夏といえば3

ご飯も食べて、ゴミを捨てようと席を立つ。ザキと古橋は自分も行こうかと言ってくれたがそんなに量があるわけでもないしゴミ箱はすぐそこだから大丈夫、と断って歩き出す。ゴミをゴミ箱に捨てて、来た道を戻ろうとした瞬間だった。

「ねえねえ、君ひとり?」
「ひとりなら俺達と遊ばない?」
「…結構です」
「まあまあ、そう言わないでさ」
「えー、君超可愛いじゃん」
「離してください。連れが待ってるので」
「連れってオンナノコ?じゃあその子も一緒に遊ぼうよ」
「ま、男だとしても君みたいな可愛い人ほっとく奴だし?」

如何にも、な風貌の男二人が如何にも、なセリフで声をかけてくる。こういうのは相手にしないのが一番。素っ気なく返して脇を通り抜けようとするけど、腕を掴まれて引き寄せられる。肩に腕を回されて、顔が近づく。ああ、気持ち悪い。

「離してください」
「まあ、そう言わないでさ」
「俺達優しいから大丈夫だって」
「っ、離せって言ってんだろ」
「ってえな…何すんだよ」
「離せって言ってんのに離さないアンタが悪いでしょ。さっさとその汚い手離してくれる?」
「んだと…っ!この女…!」

態とらしく体をくっつけてみたり、顔を近づけてきたりする男達に段々イライラしてきて口調が荒くなる。肩に回っていた男の手を叩き落とすと、ぱちんと音がした。途端に目を吊り上げて憤怒の表情を見せる男達に内心でニヤリとほくそ笑む。このまま私を殴ったりして手を出してくれれば大事にしてこいつらの人生台無しにしてやれる。

そう思って態と煽れば、馬鹿な男達はすぐ乗っかってくる。振り上げられた男の右手が握りしめられているのが目に入って、これは殴られたら相当痛いだろうなと思いつつ反射的に目をつぶる。痛みに備えてぐっと歯を食いしばるけど、いつまで経っても痛みは襲ってこない。不思議に思って目を開けると、男の手をガッチリ掴むザキの背中が映る。

「な、んだよ!テメエ!」
「こっちのセリフだっつーの。俺らの連れに何か用かよ」
「連れって…」
「それと、いい加減その汚い手を離してもらおう」
「ってえ!チッ…連れって男かよ!」
「連れが女なんて一言も言ってないわよ。アンタ達が勝手に勘違いしただけでしょ」
「んだと、このクソ女!」
「はいはい、葉月も煽るの止めなって〜」

自分の拳がいとも簡単に止められたことに戸惑ったような表情を浮かべる男にザキが睨みをきかせる。突然の男の登場に戸惑う男達に追い打ちをかけるように古橋が私の左手を掴んでいた男の腕を捻りあげる。男達が私を恨めしそうに睨むけれど私は連れが女だなんて一言も言ってないし、コイツらに文句を言われる義理はない。

馬鹿じゃないの、と鼻で笑えば男達は顔を真っ赤にして怒鳴り散らす。口だけで手を出してこないのはザキと古橋に勝てる気がしないからなんだろう。勝ち誇ったように笑ってやろうとした瞬間ふわりと後ろから腕が回ってきて原に抱きすくめられる。離せ、と言えば怖い怖いと笑いながら離れるけれどさり気なく私を後ろに隠す。

「ああ、すみません。うちの連れが何か?」
「チッ…!んでもねぇよ!」
「行こうぜ…!」
「よくあの程度の顔でナンパしようとか思ったよね〜整形して出直せって感じ」
「それな。あの程度の顔でよく私に声かけれたなって感じ」
「自分で言うのかよ…。つーか、なんですぐ俺ら呼ばねえんだよ。危ねぇだろ」
「いやー、めんごめんご。まあすぐそこだし来てくれるかなって思ってさ」
「今の原みたいですげえムカついた」
「え、それは心外」
「ひどくね?ウケるんだけど」

トドメと言わんばかりに花宮が爽やか笑顔で瀬戸と一緒に歩み寄ってくる。平均身長180オーバーの強面五人に囲まれては怖いだろう。少し顔を青くして立ち去って行った男達を見送って原とザキと話をする。呆れたような顔をするザキは本当に心配していたようで頭をポンと撫でられた。普段はちょっと距離が近いだけでぎゃあぎゃあ騒ぐくせにこういうことはホイホイやっちゃうからザキなんだよね。

「葉月」
「あ、古橋もありがとね」
「ああ。それより、手を出せ」
「手?」
「赤くなってるだろう」
「ほんとだ…ま、これくらい何ともないよ」
「ちゃんと冷やしておけよ」
「プール入ったら冷えるかな?」

不意に古橋から声をかけられて、手を取られる。男に掴まれていた場所がうっすら赤くなっていて、その場所を古橋の指がするりと撫でる。珍しく眉を下げて分かりやすく表情が外に出ている古橋にプールを指さして笑えば古橋の表情が和らぐ。

「さーて、もう一遊びしますか。引きこもり二人も行くよ」
「ええ…俺も行くの…」
「たまには運動しないと太るよ」
「バスケしてんじゃん」
「それはそれ!これはこれ!何のためにプール来たのか分かんないじゃん」
「原に無理やり連れてこられただけなんだけどね」
「折角来たんだから遊ぼうよ」
「わかったわかった。行けばいいんでしょ」
「そうこなくっちゃ!花宮も当然行くよね?え?行くよね?」
「チッ…分かったからその顔やめろブス」
「誰がブスだ眉毛のくせに人のこと言える顔じゃないだろ」
「痴話喧嘩は他所でやってくれる〜?」
「「うるさい黙れ」」
「辛辣すぎでしょ」

全く遊ぶ気のない瀬戸と花宮を半ば引きずるようにしてプールに連れていき、ガッツリ遊び倒した。原の前髪をへたれさせようとザキが奮闘して返り討ちに合ってたり、原とザキが花宮に水ぶっかけて恐怖の鬼ごっこが開幕したり、浮き輪に乗ってぷかぷか浮いてる私を古橋が引っ張ってくれたり、そんな私の浮き輪に凭れて来た瀬戸のせいで浮き輪がひっくり返ったり。びっくりするくらい事件しか起きなかった波乱の一日だったけど、楽しかった、かな。

ALICE+