「最近、真緒ちゃんどうしたのかな…」
「朝も夜もあんまり食ってないみたいなんだよな…」
「帰ってくるのも最近遅いですよね…」
「学校でも元気ないみたいでした…」
あの日から真緒は朝早くに家を出て、夜皆が部屋に戻った頃に帰ってくるようになった。目に見えて様子が変わった真緒にいづみがぽつりと言葉を漏らす。
夕食の時間だったこともあり、臣や紬、咲也が心配の声を次々に漏らす。全員が少なからず寮内で真緒に会わなくなったことに気づいていて違和感を感じていた。
「いづみさん」
「真緒ちゃん!」
「私、やっぱり一人暮らしします。今までありがとうございました」
「え!?ちょ、ちょっと待って!出ていくってこと…?」
「すみません。公演楽曲はきちんと作ります。売上に貢献できないようなら今までの生活費と光熱費も後で支払います」
「真緒ちゃん、」
「荷物も業者さんにお願いするつもりなので、当日は少しうるさくなるかもしれないので宜しくお願いします」
「真緒ちゃん!」
「…なん、で…泣きそう、なんですか?」
「だって、真緒ちゃんが…!真緒ちゃんが泣きそうだから!」
「私、が?」
突然談話室に響いた真緒の声に全員が弾かれたように入口に目を向ける。駆け寄るいづみに反論の隙を与えない、と言わんばかりに言葉を投げる真緒にいづみが声を張り上げる。
いづみの目に浮かぶ涙を見て真緒の瞳が揺れる。震える唇から掠れた声が漏れる。いづみの言葉の意味が分からないのか戸惑う様に真緒の瞳が大きく揺れる。
「泣いてる?私が?そんなわけ…」
「泣いてるよ!助けて欲しいって、ほんとはそう思ってるんでしょ…?」
「な、…が…る、の」
「え…?」
「何が、何がわかるの!?アンタに、アンタに何がわかるの!?」
「真緒ちゃ…」
「私は!!泣いてないし!!助けて欲しいなんて思ってない!!何も知らないのに、勝手な事言わないで!!」
「真緒ちゃん!」
「カントクさん、ストップ」
キッといづみを睨みつけて声を張り上げた真緒に全員が目を大きく見開いた。真緒が声を張り上げたことなんて、寮に来てからただの一度もなかったから。踵を返して談話室を飛び出した真緒を追いかけようとしたいづみを至が止めた。
「こんな時間にカントクさん一人で外に出せないでしょ」
「俺らが探してくるから、カントクちゃんはここで待ってな」
「はぁ…何でアンタが泣きそうなのさ。ちょっとは落ち着け」
至、そして万里の言葉に他の面々も立ち上がる。ぺたりと座り込んで今にも泣きそうな顔をするいづみを幸がソファに座らせた。
2017/08/11 執筆