告白と質問

「あの、朝倉さんって彼氏とかいるの…?」
「今はいないけど…どうしたの?」
「いや、何でもないよ!変なこと聞いちゃってごめんね」

そう言っていなくなったのは確か隣のクラスのサッカー部エースの男の子。クラスに来てまでそんなことを聞くなんて相当自分に自信があるんだろうなあと思いながらも笑顔で見送る。クラスの女子たちがきゃあきゃあ騒いで私の周りに集まってくる。絶対朝倉さんの事好きだよ、とか付き合うの?、とかそう言うセリフが飛び交う教室内でため息をつきたい気持ちを押し殺して笑顔を作る。

「俺と付き合ってくれないかな」
「えっと、ごめんなさい。今は部活に集中したくて…」
「朝倉さんの部活の邪魔はしないし、絶対後悔させないよ」

そして、その日の放課後。案の定、今ちょっといいかなと声をかけられ定番の中庭に立っている。向かいに立つ彼は降られるなんて微塵も思っていないのだろう。当然、と言わんばかりの顔で私を見る。断りの返事になおも食い下がる彼に無理だって言ってんだろさっさと引き下がれよクソが、と言いたい気持ちを抑えて申し訳なさげな表情を作る。

「好きになってくれたのは本当に嬉しいよ、ありがとう」
「だったら…!」
「でも、ごめんなさい」
「…そ、っか。ごめんね、時間取らせちゃって」
「私こそ、ありがとう。好きになってくれて」

最期にそういって微笑めば、彼は顔を赤くして引き下がっていく。今まで告白してきた人達は最初にごめんなさいと言えば引き下がるのに今回はごく稀にある面倒なタイプの人だったなあとため息をつく。重い足を動かして部室に足を進める。当然部活はもう始まる時間で、部室には誰もいない。ロッカーを開けて人数分のタオルをカゴに入れて体育館に向かう。重い扉を開けて中に入れば花宮の鋭い目がこちらを見る。

「文句はサッカー部のエースくんに言ってよ。私のせいじゃないから」
「何?葉月また告白されたの?」
「今回めっちゃ面倒なやつだった。すごい食い下がってくるんだもん」
「へえ〜、アイツそういうタイプだったんだ。好青年って女の子には人気らしいけどね〜」
「そういう奴ほどクズなんだって。ここにいい例があるじゃん」
「くそウケるんだけど。葉月と花宮の事じゃん」

ステージ前にタオルの入ったカゴを置き、ステージ前に同じように置かれているボトルの入ったカゴを持つ。そんな私のもとにケラケラ笑いながらやってきた原と話をしていれば花宮の怒声が飛んでくる。内容は言わずもがなさっさと仕事しろというお怒りの声だ。原にも練習に戻れと怒っている。二人で肩を竦めて仕事に戻る。暫くして休憩に入る部員たちにタオルとボトルを渡す。

「はい、」
「ああ、ありがとう」
「…何?」
「断ったんだろう」
「何を?」
「告白だ」
「断ったよ?何で?」
「いや、何でもない」

こちらに歩いてくる古橋にタオルとボトルを渡して他の人にも渡していればじっと見られているような気がして振り返る。こちらを見ている古橋と目が合って首を傾げれば、タオルで汗を拭いながら古橋が口を開く。古橋にしては珍しい質問に驚きながらも返事をすれば満足そうな顔でコートに戻っていく。質問の意味も何故その質問をしたのかも皆目見当がつかない。隣で原とザキがニヤニヤしているのが無性にイラついて落ちていたボールを投げつけた。

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