眠り姫

「みんなこせーあっていーなあ…」
「そっか、まだ個性発現してないのか」
「なまえもね、かっこいいこせーほしーの」
「うんうん。大丈夫だよ〜きっとすんごい個性が名前ちゃんにもきっとできるから!」


少しして、自分の周りの人が皆個性を持っていることに気がついた名前が拗ねたように床にぺたりと座る。まるで、テディベアの様な座り方に小さく吹き出した面々もいた事はいたのだが、幸い名前には聞こえていないようだ。

ぶすっとした顔をする名前に麗日が頭を撫でながら口を開く。ヒーロー科にいる名前は良い意味でも悪い意味でも強力な個性を持っていることは周知の事実。今でこそまだ個性が発現していないから拗ねているが、大物になることは皆が分かっている。


「むー…ふしゅ」
「ぶはっ」
「もー!でんきくん!」
「ははっ、悪い悪い」
「びっくりするから、め!」
「ごめんって。ほら、飴あげるから」
「こんかいだけだからね!」
「ぶはっ!」


頬を膨らませる名前の後ろから、その頬を上鳴が人差し指でつつく。頬に入っていた空気が小さな唇からぷしゅ、と抜けて、名前が振り返る。さらに拗ねたような顔をする名前に上鳴がけらけら笑いながら謝り、飴を差し出すと迷うことなくその飴を受け取る。腰に手を当てて胸を張るその姿に再度上鳴が吹き出した。


「名前ちゃん。飴を食べるなら座って食べないと危ないわよ」
「あーい。でんきくんあいがとー」


蛙吹の言葉に名前が手を挙げて返事をする。ソファまで歩いてきた名前を切島が抱き上げてソファに座らせる。ご丁寧に棒付きのキャンディを口にくわえてふらふらと左右に揺れる名前の機嫌は良いようで、ふんふんと鼻歌まで歌っている。

少しして、飴を食べ終わったのか何もついていない棒を持ったままこくりこくりと船を漕ぎ始めた名前に全員の視線が向く。微笑ましげに眺める者もいればスマホで写真を取り出す者もいる。こくり、と一層大きく船を漕いだ瞬間ぐりと名前の体が前に倒れる。


「あ、っぶねえ…びっくりした…」
「ナイスキャッチね、切島ちゃん」


ソファから落ちそうになった名前をすんでのところで抱きとめた切島が焦ったような顔で名前を抱き上げる。近くにいた全員が危ないと思ったのか、全員腰を上げるなり手を伸ばすなり何かしら行動を起こす寸前だった。


「ぷひゅー…」
「なんだ、今の音」
「寝息、かと思いますが…」
「ぷぴー…」
「ちっちゃい子ってこんな感じなのか?」
「私の妹や弟が小さい時もこんな感じだったわ」
「ふしゅー…」
「めちゃめちゃ気持ちよさそうに寝てんな」
「切島くんずるい!ウチも抱っこしたい〜!」


名前の口から零れた不思議な寝息に切島が驚いたように顔をあげる。八百万が名前の頭をゆるりと撫でながらクスクス笑う。再度零れた不思議な寝息に上鳴が笑いを噛み殺しながら口を開く。蛙吹が上鳴の疑問の声に少し考えるような素振りの後、あっさり答える。

切島が座るソファの背もたれに腰掛けていた瀬呂が切島の腕の中で眠る名前の頬をつつきながら笑えば麗日がその隣でぴょんぴょん飛び跳ねる。そんな麗日に苦笑いを返しながらほとんど力の入っていない手に引っかかってるだけの飴の棒をゴミ箱に捨てて、ソファに名前の体を横たえた。


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