「あ!真緒チャン!ちょっと来て来て〜!」
少し外で風を浴びながら作曲しようとノートとペンを持ってガーデンテラスに向かう真緒を一成が呼び止める。振り返り首を傾げる真緒に手招きをしながらニコニコ笑う一成を見て、素直に近づく。
「座って座って〜!折角だしお喋りでもしようよ!俺、真緒チャンと仲良くなりたいな〜!」
「カズくんずるいっス!俺っちも真緒チャンと仲良くなりたいんスよ!」
「えっと…」
「俺の事は一成って呼んでくれたら嬉しいな〜!」
「俺っちも!俺っちも太一って呼んで欲しいっス!」
「一成さんと太一くん、でいいですか?」
「え〜固いなあ〜!むっくんみたいにカズくんって呼んでくれてもいいよ?」
「えっじゃ、じゃあ俺っちも…ってああああ!俺っち皆にあだ名で呼ばれてないから何も無いっスー!」
真緒の両隣に座ってワイワイと話す一成と太一に引き攣った笑みを浮かべる真緒。ここに来てから気を抜ける場所が無かった真緒にとって、ニコニコと笑い続けるのには限界があった。
「一成、太一。あっちでカントクさんが荷物運んでたから手伝ってあげな」
「いたるんじゃ〜ん、それマジ?それはカズナリミヨシが参上しなくては!ってね〜!」
「俺っちも今度こそカントク先生にいいとこ見せるっスよー!」
後ろから声をかけてきた至の言葉にピクリと反応した2人が駆け出す。まるで嵐のような2人に真緒もなす術なく固まった。そんな真緒に至が笑いかける。
「日高さんさ、それ疲れない?」
「それ、って…何のこと、ですか?」
「うちきてからずっと同じ顔してる」
「っ、気のせいじゃないですかね?」
「若いのに大変だね。ま、いいけど」
至の口から出た言葉に一瞬仮面が外れそうになった。慌てて取り繕った表情はきっと見透かされている。真緒はぐっと手を握りしめてこんなのじゃダメだ、と自分に言い聞かせた。
「カンペキ、じゃなきゃダメなの」
小さな声は思ったよりも談話室に響いていて。まさか至がその言葉を聞いていた、なんて真緒は知らない。
2017/08/11 執筆