お前ら全員そういう感じ?

「やっぱり、良くないなあ…君たちが、葉月を汚したんだ。僕の、綺麗で、真っ白だった、葉月を、お前たちが…」

目元を覆った男がぶつぶつと同じ言葉を紡ぐ。恨みや怒り、いつも向けられている視線が花宮達に向けられる。いつもと違うのは相手が狂った大人であること。自分の欲望の為に命を賭けるほどの男が、怒りに任せて手を出さないとは言い切れない。相手がいつものように高校生ならもっと煽っているだろうが、そういう訳にもいかないだろうなどと考えていた私がバカだった。

「いや普通にキモくね?」
「コイツ会った時からこんなんだったよな」
「俺達と会う前から性格良くはなかっただろ」
「まあ俺達と会う前からそこそこ性格悪くないとこうはならないよね」
「そもそも子供の頃の綺麗な、ってのも信用できねえだろ」
「あっれお前ら全員そういう感じ?」

私を指差してケラケラと笑う姿に思わずずっこけるかと思った。いや私にも純粋で可愛かった時くらいありますが?私を何だと思ってんだコイツら。私を美しく綺麗なものだと信じて疑っていない男の前で散々な物言いだ。なんかもう一周回って可哀想になってきた。誰にも同意されない上に命を賭けて手に入れようとしたものは既に無くなっていたのだから。

「…せ、」
「何?」
「ころせ、殺せ、コロセ殺せ!!!!!この、この害虫共を、今すぐ殺せ!!!!!姫華!!!!!」

髪の毛を掻き毟り、叫んだ男が血走った目で西条さんを見る。

「この際何でもいい!!!!!こんな害虫共でも、この世界じゃ役に立つ!!!!!この世界が負のエネルギーで埋まればこっちのもんだ!!!!!」
「せ、んせ…?」
「お前が!!!!!僕の言うことを聞く以外にできることなんてないんだよ!!!!!どうせ生き返ることなんてできないんだ!!!!!最後くらい誰かの役に立って死ねばいいだろう!!?!?」
「う、そ…嘘よ、先生はそんなこと言わないわ!!私を、大事って、大切って言ってた!!お願い先生、嘘って言ってよ、ねえ!!!」

男の言葉が信じられなかった西条さんが涙を流して男に縋りつく。その姿を悲痛な顔で見つめる他校の連中に心底吐き気がする。目の前で繰り広げられる茶番劇に自分が関わっているという事実が余計に吐き気を誘った。そもそも一度死んだ人間が生き返るなんて無理に決まっているのに。それを本気でできると思っていたバカ女も、それを使って人一人騙せると思っていたこの男もバカなんじゃないか。

「…いやもうほんとに、他所でやってくれる?そういうの」
「この状況でよくそんなこと言えるな、お前…!」
「はあ?何?皆して騙されてた姫ちゃん可哀想〜って?バッカみたい」

ハッ、と鼻で笑って腕を組めば他校連中、特に誠凛からの視線が突き刺さる。死にたいなら勝手に死ねばいいし、騙されたのは自分の責任。欲しいものがあるのに自分の力では無く、人の力を借りたのも間違いだ。そしてそれは西条さんだけに言えたセリフじゃない。この男にも一言一句違わない言葉をプレゼントしてあげたいくらいだ。そう言ってやれやれ、とわざとらしく肩を竦める。

そもそも相手や物事に期待をかけるからいけないんだ。期待をするから、そうじゃなかった時にそのギャップでショックを受けるんだ。自分でハードル上げといて思ったのと違ったからガッカリなんて、自分勝手にも程があるのにそういう奴らに限って自分のせいじゃなく人のせいにしたがる。誰かに期待をかけるくらいなら自分でどうにかしようとは思わないのかとため息が零れた。

「期待して、何が悪いんですか。誰かを信じたいと思う心が、そんなにいけないことですか?」
「うっわ。そういうのがキモいんだって。なんで分かんねーの?」
「キモいとかキモくないとかじゃねーだろ、こういうのは」
「別に悪いとは言ってねえだろ。あくまで一個人としてそう思うってだけの話なんだから」
「自分と異なる考えの人間にいちいち突っ掛かって疲れないのか?」

私の言葉に全員が口を噤む中、黒子と火神が突っ掛かってくる。原、ザキ、古橋が鼻で笑って挑発する姿を花宮がニヤニヤと楽しそうに見つめる。信じられないものを見るかのような目で私を見る男はきっと信じられないのだろう。自分の中の朝倉葉月と現実の朝倉葉月があまりにも違いすぎるから。勝手にいい子ちゃんのラベルを貼られて期待されていたのかと思うと鳥肌が立つ。

「僕は、誰かを信じる気持ちは持つべきものだと思ってます。だから、姫さんが自分の願いの為にあの男を頼ったことが不正解だとは思いません」
「悪いのはあの男を信じた姫じゃなくて、姫を騙したあの男だろ」
「っ、テツヤくん…!大我くん…!」
「厳しいことを言うかもしれませんが、どうしたって貴方はもう生きて帰れないんでしょう?」
「っ、わたし…」
「それなら、最後くらいは自分のしたいようにしたらいいじゃないですか」

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