happy?halloween

花宮真率いる霧崎第一高校は都内でも優秀な進学校だ。そして、それと同時に学校行事にも力を入れている学校でもある。適度な休息は学力向上に繋がる、という理事長の方針らしい。

「聞いた?今回の文化祭はハロウィンパーティーと合同らしいよ」
「は?」
「いやなんかね、ハロウィンパーティーしたいって声が多いから文化祭とハロウィンパーティーを10月に合同で行うんだって」
「それどこ情報だよ」
「生徒会情報だよん。内緒で教えて貰っちった」

ある日の部室。思い出したかのように原が口を開く。部誌を書いていた葉月が手を止めて顔を上げれば楽しそうに口元を緩めた原が説明する。山崎が呆れたように問えば待ってましたと言わんばかりに人差し指を立てて原は笑った。その仕草がやたらと似合っているのがムカついて葉月は小さく舌を打った。

「…まじだった。マジだった!」
「だから言ったじゃん。つーか、いつまで衣装握りしめてんの?早く着替えなよ」
「私に着替えさせたいならまずここから出ていけ」
「葉月だって俺らの着替え見てんじゃん」
「何?着替えていいなら着替えるけど?」
「え、着替えてくれんの?」
「行くぞ、原」
「いってぇ!?え、痛い、ちょ、古橋!?」
「セコムかよ」
「何か言ったか?ザキ」
「なんにも」

そして、来たるハロウィンパーティーの日。着々と進む準備と同時に仮装の提案が上がり、あれよあれよという間に決まってしまった。しかも、予算の関係で仮装をする人は推薦によって決定した10人。つまり、学校の看板となるべき人が着る、という訳だ。勿論、人気のバスケ部レギュラー陣は女子の票数を総なめにして全員当選。葉月も男子の票の多くを獲得し、無事当選した。

嘘だろふざけんなと騒いでいた葉月と花宮に対し、ノリノリな原と古橋と山崎。瀬戸に関しては興味なしときた。誰が何の仮装をするかはくじ引きによって決定されたのだが、思っていたよりもどハマりな仮装に葉月はヤラセなんじゃないかと首を傾げた。部室で自身の衣装を持ってため息をつく葉月に原がケラケラと笑う。原の挑発とは言い難い程度の安い挑発にわざと乗っかった葉月が制服のボタンに手をかけると今まで大人しくしていた古橋が原の首根っこを引っ掴んだ。

「着替えたー?」
「…いや、うん。終わったんだけど…」
「開けるよ?」
「あ、ちょっ…!」
「おー、いいじゃん。どっかの国の悪い魔女って感じ」
「悪い魔女かよ。てか、スカート短すぎない!?」
「まあ、普通でしょ。似合ってるしいいんじゃない?」
「ああ。よく似合ってると思うぞ」

真っ先に着替えさせられた葉月の衣装は魔女。真っ黒な魔女の衣装は色白な葉月によく似合っており、唇を彩る真っ赤な口紅がアクセントになっていた。ミニスカートにハイソックス、そして少し高めのヒールがついた黒いショートブーツ。少し頬を染めて固まる山崎に対し、興味のなさげな花宮。原、瀬戸、古橋の言葉にううん、と声を漏らす葉月は今すぐにでも脱ぎたい、と言わんばかりの顔をしている。

「俺らも着替えよ!なんかちょっと楽しくなってきちゃった」
「本格的な仮装とか普段できねえもんな」

一人仮装をしているだけで一気にハロウィン感が増した部室内で原と山崎のテンションが上がる。楽しそうに自分に割り当てられた衣装を引っ張り出す二人に倣って他の三人も衣装を引っ張り出す。

「…すっごいムカつくね」
「あ?」
「お花さぁ、色白すぎじゃない?」
「それ。私も思った」
「病弱なミイラ男…」
「病弱だからミイラなの?」
「病弱と包帯関係ある?」
「病弱病弱うるっせえんだよ」

花宮の衣装を見てボソリ、葉月が言葉を漏らす。ただでさえ着たくもない衣装を着せられてハロウィンパーティーなんていうふざけた行事に参加させられて機嫌の悪い花宮が葉月の言葉に反応する。花宮はミイラ男の仮装をしており、上半身と頭部に包帯を乱雑に巻きカーキのパンツと黒いブーツを身に付けている。

「ちな、俺は黒猫ちゃんだよん」
「はいはい、あざといあざとい」
「可愛いっしょ?ほら、しっぽ」
「はいはい、可愛い可愛い」
「葉月の仮装と相性ピッタリじゃん」
「そうね」
「反応薄くね?くそウケるんだけど」

頭につけた黒い猫耳と猫の手をイメージした手袋、膝丈の黒いパンツに黒い尻尾、そして黒いショートブーツを身に付けた原は黒猫の仮装。全身真っ黒で耳と尻尾を付けた原は葉月とピッタリと言えばピッタリの格好だ。本人も気に入ってるようで語尾に「にゃ」を付けて話したりと楽しそうだ。

「古橋は…うん、なんか…」
「?なんだ?」
「すごいしっくりくるね」
「葉月も似合ってるぞ」
「あ、うん。ありがとう…」
「古橋古びた洋館とかにいそうだね」
「普通にドンピシャだろこれ」

前髪を流したいつもと違う髪型と白いワイシャツに黒いパンツ、黒い革靴と裏地が赤の黒いマントを身に付けた古橋は吸血鬼の仮装をしていた。光を宿していない目が吸血鬼の衣装と上手い具合にマッチしていてかなり似合っている。ツッコミどころが見つからず全員がしっくり来すぎだろ…と思ったとか思わなかったとか。

「瀬戸も似合うね。やっぱそういう格好はタッパある人に限るわ」
「そう?ありがと」
「誰見て言ってんだチビ」
「え?誰も花宮くんがチビなんて言ってませんけど?あ、自覚症状ある感じですか〜?」
「黙れよクソチビ」
「まーた始まった」

薄い緑のワイシャツに暗い緑のジャケットを肘の辺りまで捲り、黒いパンツに暗い緑のショートブーツを履き、髪をオールバックにした瀬戸はフランケンシュタインの仮装をしていた。身長の高い瀬戸だからこそしっくりくるフランケンシュタインの仮装に葉月がここぞとばかりに花宮に喧嘩をふっかける。

「ザキは可愛いな」
「は?」
「なんか狼ってか、犬」
「狼だよ!」
「確かに犬だね」
「犬だな」
「犬だね」
「犬だろ」
「狼!」

全員に犬の仮装と言われる山崎は狼男の仮装。薄茶色の耳とふわふわとした尻尾、白いワイシャツにカーキのモッズコートを羽織り、黒いパンツと黒いショートブーツを履いている。確かに狼男と言えば狼男だが、葉月達には犬にしか見えないようだった。

「ハロウィンパーティーって言っても別にいつもの文化祭でしょ」
「まあねん。ただ何人かが仮装してるってだけだよ」
「まあいつもより話しかけられるけどな」

全員が衣装に着替えて嫌がる葉月と花宮を引きずって校舎内を歩けば、向けられるのは普段なんて比にならないくらいの視線の数。写真を求める声が多くかけられ、普段優等生を演じる葉月と花宮、そして友人の多い原は逃げることが出来ずに何度も捕まっている。

「あの…!一緒に写真、いいですか…!」
「私?花宮くん達じゃなくて?」
「あの、朝倉さんと一緒に…」
「わー!嬉しい!ありがとー!」

「見ろよあの余所行きの顔」
「ああしてると普通に可愛いんだがな」
「普段柄悪すぎだもんね」
「葉月、こっち見てるぞ」
「超睨んでるじゃんウケる」

先程から葉月に声をかけてくるのが女子ばかりなのは葉月を守るように立つ平均身長180オーバーのガタイのいい奴らのせいだろう。だが、それも可愛い女の子は好きだと自分で明言している葉月からすれば幸せなことなのだろう。先程からニコニコして女子生徒からの申し出を受け入れている。

そんな葉月を見ながらボソボソと話す古橋と原に葉月が厳しい視線を向ければそれに気づいた古橋はやれやれと言った様子で肩を竦め、原はケラケラと葉月を指さして笑っている。山崎はと言えば自身に凭れかかる瀬戸を支えるのに必死なようで、それを見ている同級生に笑われている。

「ね、折角だし俺らでも写真撮ろーよ」
「めんどくせえ」
「まあまあそう言わないでさ!」
「さんせー。高値で売れそうだし」
「本気か?」
「冗談だから古橋その顔やめて」
「冗談に見えねえよ」
「てへっ」
「きめえ」
「あ?」

一通り文化祭を満喫し、部室に戻ってくると原がスマホを取り出して口元を緩める。間髪入れずに拒否の姿勢を示す花宮に対しニヤニヤと楽しそうに笑う葉月の発言に古橋が視線を向ける。山崎も隣で引いたような視線を向けていて、葉月が態とらしく笑って見せる。それを見た花宮が悪態を付き、葉月がそれに反発する。折角仮装をしているのにやっていることはまるでいつも通りで特別感なんてものはない。

「まあでも、いいんじゃない。1枚くらい」
「あれ瀬戸起きてたの?」
「あれだけうるさかったら起きるよ」
「確かに」
「お花ー早くー」
「チッ、1枚だけだぞ」
「やたー。じゃあ撮るよん」

ぎゃあぎゃあと騒がしい部室に瀬戸の冷静な声が響く。葉月がきょとんとした顔で瀬戸を見れば、瀬戸は欠伸をしながら返す。葉月によって更に機嫌が悪くなった花宮に原が絡めば至極面倒そうに舌打ちをして花宮が折れる。1回だけ、そう言って撮った写真で山崎だけが半目でもう1回、1回って言っただろ、なんてやり取りをするまでがお約束。

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