※いっそ死んでしまおうか(IF)

※完全にIFです。直接表現はないけど死ネタあり。
※ものすごく鬱展開。誰も幸せにならない。


合宿に向かう途中に起きた事故だった。バスが横転、谷底に落下しその時バスに乗っていた花宮、原、瀬戸、ザキが死んだ。奇跡的に助かったのは古橋と私の二人だけ。助かったとは言えども、古橋は意識不明。私も同様に意識不明ではあったものの事故から一ヶ月で目を覚ました。葬儀は既に終わっており、学校に行けば多くの人が泣いていた。

「朝倉、大丈夫か?」
「はい、大丈夫です。それより、バスケ部はどうなってますか?」
「しばらく活動停止にしてある。お前も少し休め」
「そうですか…。分かりました、ありがとうございます」

眉を下げて恐る恐る口を開く担任に笑顔で答えれば少しホッとしたように表情が緩む。監督だった花宮が死んでしまった上に雑務担当の私がいなかったんじゃ、当然だろう。いつも練習していた体育館は誰もいなくて、シンとしていた。部室に入ればふわりと香った汗の匂い。ああ、そう言えば合宿から帰ってきたら掃除するって言ってたっけ。

「…え、」

特に用事がある訳でもないしアイツらのロッカーの掃除でもしてやろうかと思い、花宮のロッカーの前に立って言葉を失った。花宮だけじゃない。古橋のロッカーだけを残して原のも、瀬戸のも、ザキのも、なくなっていたから。貼ってあった名前のテープは剥がされて中身は空っぽ。

「…そ、うだよね」

部室を出て、鍵を職員室に返し、靴を履き変えて外に出る。グラウンドから聞こえてくる野球部やサッカー部の声が耳に障る。うるさい、うるさい、うるさい!逃げるように病院に向かい、古橋が入院している病室の扉を開ける。未だ眠り続ける古橋はいつになったら起きるんだろうか。暫くぼうっとしながら隣に座っていた。気づけば面会時間は終わっていて、看護師さんに声をかけられて病院を出る。

それから1週間後、古橋が死んだと言われた。何度も手に触れて、何度も声をかけて、何度も、何度も願ったのに。

それから少しして学校は徐々に日常を取り戻し始めた。バスケ部は新しい監督が就任し、新しく霧崎第一高校バスケ部として活動を再開。もうラフプレーは見られなくなって、退屈だった。見ているのが辛いから辞めたい、とそう言えば同情するかのような悲しげな目で退部を認められた。アイツらがいるからやってたんだ。私が支えたかったアイツらがいないのなら、続ける理由なんてどこにもない。

アイツらが座っていたはずの席は気づけばなくなって、誰もアイツらの話をしなくなった。ほら、あんなに泣いてたくせに、どうせ皆、すぐ忘れるんだよ。笑って過ごしてる学校の奴らも、先生も、それに合わせて笑ってる自分も、皆、みんなみんな気に入らない。涙ひとつ流せない自分に嫌気がさす。なんだろう、信じたくないのかな。なんで、泣けないんだろ。

「ねえ、知ってる?バスケ部さ、田村が監督なんだって。あいつ体育の授業でしかバスケやった事ないって言ってたのにバスケ部の顧問するんだって。しかもレギュラーも二軍の下手くそばっかだよ。一回戦敗退確定じゃんね。部室も汚いし、花宮がいないからラフプレーもなくなっちゃったし。あ、そういえばこの間のテストね。花宮と瀬戸がいなくなったからさ、万年3位だった鈴木さんが1位だったよ。全然喜べてなかったけどね」

嫌がる花宮を無理やり捕まえて、皆で撮った写真を眺めながらベッドの上で独り言を零す。原なら「田村が顧問とか終わってるじゃん」って笑うんだろうな。ザキもレギュラーの名前聞いたらびっくりするよ。花宮なんてキレそうなメンバーだもん。瀬戸も「鈴木って誰だっけ」とか言うんだろうな。ほんと、他人に興味ないもんね。会いたい、な。

「あ、れ」

ぽたり。写真の上に落ちた雫に驚いた。頬に触れると冷たく濡れていて。アイツらが死んだと聞いた時ですら涙のひとつも流れなかったのに。ぼろぼろと堰を切ったように溢れる涙は拭っても拭ってもキリがなくて。ひとしきり泣いて、眠ったその日の夜は最悪だった。どれだけ走っても届かない場所で、アイツらが崩れてなくなる夢を見た。

学校に行ってもアイツらはどこにもいなくて。ふとした時にアイツらの姿を探してた。何を食べても、何を飲んでも、味がしなくて。どこに行っても、何をしてても、少しも楽しくなくて。私の生活がどれだけアイツらによって形を成していたかを思い知った。時間が経てば経つほど辛くなった。なんで、私だけ生き残ってしまったんだろう。

「もう、死んでもいいや」

死んだ人の分まで生きよう。そんな言葉がよく言われるけれど、私には重かったんだ。五人分の、それもあんな曲者の、アイツらの命を背負って生きてくなんてできない。きっとアイツらなら笑ってこう言うよ。「お前に背負われて生きるなんて御免だ」って。私だって、背負って生きるより、隣で、生きたかった。

〜〜〜

せーので、「という夢を見たんだ」って言ったら少し気が楽になります。夢オチでもいいです。この後夢主が飛び起きて「…なんつー夢だよ…」ってベッドの上で項垂れて、その日一日なんか嫌な気分でいつもより甘えたになってて皆が「なに?葉月どしたの?」「なんか今日変だぞ」「熱でもあるんじゃない?」「そうなのか?大丈夫か、葉月」「気色悪ぃ顔してんじゃねぇよブス」みたいな感じになってたらそれはそれで可愛いのでそれでもいいです。ただ、Twitterで心中するネタが出てきてちょっと盛り上がったので衝動的に書いちゃいました。こういう話!こういう話が好きなんです私は!シリアス万歳!綺麗な顔の子は泣かせたい!

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