もしもマネが縮んだら

まさか、こんな事になるなんて誰が予想しただろうか。先程までのシリアスな空気はどこに行ったのか。今なら何が起きても驚かない自信がある。日頃から表情はあまり変わらない方だが、今回ばかりは驚きを隠せない。とまあ、つらつらと色んなことを述べてみたがつまるところ、葉月が小さくなった。

「この世界なんでもありじゃん」
「や!さわらないで!」
「ほんとに小さくなってやがる…」
「もー!や!さわらないで!」

あぐらをかいて座る俺の足の上に座って俺の制服の裾を握りしめているのは紛れもなく葉月だ。ただしサイズはかなり小さい。小さくなった葉月の頬をつつく原とザキに首を振って怒る姿はぷんぷん、という効果音が付きそうだ。小さくなった理由は恐らく先ほどの探索に行った時に吸ったという謎のガスだろう。元に戻す手段が全くわからない以上どうにもできず体育館で待機しているのだ。

「おい、葉月」
「や!」
「まだ何も言ってねえだろ」
「うるしゃい!」
「こんのくそガキ…!」
「花宮、大人気ないぞ」
「と言うか絵面がやばいから今の葉月の前でその顔止めなよ」

恐らく何か気付いたことだったり、体の違和感を聞こうとしたのだろう花宮が俺の制服のネクタイで遊ぶ葉月に声をかける。花宮の顔を見た瞬間ふい、とそっぽを向く葉月に花宮が見るからに苛立ったような顔をした。思わず口を出したが、そう思っていたのは俺だけではなかったようで瀬戸も微妙な表情を浮かべていた。

「葉月、どっか痛いところとかない?」
「ないよ!げんき!」
「ちょっと変だなって思うところは?」
「んっとね、まゆげ!」
「「ぶはっ!」」
「うん。花宮じゃなくて、葉月の体で、ね?」
「わたしはへんじゃないよ?」

瀬戸が俺の真正面に座って葉月に視線を落とす。花宮が本来聞きたかったのだろう質問をすれば葉月が小さな手を握りしめて元気に答える。二つ目の質問に少し悩んだ後、花宮を指さして声高らかに発した言葉に原とザキが笑い死んだ。瀬戸も笑いを堪えながら再度質問すれば何故皆が笑っているのかわからない、といった様子で首を傾げていた。

「ねえねえ、こーじろー」
「どうした?」
「なんであのひとたちこっちみてるの?」
「何でだろうな」
「むー。あのめ、やだ!」
「目?」
「あのひとたちいやー」

俺の制服の裾を引っ張る葉月にどうした、と言えば不満そうに眉間にシワを寄せた葉月が他校の奴らを指さす。何となく、奴らがこっちを見ている理由は分かったが言ってもこの歳の子供には分からないだろうと思いとぼけてみせる。すると、葉月が小さな唇を尖らせて目が嫌だ、とはっきり言ったのだ。正直、驚いた。

確かに奴らの視線には興味や困惑などの様々な感情が入り混じっていて、珍しいものを遠巻きに見るかのような、そんな視線だった。それは俺だけじゃなくて花宮達も皆気づいていた。だが、まさか葉月もそれに気づくとは思っていなかった。やはり子供の感性は侮れないな、と思いながら葉月の小さな頭を撫でてやる。両手で口を覆ってくふふ、と笑う葉月に思わず手の動きが止まる。

「こーじろー?」
「すまない。何でもない」
「あー、古橋だけずりー。俺にも撫でさせてよ」
「や!」
「何でだよ」
「かずやいじわるだから!」
「えー?俺優しいよ?ほら、おいで」
「や。こーじろーがいい」
「振られたんだけどウケる」

キョトンとした顔でこっちを見る葉月の頭をもう一度撫でていれば横から原が手を伸ばしてくる。そんな原の手から逃げる葉月が不機嫌そうな顔で原を睨む。まあ、睨むと言っても全く怖くないどころかむしろ原の加虐心を煽っているようにも見える。

「止めとけって。本気で嫌がってんじゃねえか」
「えー、そんな事ないよねー?葉月ー?」
「かずやはいや!ざきのほうがまし!」
「マシって…素直に喜べねえんだけど」
「ぶはっ!良かったじゃん、ザキ!」

逃げる葉月とそれを追いかける原の絵面は正直やばいと思った。そして、そう思ったのは勿論俺だけじゃない。ザキが逃げる葉月を抱き上げて原から引き離す。だが、いくら子供でも葉月は葉月。口は達者だった。またしてもぷんぷんという表現がぴったりな怒り方をしながらザキに抱き抱えられている。

「ねえ、葉月。俺のこと好き?」
「ふつー!いじわるするときはきらい!」
「じゃあザキは?」
「ふつー!でもいじわるしないからかずやよりはすきだよ」
「じゃあ花宮は?」
「ふつー!あ、でもね!まゆげはいいとおもうよ!」
「ふっ…くくっ…。じゃあ、瀬戸は?」
「すき!けんたろーはおにーちゃんみたいだからすきー」
「即答じゃん。じゃあ、古橋は?」
「すきだよ!あのね、こーじろーね、すっごくやさしいの!」

何を思ったのか原がザキに抱えられる葉月に向かって質問し始める。好きかどうかを聞かれているのに好きかそうじゃないかの二択じゃなく、普通という選択肢が登場する辺りはさすが葉月、といった所だろうか。花宮の眉毛弄りは何歳になっても変わらないようで、案の定キレそうな花宮と爆笑する原とザキ、という見慣れた光景が見られた。

瀬戸と俺は小さい葉月の中では好感度が高いらしい。確かに体育館に戻ってきて話をしてから、瀬戸と俺の質問にはきちんと答えるし、懐いているように見える。だが、こうもまっすぐした目で好きだと伝えられるとむず痒いものがある。それは瀬戸も同じのようで頬をかいていた。かく言う俺も何となく葉月の顔を見れなくて小さな頭を撫でた。

〜〜〜

この後ちゃんと元に戻ります(笑)

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