動物に好かれやすい人

「きゃあああ!名前ちゃんめっちゃ可愛いやん!」
「よかったね、名前。可愛いじゃん」
「あいがと!」


ぺたり。共有スペースの床に座る名前は八百万の創造によって作られた真っ白のワンピースに身を包んでいた。そんな名前を可愛い可愛いと褒める麗日と耳郎に名前が無邪気に笑う。瀬呂によって名前が小さくなった事を知った他のメンバーが続々と共有スペースに集まる。

急に人が増えたことで不安になったのか覚束無い足取りで名前が歩き出す。麗日のどうしたの?という問いかけには答えることなく一直線に八百万の元へと向かう。ソファに座っていた自身の足にしがみつく名前に八百万が首を傾げる。


「名前さん、どうしたのですか?」
「しらないひと、いっぱい…」
「確かに今の名前ちゃんにとっては怖いわね」
「ももちゃ、だっこ」
「まあ!もちろんですわ!」


不安げに揺れる瞳に、八百万の隣に座っていた蛙吹が口を開く。キョロキョロを辺りを見回したあと八百万に両手を伸ばした名前を八百万が嬉しそうに抱き上げる。八百万の首に手を回して肩に顔をうずめてうー、と小さく声を漏らす名前の背中を八百万が優しく撫でる。


「ごめんなさい、名前ちゃん。私は蛙吹梅雨よ。梅雨ちゃんと呼んで」
「つゆちゃん?」
「ええ、そうよ。宜しくね、名前ちゃん」


八百万にしがみつく名前に蛙吹が頭を撫でながら声をかける。ゆっくりと蛙吹を見た名前が蛙吹を見てふにゃりと笑う。それを皮切りに女子組が自己紹介を始めた。同じ性別ということもあってかすぐに仲良くなった様子で、先程まで不安に揺れていた瞳はなりを潜めていた。


「名前、お菓子食べる?」
「たべる!」
「じゃあ、取りに行こっか!」
「なんのおやつー?」
「名前は何が好き?」
「んっとね、ちょこ!」
「チョコ美味しいよね!ウチも好きだよー!」
「あとね、あとね、あめもすきー」


耳郎と芦戸に手を引かれてキッチンに向かう名前を皆がほのぼのした目で見つめる。そんな中、上鳴がポツリと言葉を発した。


「なんか、めっちゃ癒されるな」
「俺も思ってた。なんか、小動物みたいな…」


上鳴の言葉に賛同の声を上げたのは瀬呂だが、全員がうんうんと頷いている。話しかけたいのは山々だが、如何せんさっきまで泣きそうだった名前に自分達が声をかけて泣かれないかと、不安になっているのが男子組の本音だ。


「あれ?爆豪じゃん、ってシカトかよ!」
「あ、おい!今そっちは…」
「名前、走ると転ぶよ」
「はあーい!…ぁ、っ!」
「あ?んだこのガキ」
「ご、ごめしゃ…」


ふわふわとした空気が流れる共有スペースにやってきたのは相変わらず不機嫌そうな顔をした爆豪。切島が声をかけるが見向きもせずに真っ直ぐキッチンに向かう。爆豪の向かう先に気づいた上鳴が慌てて止めようと手を伸ばすが既に遅かったようで、気づいた時にはキッチンから飛び出してきた名前が爆豪とぶつかり尻餅を付いていた。

自分にぶつかってきた相手を睨みつけようとした爆豪だったが足元に転がる小さな影に思わず眉間にシワを寄せた。自分の顔を見た瞬間、うるうると涙を浮かべながら謝る名前を見た切島と上鳴が慌てて駆け寄る。切島は爆豪を名前から引き離し、上鳴は名前の前にしゃがみ込む。


「お前子供相手にそんな顔すんなよ。普通に怖えよ」
「あ?テメエに関係ねえだろ。つーか、このガキ何だよ邪魔くせえ」
「名字だよ!細胞後退の個性持った通り魔にやられたんだと」
「このチビがあのクソ女かよ」
「だからその顔止めろって!名字、泣きそうだろ!」
「俺には関係ねえ。退け」


爆豪の返事に切島がはあ、と大きくため息をついて後頭部に手を当てる。座り込む名前に見向きもしない爆豪は冷蔵庫を開け、中からペットボトルを取り出すと何事も無かったかのようにソファに座ってテレビを付けた。


「大丈夫か?」
「おにちゃ、おこってる…?」
「アイツはいっつもあんなんだから気にしなくてもダイジョーブ。な?」
「ちゃんと、ごめしゃいできなかった…」
「あー…じゃあ、俺も一緒に行くから。ごめんなさいしに行くか」
「おにいちゃん、いっしょにいってくれるの?」
「おう。ダメか?」
「だめ、じゃない…。あいがとう…」
「ちゃんとお礼言えて偉いなー」


ぺたりと座り込んでうるうると涙を浮かべる名前に上鳴がしゃがみ込んで声をかける。爆豪にぶつかったのは自分が耳郎に言われた事を守らずに走ったせいだと分かっているらしく、その上きちんと謝れなかったと言う名前に上鳴が少し考えた後、一緒に謝りに行こうと提案した。爆豪ならうるせえだとか何とか言って名前を盛大に泣かしかねない為、それを阻止したいと言うのが上鳴の本音だ。ぐすぐすと鼻を鳴らす名前の頭を一度撫でた後、手を繋いで歩き出す。


「おーい、爆豪ー」
「あ?」
「名字が謝りたいんだと。聞いてやって」
「あの、おにちゃ…ごめしゃい…。ぶつかって、ごめしゃい…」
「…チッ。別に怒ってねえわ。いつまでも泣いてんじゃねえよ、うるせえ」
「お前…子供相手に容赦なさすぎだろ…」
「もっと他に言い方あるだろ…」


上鳴に連れられて爆豪の元まで来た名前だったが爆豪を見た瞬間、ぽろぽろと涙が零れ始める。泣きながら謝る名前と、周りからのこれで許さない訳ないよなと言わんばかりの視線の重さがウザかったのか怒鳴ることなく爆豪が返事をする。が、言ってることは大していつもと変わっておらず、切島と上鳴が呆れたような視線を爆豪に向ける。名前はと言えば、きょとんとした顔で爆豪を見つめている。


「おにいちゃん、やさしいね!」
「あ''!?」
「あのね、なまえはね、なまえっていうの!おにいちゃんは?」
「…………爆豪勝己」
「かっちゃん!」
「ああ''!?」


一瞬、全員が泣くのか!?と身構えたがその予想を裏切って名前は顔を輝かせた。上鳴と繋いでいた手を離して爆豪に駆け寄ると、爆豪の正面に立って話を始める。両手を胸の前でぐーに握って、ぴょんぴょん飛び跳ねる名前にたっぷり時間をかけて爆豪が返事をする。爆豪の何を見てそう思ったのかは全く分からないが、名前は爆豪が気に入ったらしい。


「かっちゃんもおやつたべる?」
「いらねえ。勝手に食ってろ」
「きょーのおやつはましまろだよ!」
「そーかよ」
「かっちゃんにもはんぶんあげるー」
「だからいらねえっつの。あげんなら他の奴にあげろや」


ソファに座る爆豪の隣に座り、芦戸と耳郎からもらったマシュマロを頬張る名前に全員が驚きで目を丸くした。爆豪は全く名前を相手にしてないが、そもそも爆豪が隣に座った子供相手にきちんと会話をしていること自体が驚きのようだ。相手にされていないのにめげる気配のない名前も驚きの要因ではあるだろう。


「爆豪って意外と子供好き…?」
「ま、まあ…かっちゃんは何だかんだで根は優しいから…。昔からよく野良猫とかに好かれてたし…」


口元を引き攣らせる上鳴に緑谷が苦笑い気味に口を開く。暗に野良猫と小さくなった名前を同等に見ている、ともとれる発言だったが何となく納得してしまったのか緑谷の言葉を聞いた全員がそうなんだ…と言わんばかりの顔をしていた。


狂犬と子犬


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