純粋で真っ白だったころ

4階から入手してきた紙を見せた時の今吉さんの顔を私は一生忘れない自信がある。あんなに悪人面が似合う人っているんだと思ったし、隣を見たら花宮も心底嫌そうな顔で今吉さんを見ていた。いや、あんたもさっきまで似たような顔してたけどね。

今まで見つけてきた紙を床に並べて1つずつ紐解いていく。明確に答えが書かれている訳ではないけれどここまでヒントが揃っていれば答えが書かれているも同然だ。全員の注目が集まる中、口火を切ったのは赤司だった。

「皆さん、集まってもらって良いですか」
「ようやく答え合わせっスか?」
「いやあ、長かったねえ」
「ま、何となく分かってるけどねん」

大半が神妙な面持ちで集まる中、高尾と原だけは露骨に楽しそうにしている。あからさまではないもののウチの連中も楽しそうにしていて口角が緩む。やっぱりこういう瞬間が楽しいのよね、分かる。

今まで入手してきた白い紙は全部で13枚。まずは、初めに見つかった白い紙。

『やっと見つけた。可愛い可愛い僕のお姫様。あの頃と変わらない綺麗な顔と綺麗な声。でも一つだけ変わってしまった。あの頃の君は純粋で真っ白だったのに。今の君は真っ黒になってしまった。』

この文章の中に出てくるお姫様は気持ちが悪いが、私のことだ。この文章を書いている人が誰なのかは分からないが、書いている内容から察するに昔の私を知っている人だろう。

「純粋で真っ白だったころの葉月?待ってちょう面白いじゃん」
「今の葉月は真っ黒だってよ」

お腹を抱えてひいひい言いながら笑い転げる原とザキ、そして声を出さずにぷるぷる肩を震わせて笑っている古橋と瀬戸におい、と声を上げる。笑いすぎだ、と言いたいが正直これは当事者の私でも面白かった。確かに昔の私は今よりも純粋、というか子供の頃なんて皆そんなもんだろ。ある程度大きくなって色んなものを見て聞いて触れて成長するんだから、成長過程で触れてきたものが穢ければ黒くもなる。つーか、真っ黒の私と仲良くしてるお前らも大概真っ黒だからな。他人事だと思ってんなよ。

「そして、この紙は俺たちをこの世界に引き込んだ犯人の一人が書いたものです」
「ちょっと待ってください。それって、犯人は一人じゃないって事ですか?」
「ワシらの憶測やけどな、恐らく犯人は二人おる」

赤司の言葉に黒子が静かに手を上げる。分かりやすく言葉尻を強調した赤司が満足げに頷いて、今吉さんが言葉を続ける。私たちが犯人を二人だと思った理由は1階を探索した時に見つけた4枚の紙にある。

「1階で見つかった4つの紙を同一人物が書いてるとしたらおかしいのよ」
「おかしいって、どういう事だよ」
「見て分かんないの?どう考えても目的が違うでしょ」
「目的?」

私達、霧崎が気に入らない誠凛が突っ掛かってくることは予想していたけれど、引くほどウザい。文句を言う前に自分で考えろよ、と思うけれど他にも分かっていない人がいる以上は説明せざるを得ない。加えてゲームの理解が脱出の鍵としか言われていない以上は一人だけが理解していればいいのか全員がきちんと理解していないといけないのかが分からない。

『今日から新たな研究を始めた。大雑把に言うと人間の心理についての研究だ。ここに詳しく記すことはできないが、未だかつて誰も行ったことのない研究だ。必ず成功させてみせる。研究にあたって何人か知り合いに協力を頼んでみよう』

『今日病院で見かけた女の子に決めた。黒い髪に黒い瞳、鈴の音のような声と賢い頭。しかしあの子を研究に使うのは惜しい。どうしようか』

『また失敗。何度実験しても結果は同じ。やはり、この結果以外はあり得ないのか?いや、研究対象が悪いのだろうか。ならば対象を優れた者に縛れば良いのではないか。恐らくこの実験が最後になる。』

『邪魔だった周りの大人を消した。私の職業なら簡単な事だった。誰にも怪しまれずに人間をこの世から葬ることが出来る。あの子の心の傷につけ込んで私に全てを任せてくれるように仕向けよう。まだあの子は子供だから、私が守ってあげないと。』

読めば読むほど気持ちが悪い。本当に最初の段階から犯人は二人だと明言されていたも同然なのに後半になるまで確信が持てなかった。私達に犯人が二人いると言われてからこの文章を読んで気づいている人達が何人かいる中で気づけないバカ共が数人。キセキの世代って何なの?全員バカなの?まあキセキ以外にも分かってない連中いるんだけど。

「1枚目と3枚目、2枚目と4枚目を書いてる人が同一人物って言ったら分かる?」
「研究?の為に病院で見つけた女の子を選んだ、って事じゃないんスか?」
「ちげーよバァカ。目的が違うって何回も言ってんだろ」

分かんない!と子供のように声を上げる黄瀬にはあ、とため息をついて説明をする。分かりやすく1枚目と3枚目を書いた人をA、2枚目と4枚目を書いた人をBとしよう。どちらも研究を行っていることは確かだが、Aは研究目的の為に研究対象を探していて、Bは研究対象を病院で見つけた女の子に絞ってその子を自分の手中に収める為の方法を探している。つまり、研究の目的が異なっているのだ。研究が先に来ているのがAで、研究が後に来ているのがBとでも言えばいいだろうか。

「人間の心理について知りたいから色んな人の考えが知りたいなって思ってるAと、女の子をどうにかして自分の側に置きたいからどうしようかなって思ってるBって思って読んだらちょっとは分かるんじゃない?」

どこまで噛み砕いて説明すればいいんだと頭を抱えたくなりながら話をすれば先程よりも理解できるようになったようでなるほど、とほとんどの人が頷いていた。

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