てめーの尻はてめーで拭え

※やっぱり原がクズ

電話をかけた私のタイミングが悪かったのもある。が、それ以前にセフレとヤッてる最中に私からの電話に出るかね?と思ってしまった私は果たして間違えているのだろうか。否、間違えていない。ダン、とジョッキをテーブルに置いてギロリと真正面に座るザキを睨む。

「怖ェぞ、顔」
「原に言って」
「で?電話出て終わりって訳じゃねーんだろ」

面倒臭そうな顔をしながら枝豆を摘んで話の先を促されるまま口を開く。

電話をかけたのは私の家に置きっぱなしになってるお前の私物が邪魔だから取りに来い、と伝える為だった。言ってしまえば別にその瞬間じゃなくても良かったのだが、後回しにするのも嫌ですぐに電話をかけた。何度目かのコール音の後にヘラヘラした原の声と、女の声。思わずスマホをぶん投げそうになった。

勿論初めは向こうの女も電話の相手に聞こえちゃうだの何だのと媚びるような声を上げていたが、如何せん私は女だしそういう趣味はねぇ。よって、そういうプレイに付き合わされて興奮なんて一ミリもしない。何なら殺意が湧く始末だ。

「あ、めんごめんご。なに〜?」
「こちとらお前のクソみたいなプレイに付き合ってる暇ねーんだよ!悪かったな!クソみたいなタイミングで電話かけて!」

苛立ちを隠しもせずにそう怒鳴って電話を切り、ベッドにスマホを乱暴にぶん投げた。それはもう思い切り。多分叩きつけた場所がベッドじゃなかったら私のスマホはもう見る影もなかっただろう。

「しかもその後アイツからお前のせいでセフレ一人減ったんだけど、って連絡来てさぁ…まあ、割と本気で死ねばいいのにって思った」
「アイツマジでクソじゃねぇか」
「だからそうだって言ってんじゃん」

大ジョッキで頼んだはずのビールはあっという間になくなって、私が食べたくて頼んだはずの枝豆はザキの腹に消えている。おい待て、お前食いすぎだよバカ。

近くを通り掛かった店員を呼び止めて、ビールと枝豆をもう一度頼む。話のネタになってる原本人が一番クズなのは間違いないが、ゲラゲラ笑いながらこの話を肴にして酒を飲んでるお前も大概だぞと思いながらため息を吐いた。

「お、原これから来るってよ」
「あ?来なくていいわ。帰れ、そして死ね」
「いやもう駅まで来てるってよ」
「来てる、じゃなくていた、の間違いでしょ」

ポロン、と軽い音を立てて鳴ったスマホの画面を私に見せてくるザキにチッと舌打ちをしながら届いたばかりの枝豆を食べる。絶対駅前のホテルにいたんだよ、アイツ。今着いた〜じゃなくて今いるから行くね〜だよ、どう考えても。

ビールをぐいっと流し込んで何か食べようとメニューを捲ったのと、ほぼ同じタイミングでふわりと香るくっさい香水。何度目か分からない舌打ちを零して後ろを振り返れば、ヘラヘラと笑いながら原が私の隣に腰掛ける。

「こっち来んな、臭い。帰れ」
「あ、やっぱ臭い?さっきまでヤッてた奴めっちゃ香水臭くてさぁ〜、萎えちゃったから金だけ置いてホテル出てきちゃった」
「来てる、じゃなくていた、で合ってたな」
「だから言ったじゃん」

すんすん、と自分の服の匂いを嗅いでケラケラと笑う原に怒りを通り越して最早呆れる。高校の時からクソだクソだとは思ってたけど、コイツほんとにクソだな。あとしれっとした顔で私のビール飲んでんじゃねぇよ。ほんとにふざけんなよ。隣で私が飲んでいたジョッキを傾ける原の後頭部を思い切り引っぱたいて、その手からジョッキを奪い取る。

「マジで臭い。早く帰って」
「無理〜。これから別のセフレと会う約束したから一時間くらい暇なんだよね」
「お前今セフレ何人いんの?」
「え、数えてないから知らな〜い」
「その匂い付けたまま他の女に会いに行くのマジでヤバいよ。頭から水かけたげよっか」

ぺちゃくちゃと話をしながら食べて飲んでを繰り返すのは高校時代から変わらないな、とぼんやり思う。高校卒業したらもう会うこともないだろうと思っていたけれど、そんな事は全く無くてかなりの頻度で会って飲んでいる。まあ原に関してはクズに拍車がかかって益々最低野郎になりつつあるけれど、それ以外は高校時代と何ら変わらない。言わないけれどこのダラダラしてる時間が何だかんだで心地良いと思っているのは事実だ。

「あ、そうそう。この間の電話のセフレさぁ、葉月のこと俺の本命だと思ってるらしくて絶対許さねーって周りに話してるらしいから後始末よろ〜」

…前言撤回しよう。やっぱりこの男だけは絡むとろくなことがない。というよりトラブルしか持ち込まない。そもそもお前の本命になった覚えはないし、そんな気味の悪いものこっちから願い下げだ。燃やしてしまえ、そんな肩書き。

高校の時から女絡みのトラブルに巻き込まれた回数は今まで数え切れないほどあるが、ここまでクソみたいな案件にまで巻き込まれるとは思ってなかった。つうか巻き込むなよ。巻き込まないように努力しろよ。マジで刺されろ。

道理で最近私の周りをちょろちょろする奴らがいると思っていたんだ。様子を伺うような視線だったり、知らないアカウントにSNSをフォローされたり。面倒だから全て無視していたけれど、それもこれも全部コイツのせいだった訳だ。

「OK分かった。アンタの所に戻るように仕向けてあげる」
「待って待って、マジごめんって。前々から切ろうと思ってたんだけどアイツめちゃくちゃ面倒で困ってたんだよ」
「知るか。クソみたいな女をひっかけたお前の責任だろ。なんで私がお前の尻拭いしなきゃいけないの」

お願い〜、と媚びるような声で私に擦り寄ってくる原の顔面を手のひらで押し返してビールを飲む。未だかつてこんなにも不味い酒の肴があっただろうかとため息を吐いた。

とは言ってもいつまでも私の周りをちょろちょろされるのは目障りだし面倒だから、どちらにせよ追い払おうとは思っていた。けれど、それが結果的に原を助ける結果に落ち着くのが心底気に入らない。迷惑料から諸々込で今日の会計と次の飲み会の時の会計は原に支払わせよう。

「はい、よろしくね」
「げ、マジ?うっわ、ここぞと言わんばかりに高いヤツ頼んでんじゃねーよバカザキ」
「は?お前の金なんだからいいだろ」
「お前の分は払わねーから」
「じゃあ私が頼むからザキ一緒に食べよ」
「最高かよ。後何食う?」
「2番目に高いヤツ」
「マジで最悪。ごめんってば」
「ごめんで済んだら色々いらないから」

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