夏といえば2

「じゃ、着替えたらここに集合ね〜」
「ん。りょーかい」

プール前で原達と分かれて更衣室に入る。結局約束をした日の次の日、水着を買いに行ったが花宮と瀬戸は興味ないと一刀両断。ザキは照れすぎて役に立たない。ノリノリで水着を選んでくれたのは古橋と原だけだ。

まあ原はネタとしか思えないようなド派手な物ばっかり持ってくるし、古橋はどう見ても私っぽくない可愛い系の物ばっかり持ってくるしで結局私一人で決めたんだけど。下がスカートタイプの黒のビキニは店員さんもイチオシで試着した私も気に入ったので、バカ二人をそっちのですぐに買ったものだ。

「はあ…こんなことならちゃんとダイエットしとけばよかった…」

鏡の前で髪を束ねて、ポニーテールにする。全身を見てため息をつくけど、今更何を言ってもしょうがない。覚悟を決めて更衣室を出て、初めに決めていた待ち合わせ場所に行けば案の定全員揃っていた。けれど、正直近づきたくないのが本音だ。何故かと言えば、周りの女性陣たちから向けられている熱烈な視線が恐ろしいから。

顔がまあ良くて、身長も高い五人が目立たないはずがない。…まあ、性格が超絶歪んでいるという事実を知らない女性陣にはドンマイ、としか言いようがないのだが。けれど、行きたくないからと言っていつまでもここにいる訳にも行かず、再度ため息をついて皆の元へ向かう。

「おまたせ」
「お、来た」
「…黒か」
「だから言ったじゃん。葉月が白はありえないよって」
「ねえ、それどういう意味?」
「葉月ほんと黒似合うよね」
「知ってる。だから選んだの」
「うわ、そういうとこさすがだよね」
「ありがと」
「褒めてねーよ」

近づいてきた私に片手をあげて返事をしたのはザキ。私をじっと見つめてポツリと呟く古橋の肩に腕を回しながら原がケラケラ笑う。ナチュラルに白が似合わないとディスられたことに首を傾げれば原がわざとらしく似合うね、と水着を指さす。話を逸らされたと気づいたけれど褒められていることに変わりはないからありがたく受け取る。

「思ったより人いないね」
「あ?多いだろ」
「予想より少ないって意味。ま、夏休みなんてこんなもんでしょ」
「とりあえず一番最初は流れるプールでしょ」
「その後はウォータースライダーな」
「私浮き輪に乗ってるから誰か引っ張って」
「泳がないのか?まあ、別にいいんだが」
「花宮、行く?俺飲み物買って適当なとこで寝るけど」
「いや、俺も休む。読みかけの本があんだよ」

やっぱり人は多いものの、予想してたよりもずっと少なかった。まあ、平日と言うこともあるのだろう。これが休日だったら死んでた。原とザキはがっつり遊びまくる気らしく意気揚々とプールに向かっていった。瀬戸と花宮はプールに入る気ゼロらしく、少し離れた場所にある休憩スペースに真っ直ぐ向かっていった。

まあ合流した時点で二人ともパーカーを着てたからプールに入る気は無いのだろうと思っていたが予想通りすぎた。花宮に至っては本まで持ってきてるしほんとに何しに来たんだこいつら。がっつり泳ぐ気はないけどプールに来たからには楽しみたい。貸出用の浮き輪を手に、古橋を連れて流れるプールに向かった原達を追いかけた。

「わ、落ちる落ちる」
「ちゃんと捕まってろよ」
「はーい。あ、ザキみっけ」
「よお。平和だな、お前ら」
「平和?ああ、原に沈められでもした?」
「絶対やるとは思ってたけどな。マジでやりやがった」
「それで、その当人はどこに行ったんだ」
「ナンパされてたから置いてきた」
「ぶはっ。ザキには声かけてこなかったの?」
「いや、かけられたけど逃げてきた。あんまタイプじゃねえし」
「ま、そうだろうね。あんたの好みの子って逆ナンするような子じゃないでしょ」

プールに入ってゆらゆらと流される。涼しくて気持ちいい。どん、と誰かが浮き輪にぶつかってバランスを崩して落ちそうになるけど何とか耐える。呆れたような顔の古橋に緩く返事をしていればザキが近づいてくる。ザキの指さす方向では女の子数人に声をかけられる原の姿。3人でゆらゆら流されながら話をしていれば、さっきまで女の子に声をかけられていた原が近づいてくる。

「さっきの女子達はどうしたんだ」
「ビッチ臭漂いすぎてて萎えちった」
「ほんとクズだなお前」
「ザキに言われたくないんだけど。俺のこと置いていきやがって」
「俺はああいうタイプ嫌いなんだよ」
「俺だって好きじゃないっつーの」
「ここにいる奴ら全員クズなんだからどんぐりの背比べじゃん、止めなよ」

四人でゆらゆら流されながらいつものように会話をする。プールに来ようがどこに行こうが通常運転でクズな会話しかできない私達はここまで来ると末期なんじゃないだろうか。今頃、休憩スペースにいるあいつらも声をかけられていることだろう。全部ガン無視で取り付く島もなく逆ナンした女子達は撃沈しているだろうが。

「そろそろご飯食べる?」
「もうそんな時間か」
「多分?お腹すいてきたからさ」
「そうだな。ついでに何か飲み物でも買うか」
「古橋奢って」
「ああ、分かった」
「古橋〜、俺も〜」
「自分で買え」
「じゃあザキ奢って〜」
「嫌に決まってんだろ自分で買え」

プールから出て、浮き輪をあった場所に戻す。花宮達がいるであろう休憩スペースに向けてぺたぺたとみんなで歩き始める。古橋にふざけて奢ってと言えばあっさりと了承の返事をするものだから一瞬戸惑った。まあ、考える間もなく了承してくれたということは本当にいいと思っていると受け取ってありがたく奢ってもらうことにする。

私の真似をして奢って、と言う原にはゴミを見るような目で拒否した古橋の温度差に思わず吹き出す。それでも懲りない原がザキに絡むけど、ザキもうんざりした顔で拒否していた。休憩スペースでは瀬戸が爆睡していて、その隣で花宮が本を読んでいる。いやほんとに何しに来たの?この人たち。

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