※『堕ちて 堕ちて 堕ちる』の続きみたいな。前の話を読んでもなくても読めます。前回同様に倫理観とか色んなものが欠けてる。ド直球表現あり。
「は?じゃあ何?誠凛の伊月とヤッたってこと?」
「え、何でそんなキレてんのキモ。ザキ醤油取って」
やたらとカラフルな缶チューハイを片手に何故かキレ気味に食いついてくる原に首を傾げる。ザキから醤油を受け取り小皿に入れ、先程冷蔵庫から出したパックの寿司に手を伸ばす。
今月何度目かも分からないザキの家での宅飲みで上がった話題は先日の私の奇行についてだ。酔っていたとは言えあの誠凛のメンバーに手を出したと聞いて、腹を抱えて笑ったザキに対して原は露骨に嫌そうな顔をした。
「俺とはヤらねーのに伊月とはヤんの?」
「何を張り合ってんだお前」
「いやそれとこれとは話がちげーだろ」
「一緒だっつーの」
苛立ちからか、いつもよりも酒を飲むペースが早い原を死んだ目で見つめながらきゅうりの浅漬けに箸を伸ばす。グラスに注いだ梅酒は先程買ってきたお高めの瓶の梅酒だ。
梅酒本来の旨味を味わうべく、当然ロックで飲んでいる。対してザキはローストビーフを缶ビールで流し込んでいる。お前ほんとにずっとビールだね。それ何杯目なの。ザキの手元からローストビーフを奪い取り、そのまま流れるようにビールも奪う。
「お前ナチュラルに持ってくの止めろ」
「え、美味くね?」
「だから食ってんだよ」
「私も次ビールにしよっかな」
「はぁ?お前ソレ飲み切るって言ってたろ。そんなビール買ってきてねぇよ」
「一本くらい行ける行ける」
「一本で済んだことねーだろウケる」
けらけらと笑いながらザキと酒を飲んでいれば斜め向かいに座っていたはずの原が隣に腰を下ろす。私の肩に額をぐりぐりと押し付けてくる原に面倒だなと思いながら視線を向けた瞬間だった。
伸びてきた手が後頭部に回ってがちりと歯が音を立てる。痛みで眉間にシワを寄せるが、直後流れ込んできたクソ甘い酒の香りに益々眉間にシワを寄せる羽目になった。
「んっ、ぅ…ッ、」
「アイツにもキスさせた訳?」
「は?だから何キレてん、ッ…はら、んぅっ…、」
揺れる前髪の隙間から怒りを孕んだ瞳が覗いて、乱暴に口内を暴れ回る舌に呼吸が苦しくなる。挙句の果てに喉元に添えられた手が気道を圧迫するものだから、あまりの苦しさに生理的な涙が零れる。いっそこのまま舌を噛みちぎってやろうかと拳を握りしめれば、ふわりと背後から回ってきた腕が私と原を引き剥がした。
「原、やり過ぎ」
「っ、げほっ…げほっ、けほっ」
「大丈夫か?ほら、水」
「けほっ、ごめ、ありがと」
「ムカつくのは分かるけどやり過ぎな。頭冷やせよ」
「…うっせーんだけど」
渡されたグラスに入った水を流し込み、呼吸を整える。呆れたような顔で原の頭をぐしゃぐしゃとかき混ぜるザキに、原は子供のように唇を尖らせて拗ねる。一体何が原の琴線に触れたのかは知らないが、生憎私には首絞めプレイの趣味は無い。ついでに原とセックスをする気もない。まあ出来るか出来ないかと言われれば出来るけれど、出来るだけでシたい訳では無い。
「一丁前にヤキモチ妬いてんじゃないわよ。バッカじゃないの」
「あ゛!?妬いてねーわバーカ」
「セックスしたんだからキスだってしたに決まってんでしょ」
「だから何でそれを伊月としてんだっつー話だろーが」
「たまたまそこに居たから食っただけだっつーの。アンタがその辺のバカ女捕まえてんのと大して変わんないでしょ」
「変わるだろ。俺はお前の知ってる奴に手出さねーし」
「いやそれやると面倒だからすんなって私が言ったからでしょ。ていうか伊月のこと知ってるだけで仲良くないでしょ」
やられたらやり返す、目には目を歯には歯を、売り言葉に買い言葉。というより幼稚園児の口喧嘩だ。バカって言った方がバカなんだよ、の喧嘩だ。死ぬほどしょうもないが如何せん我々は酔っぱらいである。
ぎゃんぎゃんと吠えながら水を飲むように酒を飲んでいる私達が酔っ払っていない訳が無い。それに気付いているからこそザキは何も言わずに自分のスマホで動画を見ている。いや、さすがにそこは止める素振りくらい見せてくれよ。
同じやり取りが何度も何度も続き、最早引き際も分からなくなっている。大袈裟にため息をつけば、原は益々嫌そうな顔をして何だよと舌を打つ。そんな原の腕を乱暴に引いて床に押し倒し、唇に噛み付いてやれば驚きで見開かれた腹の目がはっきりと見えた。
唾液を流し込むようにして深く、深く口付ければ対抗するように原の舌が口内を暴れ回る。先程とは明らかに違う、相手を堕とそうとする舌の動きに口角が上がる。暫くキスを繰り返してこくりと原の喉が上下したのを見届けて唇を離せば、つうっと銀色の糸が私達を結んでぷつりと切れた。
「どう?満足?」
「は?冗談だろ。ふつーに勃ったわ」
「ウケる。今日はヤんないから一人で抜いてくれる?」
「は!?お前マジで言ってんの!?」
「マジですけど?私は今日酒を飲みに来たのよ」
「あぁぁああ…マジでお前クソだわ…」
「どっちがだよ」
ギラギラと欲の宿った目を向けてくる原から両手を上げて距離を取れば、きょとりと目を瞬かせてから頭を抱えて床に蹲る。げらげらと笑い転げるザキの缶ビールと梅酒のグラスをトレードして温くなった缶ビールを一気に流し込む。
文句を言い続ける原を横目に立ち上がりキッチンの冷蔵庫から冷たい缶ビールを取り出して戻れば、何故かザキが原に技をかけられていて首を傾げる。絡まれないようにと少し離れた場所に腰を下ろしてプルタブに手をかける。
「何してんの?」
「ザキが笑ってんのムカつくから絞めてた」
「いやアレはお前が悪いだろ、い゛ッてェ!!」
「八つ当たりじゃんウケる」
「お前も悪ィんだから何とかしろコレ!!」
「はいはいイイコの一哉くんこっちおいで〜」
「あ?何それふざけてんの?」
「だからいってェって!!」
それから少しして漸く解放されたザキは、苛立たしげに戻ってきて自分の缶ビールが消えていることに声を荒らげた。いや遅いんだよな。ぶつぶつと文句を言いながら大人しく梅酒を飲んでいる姿に思わず声を上げて笑えば、笑うくらいなら返せよとザキに持っていた缶ビールを奪われる。ぎゃんぎゃんと騒ぎながら酒を飲み、そのまま三人で雑魚寝になったのは言うまでもない。