正しい嘘の吐き方

原の自称元カノに街中で絡まれた葉月、一切揉めずに原だけを悪者にしてその場を終わらせたんだけどあまりにも華麗すぎて「どうやったの?」って元凶の原が聞くから教えてあげる。

「まず吐く嘘は一個」

例えば『原と二人でいた事実を疑われた』場合に吐く嘘は『二人きりではなかった』と言う部分。そこを間違えて「いや、原とは一緒にいなかったよ!」と言ってしまうと原と一緒にいた時の証拠が出てきた時に厳しくなる。

「普通じゃね?」
「普通だから難しいのよ」
「どゆこと?」
「普通のことだから意識しないのよ」

意識をしなければ出来ないことだけど、普通のことだと思い込んでいるが為に意識しないから当然出来ない。『原と二人きりではなかった』と答えることで二人きりでは無いけれど『原と出かけた事実はある』ことになって、それだけで嘘を吐く回数がぐっと減る。

例えば「一緒にいなかったよ!」と答えたとしても、原のスマホの中から一緒にいる時の写真が出てきたら?問い詰めてきた相手の友人のSNSに二人でいるところが映り込んでたら?相手は何らかの根拠を持って疑っている。つまり、相手は『原と二人きりだった瞬間がある』ことを知っているのだ。その状況で「一緒にいなかったよ!」などと答えるのは悪手以外のなにものでもない。

「一緒にはいた。でも、二人きりではない」と答えるだけでその先に想定される切り返しをぐっと減らすことが出来る。例えば相手が何らかの理由で原と二人きりでいる瞬間の写真を持ってたとする。「一緒にいなかった」と答えていた場合はこの時点で詰みだ。嘘がバレてめでたく問い詰められるということになる。

しかし、「二人きりではなかった」と答えていた場合はあくまでもその証拠は『二人で友人を待っている間に撮られたもの』であると誤魔化すことが出来る。つまりは逃げ道を用意しておくということ。

「嘘を誤魔化す為に嘘を重ねるからしんどくなんのよ」
「あーね?そういうこと?」
「会ってなかったって言えば、写真の証拠が出てきた時にそれを誤魔化す為にも嘘吐くでしょ。そうやって嘘の数が増えれば増えるだけ自分が吐いた嘘も忘れるし、いずれ矛盾が生じて嘘だってバレんのよ」

原と出かけたことは事実。でも他に友人がいた。その写真は原と二人でその友人を待っている時のもの。もちろんそれだけでではないが、そんな会話をして上手いことその場を切り抜けたのだ。

「いや〜さすがだわ」
「さすがだわ、じゃないのよ」
「で?どうやって俺を悪者にしたの?」
「は?この後友人が来る前にセフレから連絡来てドロップアウトされたって話したけど?」
「おま、ふざけんなよ」
「どっちがだよ。もちろん原と4番にターゲットが変わったから私としては万々歳です。ありがとうございまぁ〜す」
「ウゼー!まじでウゼー!」
「はいはいウザイウザイ。んじゃ後よろしく」
「やっぱお前最悪だわ」
「はは、知ってる」

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