夏といえば1

これはまあ読まなくてもいい。2からが本番

〜〜〜

「プール?」
「そ!皆で行こうよ」
「ええ…めんどくさい…」
「花宮と同じ顔しないでよ」
「げえ…気持ち悪いこと言わないでよ」
「どんだけ花宮嫌いなの」
「嫌いというかあいつと同じ顔してるってことが気に食わない」
「俺のセリフだ、ブス」
「いっ、たあー!?は?なに、なんで殴られたの」

部活も終わり、今日の部誌を記入していると後ろで着替えていた原が背中にのしかかってくる。重い。後ろを振り向けば頭の後ろで手を組んでいる原がニヤニヤと笑いながら口を開く。プールなんて人が多いし、今年は水着買ってないし、普通にそこに行くまでがダルい。

面倒だと顔を歪めれば、私の頬をつつきながら原がさも愉快そうに笑う。くっそムカつく。あの花宮と同じとかやめて欲しい。私はそこまでクズじゃない。げえ、と舌を出して嫌そうに顔を歪めれば思い切り頭を叩かれる。隣を見れば眉間にシワを寄せた花宮が立っていて片手にはスコア記録用のバインダー。

「喋ってないでさっさと書け。俺が帰れねえんだよ」
「そんな事言うなら自分で書けばいいじゃん」
「文句言ってないでさっさと書け」
「横暴すぎありえない」

部室のベンチに座って足を組み、ふんぞり返る花宮を睨みつけて部誌を書き進める。そんな私の邪魔をするように原が再度背中にのしかかってくる。

「重いんだけど」
「プール行こうよ」
「水着ないから無理」
「俺もないから買いに行こ?」
「はぁ…人多いから嫌」
「大丈夫だって夏休みの平日なんてそんなに人いないよ」
「あのねえ…」
「ねえ、行こーよー」
「はあ…分かったから邪魔しないで」

私にいいよ、と言わせるためにウザ絡みをしていたのだとすぐに分かった。気づくのが少し遅れたとは言え、こいつのこんなアホな作戦にまんまと引っかかったことがムカつく。私がいいよと言った瞬間まだ部室にいた他のメンバーに行こう行こうと騒いでいた。

最後の一行を書いて、さっと全体に目を通す。誤字脱字や不備が無いことを確認して花宮に渡す。渡された部誌を花宮が確認して確認印を押す。後は、部室から全員が出たことを確認して鍵をかけるだけだ。花宮が監督になってから確実に私の仕事が増えた気がする。

「ザキまだ着替えてなかったの?」
「このバカが着替えさせてくれないんだよ」
「原、私が帰れないから止めて」
「まじ葉月と花宮そっくりすぎでしょ。同じこと言ってんじゃん」
「しね」
「まじウケる」
「ウケないから。ザキ、さっさと着替えて」
「おー、サンキュ」

鞄を持って帰ろうと立ち上がる。後ろを見ればとっくに着替え終わってスマホをいじる古橋とベンチで横になる瀬戸の姿。そして、何故かまだジャージ姿のザキ。首を傾げれば苛立たしげに原を指さす。原の手にはザキのワイシャツが握られていて、そりゃ着替えられないわ、とため息をつく。

「古橋、瀬戸起こして。帰るよ」
「…ああ」
「何やってんの?」
「クラゲを育ててるんだ」
「ああ、そう言えば始めたって言ってたね」
「可愛いぞ。葉月もやったらどうだ」
「いや、いいよ。それより、瀬戸起こしておいてね」
「わかった」

ザキが着替え始めたのを横目に、古橋に声をかける。すんなり起きてくれない瀬戸は早めに起こしておく方がいい為、一番近かった古橋に頼んだのだがスマホから中々目を離さない。不思議に思って首を傾げればドヤ顔でスマホの画面を見せてくる。

画面の中ではふよふよとクラゲが浮いていて、それを見て古橋が満足気な顔をしている。いつもいつも自分のやってるわけのわからないゲームを私にオススメしてくる古橋を軽くあしらって瀬戸を起こしてもらう。

「明日部活終わったら水着買いに行こうよ」
「分かった。分かったからのしかかるの止めて重いから」

クラスの子達から送られてくるお誘いのメッセージに丁重に断りの返事を送っていると、原が後ろからのしかかってくる。こうなった原は梃子でも動かないし、どこまでも限りなくウザい。こうなったらもうYESと言うのが一番手っ取り早くあしらえる。そんなこんなで何故かプールに行くことが決定してしまった。このメンバーでプールとか最早ネタでしかない気がするのは私だけだろうか。

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