酸素はもうない

私が彼に攫われてから数日。

私が人を殺めてから数日。

私が感情を亡くした日から数日。

もう何も感じなかった。全部、全部、どうでもよくなった。あの日から彼は私の部屋に誰かを連れてきては殺させて、私の中にたまったエネルギーを別の誰かに与えさせた。それは男の人だったり、女の人だったり様々だった。もう何も考えられなかった。ただ機械的に言われたことをこなすだけ。

ヒーローは助けに来ない。もう、諦めた。だって、私がいなくなったことに気づく人間なんていないんだもの。明日から楽しい夏休み、そんな日の夜に私は攫われた。学校に来ない私を不審に思って通報する、なんてことは起こりえない。

私が家に帰ってこない事を不審に思って通報する、なんてことも起こりえない。だって、私には家族がいない。きっと彼は、全部、全部分かったうえで私をあのタイミングで攫ったんだ。私をここに監禁して、こうして誰かを殺させるために。

私がいる部屋の隣の部屋。彼がいつも出てくる部屋は最近とても賑やかになった。いつだって誰かの話し声がしていて、楽しそう。部屋の隅で膝を抱えて座り込んで、なに、してるんだろう。私。ぽろぽろと涙が零れるのはなんでだろう。寂しいから?辛いから?苦しいから?


「名字名前、仕事ですよ」
「…はい」


ぼうっと何もないところを見て考えていると私にいつも食事を運んでくれる黒い靄のような体の人が部屋に入ってくる。初めて、この部屋から出るように指示されてゆっくりと立ち上がる。ぺたりぺたり。地面と私の足が触れ合って音を立てる。扉をくぐるとオレンジ色の眩しい光が目を刺激する。

たくさんの人と、椅子に座らされて拘束された男の子。状況が読めずに立ち止まっていると彼の目と目が合う。そっと近づけば座るように指示されて、椅子ではなく床に座り込めば満足げに目が細められた。よく見れば、周りに立っている人たちは皆私がエネルギーを分けた人達だった。

分からない事しかないけれど、私が知る必要はない事だ。私は彼に言われたまま、言われたとおりに動けばいいのだから。だって、それが私の仕事で、私が生きるために、必要なことなのだから。


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