デンプンの塊

原の兄二人揃って原のこと嫌いだから、街中でたまたま葉月と遊んでる原見つけて「は?アイツごときが何であんな可愛い女子連れて歩いてんだよ」ってムカついて絡みに行く。自分の目の前で原が如何にダメか、使えないか、自分たちが如何に優秀かを語る兄達に葉月がとびきり綺麗な笑顔を浮かべる。

その笑顔につられて兄達も笑顔になったものの「誰かを落とすことでしか自分をアピールできないなんて可哀想ですね」って言うから場が凍る。「私、こう見えても高校時代のほぼ全部を彼と過ごしてるんですけど…少なくとも今の貴方達よりは優秀でしたよ、彼」って微笑んで更に言葉を続ける。

「あと、その服も髪型も持ってる物も、全部センスなくて正直なとこ隣歩きたくないんですよね。それにさっきからアピールしてるのってお兄さん達自身のすごいとこじゃなくて、お兄さん達のお家のすごいとこですよね?さすがに親の威厳を借りてデカい顔するポンコツとは仲良くできないですよ〜」って。

あまりの言い様に兄達はぽかんだし、原は嬉しくて緩む口角が抑えられない。「え、ここまでボロクソ言われてまだ言われ足りないんです?もしかしてそういう趣味でした?えっ…すみません…もっと無理です…」って口元押さえて本気で引いた顔するから、ようやく兄達は我に返ってやんややんや騒ぐ。

どんどん酷くなっていく罵倒を黙って聞いて兄達が一頻り話し終えてから「あ、終わりました?じゃあ一緒に警察行きましょうか」って葉月が言うからその場の全員ぽかんとする。「は…?何で…」って言葉を失ってる兄たちに「え?当然じゃないですか。今日初めて会った人からこんなに罵倒されたんですよ?」

「名誉毀損で訴えない訳ないじゃないですか。言いがかりもいい所ですよね」って微笑んだ葉月のスマホからさっきの兄達の罵倒の音声が流れてきて兄達は顔面真っ青。「さて、ここでお兄さん達に質問です。この状況、回避するためにはどうするべきだと思います?」って言われたら当然頭下げるよね。

原はあんな情けない兄の姿見たことなかったからずっとぽかんとしてて兄達がいなくなってから葉月に「いつまでぼけっとしてんの。さっさと行くよ」って言われて堪らず抱きついて「俺、お前のことマジで好き」「はいはい、ありがと」「ね、マジだよ?」「知ってるっての」って笑い合うの素敵だね。

「人様の身内に言うのもあれだけどアンタのお兄さん大丈夫?」
「クソしょーもないっしょ」
「しょうもないっていうか…あれで生きていけるのかなって」
「ウケる。まあ親のスネかじってるし?」
「尚更じゃん。どうすんの、アンタの親が人様の恨み買って殺されでもしたら」
「え、嬉しい」
「そういうことじゃねーわ」
「だってあのクソ親がいなくなるだけじゃなくてクソ兄貴達もいなくなるんでしょ?最高じゃん」
「頼むから己の手だけは染めないでね」
「染めねーわ。アイツらごときの為に檻ン中入りたくねーし」
「まあそれもそうね。大丈夫よ、もしもの時は手貸してあげるから」
「まじ?え、なんで今日そんな優しいの。俺の事大好きなの?」
「はぁ〜すぐ調子乗んのマジでうぜ〜」
「うそうそ。ね、タピオカ奢ってあげる」
「いやお前こそ私のこと大好きじゃん。デンプンの塊よりもコーヒー買ってくんね」
「ねえタピオカのことデンプンの塊って言うのやめて」

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