仮面の下の本性にご注意を

※注意※マフィアパロの特殊設定。流血表現等々いろいろあります。

花宮は性格が悪い。そして、愉しい事が大好きだ。そのくせ自分はあまり動かない。他人を動かすのが上手いとも言うが、その辺りも含めてやっぱり性格が悪い。そんな花宮が今私の目の前でこれでもかと言うほどに眉間に皺を寄せている。

「…何でだよ他にもいるだろ」
「だぁから、今回のターゲットは男色家だっつってんでしょ。好みは色白黒髪の美人。ウチにいる色白黒髪はアンタだけ。ついでにまあまあ美人。はい決定。ウダウダ文句言わないでよめんどくさいわね」
「ぶっ飛ばすぞブス」

詳細は省くが、つまりはそういう事だ。どれだけ花宮が嫌だと言っても今回のターゲツトを仕留める為には花宮が潜入するしかない。考えるだけでも口角が上がってにやけてしまう。いやだって面白いでしょ。

猫かぶった花宮が男の下で儚い美少年を演じるなんて考えただけで半年は笑える。ちなみに今同じ部屋にいる原とザキはこれでもかってくらい笑ってる。かく言う私も正直今すぐにでも声を上げて笑いたい。

「それじゃ、美人度上げるためにお化粧しよっか。ふっ…くくっ…」
「後で覚えとけよ、テメェ」

文句を言う花宮に薄く化粧を施してスーツを着せる。スーツの下にはターゲットが少しでも油断するようにと口実を付けた原が持ってきた意味のわからないエロめの下着。

もう色々通り越してただただ面白い。もう腹筋割れるほど笑ってると思う。もう考えることを辞めたかのような悟った目で部屋を出ていった花宮の背中を見送って私達も同じように準備をする。

今回の作戦は至って単純。ターゲットの主催するパーティ会場へ潜入し、花宮がターゲットに接触。私たちは各々がターゲットの周辺人物へ接触しなるべくターゲットに接近する。ターゲットが花宮を気に入って上層階の部屋へと連れ込んだら後は簡単。ターゲットを殺して、ターゲットが持っているメモリーを奪う。

「ま、花宮の処女が奪われないように頑張ってもらって。後は臨機応変によろしく」
「ぶはっ、りょ〜かい。まあほんとに花宮が処女奪われたらそれはそれで面白いけど」
「その場合俺達も殺されそうだけど正直見てぇよな」
「そんなの許すわけないだろう。そうなる前に俺がその男を殺してやる」
「出たよ花宮過激派。今回そういうやつじゃないからね」

緊張感の欠片もないのはいつもの事。全員がタイミングをずらしてパーティ会場へと潜入し、ターゲットを確認してからは全員が笑いをこらえるのに必死だった。花宮がターゲットに気に入られたのは良かったが問題はその後だ。

明らかに下心しかないターゲットに執拗に触られて恥ずかしがる素振りを見せる花宮に何度笑いを吹き出しそうになったことか。もうそういう仕事したらいいんじゃない?なんて思いながら男に連れられて会場を出ていく花宮に一先ず第一作戦は成功。次の作戦に移るべく目の前でグラスを傾ける男へとふらりと寄りかかる。

「ちょっと酔っちゃったみたいで…どこか横になれる所、ありませんか?」
「それは…ある、けど…」

頬を赤く染めて潤んだ瞳で男を見上げる。男がぐっと生唾を飲み込んで、恐る恐る私の腰に手を回す。ターゲットの側近であるこの男に近付いて正解だった。思っていたよりもチョロい男はいとも簡単に私に心を許した。そっと男の服の裾を掴んで、上目遣いで男を見つめる。

「本当ですか?もし宜しければ、その…一緒に、ダメ…ですか?」
「それはそういう意味だって思っていい?」

私の腰に回った手に力が込められて男の目に欲が宿る。にんまりと上がりそうな口元を手で覆って、小さく頷けば男が私の耳元で小さく囁く。上層階にあるホテルへのお誘いに恥ずかしそうに男の胸元に顔を埋めればふわりと体が浮いて男が私を横抱きにする。

エレベーターに乗って、やってきた部屋のベッドの上に私を下ろしたと思ったらすぐに覆い被さってくる男に思わずため息が出そうになるのを堪えて小さく身じろぐ。

「まって、」
「どうしたの?」
「その、おふろ、はいりたくて…あせ、かいちゃったから…」

恥じらいながらそう告げると男は表情を緩めて私を浴室へと案内してくれた。シャワーを浴びるふりをして古橋達へと連絡をすればザキ以外は全員上層階に来ているらしい。

原に至ってはターゲットの部屋番号を確認して接触した女は処分済みだと笑っていた。原が聞き出した部屋番号は、古橋と瀬戸が接触した女から聞き出したターゲットの部屋番号と一致しており恐らくその部屋にいるのは確定。そして運のいいことにその部屋は私の部屋の隣だ。

軽く体を流してバスローブを羽織り、男の前に姿を現せば男がにこりと微笑んで私にグラスを差し出す。それを受け取ってソファへと腰かけ、男に視線を向ければ男が隣に腰かける。するりと私の足を撫でる男に凭れ掛かって目を閉じる。

「ねえ、貴方とずっと一緒にいた人は一緒じゃなくていいの?」
「ああ、あの人女の子には興味無いんだ」
「そうなの?じゃあ今頃あの男の子とお楽しみかな?」

クスクスと笑う私に、男は声を上げて笑う。そうしてペラペラと情報を話してくれる男のおかげで色んな事が分かった。そうなれば、もうこの男は用済みだ。

「そろそろ、いい?」
「まって、最後に一つだけお願いがあるの」
「なんだい?」
「今日の出来事を、誰にも話しちゃダメよ」
「どういう…」

戸惑う男にそっと口付けてにこりと微笑む。そして直後に膝から崩れ落ちた男が私の足元で悶え苦しむ。ビリビリと痺れるような感覚に舌打ちを零して解毒薬を口に含む。ある程度の耐性を持っている私ですらこの刺激だ。そういう物に耐性のない男からすれば数日まともには立てないだろう。

「な、にを…!」
「ごめんねぇ。貴方のご主人様の部屋の鍵、貰っていくね」

男の上着から隣の部屋のカードキーを拝借し、男の持っていた通信機器を全て破壊する。男の身に付けていたベルトで男の手首を縛り上げて床に転がしてバスローブを脱ぎ捨てる。元々来ていたドレスに着替えて髪の毛を束ね、男に背を向けた。

「それじゃあ、またね」

ぱたりと部屋の扉が閉まってオートロックで部屋の鍵が閉まる。起こさないでください、と書かれた札を部屋の扉に引っ掛けて隣の部屋の鍵を開ける。扉の隙間に鍵を挟んでほんの少しだけ扉が開いた状態に保つ。

足音を立てないように部屋の奥へと足を進めれば聞こえてくるのは花宮の焦った声と、男の愉しそうな声。様子を伺えば後ろ手に拘束された状態でベッドに転がされる花宮と、そんな花宮の上に跨る男の姿。もうその絵だけで面白い。とりあえずその瞬間を写真に収めてナイフを弄びながらゆっくりと近付き男の背後に立つ。それでも全く気付く気配の無い男に呆れながらも会話を聞いて今度こそ笑いは我慢できなかった。

「ちょっと待ってください…!」
「大丈夫だよ。すぐ気持ちよくなるから」
「んぶっふ」
「誰だ!どうやってここに…!」
「ごめ、ちょっと…ふっ、あっはははは!」
「笑ってる暇あんならさっさと仕留めろバァカ!!」

ゲラゲラと腹を抱えて笑う私と、真っ赤な顔で怒鳴り散らす男、そしてベッドの上で縛られて転がる花宮。多分アイツらが来ても笑い転げることは間違いないだろう。涙が出るほどに笑う私に対し、怒りに震えた男が懐から取り出したのは拳銃。向けられた銃口にニヤリと口角を上げて右手に持ったナイフをちらつかせる。震える銃口は男がそういった行為に慣れていないことを明確に示す。

「怖いなら辞めたら?」
「うるせぇぞ!!小娘がァ!!」
「あらあら口が悪いのね。大丈夫?そんなに怒ってたら周りが見えないわよ」
「あァ!?どういう…ぐぁっ…!」
「こういう意味だよ、バァカ」

肩を竦めてクスクスと笑う私に男は益々顔を赤くして声を荒らげるが、怒りでどうやら周りが見えていないらしい。分かりやすく縄を解いて自由になっている花宮は一ミリも視界に入っていないようで、拘束を解いた花宮がベッドサイドにあったガラス製の灰皿を振りかぶる。男の側頭部に振り下ろされた灰皿と、部屋に響いた鈍い音。呻き声を上げて倒れた男を、まるでゴミを見るような目で見下ろす花宮は未だかつて無いくらいに機嫌が悪かった。

「わぁ、乱暴〜」
「楽しんでんじゃねェよブス。さっさと仕留めろ」
「そうそう。それなんだけど、メモリーと同等に面白い情報をこの人が持ってるみたいでね?詳しくお話聞きたいなあって思って」
「チッ、この場で殺せねェのかよ。めんどくせェ」

痛みに呻いて床を転がる男を足蹴にしながら舌打ちをする花宮に小さく笑みを零して男の前にしゃがみ込む。先程までの威勢は何処へやら。迷子の子供のように視線を彷徨わせた男が縋るように花宮に手を伸ばす。

「な、何故だ…!あんなに、あんなに可愛らしく俺を求めてくれたのに…!」
「はは、僕が本当に貴方なんかを求めるとでも思っていたんですか?面白い人ですね」
「ん、な…っ、!?」
「そんな訳ねェだろバァカ!!俺は初めっからテメェに興味なんて一ミリもねぇんだよ!!ふはっ!この部屋についてすぐ殺されなかっただけ有難いと思えよ」
「あーらら、わっるい顔」

にこりと優しく笑みを浮かべて男の前に立ったと思えば、直後に男の顔面に思い切り蹴りを入れる花宮にふは、と笑ってしまう。多分今ので鼻折れただろうな、と思いながら部屋を見回す。男のものと思われるカバンを開けて中身を探れば出てくるのは薬と注射器。ほんっとどうしようもない男だな、と呆れていれば部屋の扉が開く音と笑い声が聞こえてくる。

「おっまた〜。あれ?もう終わっちゃった感じ?」
「げ、血出るようなやり方すんなっつったのにガッツリ出てんじゃねぇかふざけんなよ」
「思ったより平気…そうでもないな。大丈夫か、花宮」
「これで大丈夫そうに見えんならテメェの脳天ぶち抜くぞ」
「機嫌最悪じゃん。処女は無事?」
「そんなに死にてェなら今ここで殺してもいいんだぞ、健太郎」
「冗談だよ。怒んないでよ花宮」

揃ってやってきた原達が持ってきた睡眠薬で男を眠らせて、スーツケースに詰めて部屋を出る。得るべき情報は得た。ついでに今回得る予定じゃなかった情報も運良く手に入りそうで頬は緩む一方だ。あの程度の状況で怯えていた男に、これから降りかかる地獄を想像してくつりと鳴らした喉に花宮が怪訝な顔をした。

ALICE+