「おはようございます、伏見さん」
「おはよう、早いな」
「お手伝いしようかな、と思って」
「じゃあ、これ運んでくれるか?」
いつまでも面倒見て貰うわけにはいかない、と真緒は朝のキッチンに向かった。予想通りテキパキと動く臣に声をかけ、一緒に朝ごはんの準備をする。
「おや、真緒くん。早いね」
「おはようございます、有栖川さん」
「うむ、おはよう」
真緒がテーブルにお皿を並べていると後ろから声がかかる。ふわりと微笑みながら挨拶をすると誉も同じように微笑んで挨拶を返す。臣からコーヒーを受け取り席に座った誉が詩興が、と言っている声を聞き流しながらお皿やコップを並べる。
来る人、来る人に笑顔で挨拶を返して、真緒も席に座る。ご飯を食べながらちらりと周りを見る。いつもの様にワイワイと賑やかな朝食に真緒の胸がチクチクと痛む。逃げるように視線をそらした先にいた至と目が合った。
「ごちそうさまでした」
「もういいのか?」
「はい、美味しかったです。ありがとうございます」
逃げるように食器を片付けて立ち上がるった真緒の食べる量の少なさを見て心配そうな顔をする臣にふわりと笑って返す。真緒が今まで生きてくる上で身につけた全てを隠すための笑い方。辛くても苦しくても悲しくてもこうして笑えば皆、大丈夫だと思ってくれる。だから真緒はいつものようにふわりと笑う。
「じゃあ、行ってきますね」
「おう、気をつけてな。行ってらっしゃい」
臣の行ってらっしゃいをきっかけに朝食を食べていた面々が口々に行ってらっしゃい、と真緒に声をかける。ふわりと笑って行ってきます、と返して談話室を出る。1度だって言われたことのなかった行ってらっしゃいの言葉に、真緒は唇を噛み締めた。
2017/08/11 執筆