「えっと、つまり…次の公演から私が楽曲提供してもいいってことですか?」
「はい!カンパニーで運営してる寮もスタッフ用の空き部屋がありますし、日高さんが良ければ是非入寮して下さい!」
「その、家賃とか光熱費なんかは…」
「そこは大丈夫です!日高さんの曲ならグッズとして売れること間違いなしですから!」
是非、と真緒の手を握るいづみに少し悩んだが、自分の作った曲をこれ程までに評価してもらえて嬉しくないわけがない。幸いにも今は一人暮らしで、家を出ることを引き止める人はいない。学校も今までより距離が近くなる。家賃、光熱費も支払わなくていいとなるとデメリットが全く見当たらない。
「私でよければ、喜んで」
「わあ!ありがとうございます!これから宜しくお願いしますね!」
「こちらこそ、宜しくお願いします」
嬉しそうに笑ったいづみに釣られるように真緒もふんわりと笑った。入寮は来週の土曜日に決まり、お互いに連絡先を交換して別れた。
家に着き、靴を脱いで部屋に入る。1Kの小さな部屋は真緒にとって食事と風呂と睡眠を済ますためのものであり、生活空間では無かった。ソファに横になり目を閉じる。
「大丈夫。いつも通り、笑ってれば何とかなるから」
小さな声で呟いた音は誰にも届かずに消えた。
2017/08/11 執筆