堕ちて 堕ちて 堕ちる

※事後表現あり。完全にIF。倫理観が欠けている。

酔っていたから仕方が無い。そう言ってしまえぼそれまでの話なのだが、如何せん相手が相手なだけに頭を抱えずにはいられなかった。よりにもよって、あの誠凛の伊月を酔った勢いで食ってしまったなんて笑い話以外の何物でもない。

すうすうと穏やかに寝息を立てる伊月の綺麗な黒髪は所々跳ねていて、白いシーツに横たわる体には洋服の類は纏われていない。ゴミ箱に乱雑に捨てられた避妊具と、下腹部に残る重たい感覚が昨晩の行為が間違いようのない事実だと突き付けてくる。ため息は零れるが、やってしまったものは仕方が無い。

この際難しいことを考えるのは辞めよう。別に気持ちよく無かったという訳では無いし、結果オーライだ。

ベッドを降り、冷蔵庫を開けてペットボトルの水を取り出す。ぱきりとキャップを開けて、冷たい水を流し込めばぼんやりしていた頭が少しクリアになる。ペットボトルをベッドサイドに置き、落ちていたバスローブを広いシャワールームへ足を向ける。寝落ちしてしまったせいで全身がべたべたして気持ちが悪い。

シャワーヘッドから降り注ぐ熱いお湯を頭から被り、ついでに顔を洗って歯を磨く。今日の朝食はどうしようか。コンビニに寄ってサンドイッチか菓子パンを買おうか。今の気分は米よりパンだ。濡れた体のままバスローブを羽織り、備え付けのタオルを一枚手に取り頭にかける。ぽたぽたと髪の毛の先から垂れる水がふわふわの白いタオルに吸い込まれて消えていく。

部屋に戻ればベッドで寝ていた伊月がうつ伏せになって枕に顔を埋めながら何やら唸っていて、朝弱いんだなあ、なんてぼんやりと思う。シャワーを浴びている間に常温に戻った水のペットボトルをベッドサイドから取り再び口に含む。

昨晩から放置していたスマホを開けば案の定原とザキからのメッセージが届いていた。内容を確認して適当に返信をして画面を閉じて顔を上げると、目を見開いて固まる伊月と目が合った。

「おはよ」
「あ、え……えっ、?」
「朝弱いんだ?」
「えっ、あ、まあ……?」
「水いる?はい、」
「あっ、え、ありがとう……?」
「間接キスだね」
「ぶっ、げほっげほっ」

ぱちぱちと瞬きを繰り返して何とか情報を整理しようとする伊月の方へと足を向け、ベッドに腰掛けて持っていたペットボトルを差し出す。戸惑いながらもそれを受け取り、何の疑問も持たずにそれを口に含んだ伊月にくつくつと笑いを噛み殺しながら指を差す。

昨晩に間接キスなんかよりももっと恥ずかしいことをしているだろうに、真っ赤な顔で水を吹き出して咳き込んだ伊月に我慢出来ずに声を上げて笑ってしまった。

「昨日はどーも」
「…えっ、と…その、これって、」
「覚えてない?」
「いや、覚えてる…けど、」
「けど?」
「いや、」

まさか、霧崎のマネージャーとこんなことになるなんて思ってなかったから。そう言って困ったように頬を掻いた伊月に堪らず声を上げて笑ってしまった。それもそのはず、昨晩の酔いに酔った私は近くを通りがかった伊月を半ば無理やりホテルへ連れ込みワンナイトをぶちかました。一歩間違えれば犯罪だ。

戸惑う伊月を気にも留めず、ホテルへ向かいベッドに伊月を押し倒す。顔を真っ赤にして慌てる伊月の首に唇を寄せて数度吸い付けばあっという間に静かになった。ぷるぷると震える姿が加虐心を煽ってぺろりと舌なめずりをすれば、伊月の喉がごくりと動いたのが分かった。

「どうする?帰る?」

この期に及んでなんて酷い質問だと、自分でも思った。しかし、このまま強引に進めてしまえば後から訴えられた時に私が困る。つまり合意の行為にしたいということ。するりと頬を撫でて微笑めば、伊月はごくりと喉を鳴らしてから首を横に振った。

待ってましたと言わんばかりに服を脱ぎ、慌てふためく伊月をあれよあれよと言う間に食い尽くした私は満足してベッドで爆睡。そんな私よりも先に力尽きていた伊月は半ば気絶するように眠りに付いていた。

「体、ダルいでしょ」
「…まあ…っていうか、それって本当は俺のセリフじゃない…?」
「私の体を気遣える程セックス上手くないでしょ」
「んなっ…、そんなド直球に…オブラートに包んでくれよ…」

けらけらと笑う私に絶対に視線を寄越さない伊月は顔を隠すようにして膝を抱えて蹲る。ぐぐっと背中を伸ばせばパキパキと背骨が音を鳴らす。ちらちらと視線を向けては逸らし、向けては逸らしを繰り返す伊月を見て閃いてしまった私は悪くない。と言うか、酔っていたあの時の私もこうなることを初めから想定していたのかもしれない。つくづく己の性根は腐っているようだ。

「ねえ、シラフでもう一回シよっか」
「は、ぁ…ッ!?」
「今度は伊月がリードしてよ」
「な、なに…言って、」
「ダメ?私なんてシャワー浴びて準備万端だよ?」

伊月だって、良かったでしょ?と伊月の手に自分の指を絡める。ぴくりと肩を揺らす姿にゆるりと口角が上がる。耳元でそっと名前を呼べば、ぐんっと腕を引かれてベッドに押し倒される。

己の欲望のままに噛み付いてくる拙いキスは昨晩の学習の成果だろう。バスローブの下に滑り込んできた手が遠慮がちに肌を撫でて、私が体を揺らせば揺らすほどその手付きが大胆になっていく。熱の篭ったギラギラした獣の色を宿す伊月の瞳に、ぞくりと体が震える。早く堕ちろと伸ばした手を、彼は迷う事無く掴んでしまった。

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