれもう広めないでよ…」
「あー…悪い苗木っち…」

「ねえねえ苗木!苗木って両生類なの?!」

食堂に響き渡る無邪気な声。

「朝日奈っちに言っちまった…」

そして葉隠の小さな小さな声が、苗木の気力を根こそぎ奪って行った。

机に突っ伏す苗木を見て、向かいに座っていたみょうじが桑田に肘打ちをする。

「桑田のせいで誠が落ち込んじゃったじゃん」
「は?これオレのせいか?つか元はと言えばオメーが人の恋路邪魔したせいだろうが!」
「むしろ助けてあげたんだよあの場合!」
「ねぇ、あんた達付き合ってないの?」

小競り合いが始まった二人を見て江ノ島が聞くと

「冗談やめろ!!」「冗談やめて!!」

同じタイミングで勢いよく返事を返され、「あ、なんかごめん…」と彼女は圧倒されてしまった。

その時、ふと、みょうじが座る席の横を通り過ぎようとした不二咲が躓き倒れかけた。間一髪でみょうじが身体を支えて抱きとめ、転倒には至らなかったのだが−−−
顔を真っ青にする不二咲の表情には気付かなかったものの、身体付きに違和感を覚えたみょうじは気付かれないようにサッと不二咲の身体に目を通し、次の瞬間は何事もなかったように立ち上がらせた。

「大丈夫?」
「う、うん…ごめんねぇ、ありがとう…ご飯もご馳走様…」

そそくさと食堂を後にする不二咲の後ろ姿をじっと見つめるみょうじに、食事が終わり、食器を返そうと立ち上がった苗木と舞園が声をかける。

「どうしたの?」
「何かありましたか?」

みょうじはその問いには答えず、苗木を手招きで呼び寄せる。

「何?何かあった?」

そう言いながらも近づいてくる苗木の−−細い腰をひしっと抱き込んだ。

「はぁ?!」

桑田の素っ頓狂な声も全く気にせず、みょうじは深い溜息を吐く。

「なるほどね」
「何がだよ!」

重なる桑田のツッコミも全く意に返さない。

「人の性癖はそれぞれだし私がとやかく言う筋合いはないもんねぇ」
「だから何がだよ!テメーさっき自分が言ってたことを振り返ろ!欲望の赴くまま動いてんじゃねーかオレと大差ねーぞコラ!!」
「なまえ、どうしたの?何かあった?」

苗木も特に動揺する様子もなく冷静に問いかける。

「ううん、確認したいことがあっただけ。ありがとう」

パッと苗木の腰を離す。離し難いのが本音だったが仕方ない。

「苗木君、みょうじさんと本当に仲が良いんですね」

舞園が苗木に笑いかける。その言葉でせっかくの良い気分がちょっと減ってしまった。どうも彼女の一挙一動が気にくわない、理由は間違いなく敵だからであるが。

「仲は悪くないと思うけど…色々慣れちゃって。変に思わないでね、舞園さん」

だから何故そこで照れ笑いをするかと問い詰めたい。

「−−でも、みょうじさん、桑田君とも仲良さそう」

−−そう言った彼女の瞳を見た瞬間、

みょうじの頭の中で戦いのゴングが鳴り響いた。

「そう言って貰えて嬉しいありがとう。私舞園さんみたいに可愛くないから愛されるように愛想を振りまくしか能がないの」
「誰がいつ誰に愛想振りまいたんだ?」

桑田の冷めた言葉には反応しない。

「だからぜひその舞園さんの愛らしさを見習いたいんだけど、どうやって男の心臓わしづかむの?何かテクニックがあるんでしょ、顔はもうどうにも出来ないからせめて男の気持ちを弄べるようなテクニックを教えて、」
「なまえ!失礼なこと言うな…謝れ」

珍しく強い口調で叱りつけた苗木に一瞬怯んだものの、みょうじは強く眉を寄せ反抗する。

「最初に喧嘩売ってきたのはそっちなのに!」
「売ってないだろ、今のはなまえが失礼だった。舞園さんを悪く言うな。謝りな」
「〜〜〜〜絶対いやだ!」

苗木があまりにも舞園を大切にするから、と心の中で言い訳をつけてみょうじは部屋に逃げ帰る。

言い過ぎた、とは思う。だからいつかちゃんと謝らなければならない。でも、あんなの。

「誠…本当に舞園さんが好きなの?」

昨日の夜、大丈夫だと言ったのはこの学園生活のことであって、苗木の恋路について言ったつもりなんてなかったのに。

その日の夜、苗木の部屋に行くことはできなかった。

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