愛ならゴミ箱に捨てた

「おい!クソモブ女!」
「な、っ…!」
「てめえ…敵じゃねえんか」
「わ、たしが…?」


座り込む私から離れた場所で、オールマイトともう一人、誰かが立っていた。言葉は聞こえないけれど雰囲気は優しいものじゃなかった。ただ座り込むだけの私にさっきの男の子が声をかけてくる。

逃げるわけでもなければ、抵抗するわけでもなく、ただただぼうっとするだけの私に男の子は怪訝そうな顔をした。男の子の問いに私は、敵じゃない、と言えなかった。


「来い!」


自衛の術を持たない私を庇うように戦う男の子の背中を見つめていると突然の大きな音と共に氷の壁が現れる。全員がそれに気を取られて固まっていると頭上を誰かが横切る。


「チッ…!」
「は、っはなして!」
「うるせえ!黙って捕まってろクソが!」
「やだ…!降ろして…!」


苛立たし気に舌打ちをした後男の子は私を抱えて飛び上がった。こちらに手を伸ばしていた彼と目が合ってぞわりと鳥肌が立った。

自分が今一緒にいる人たちが誰なのか。なんで今私がここにいるのか。もう何も分からなかった。

なんで助けられたのか。これからどうなるのか。何一つ分からないまま、ただ流れるままに身を任せた。人通りの多い道に出て、皆が見ているスクリーンの向こう側で平和の象徴がいなくなった。

それをただ、何の感情もなく見つめて手をひかれるまま歩き出す。別の男の子と女の子と合流してまた、歩き出す。人通りの少ない道に差し掛かった時、ずっと私の手を引いていた男の子が立ち止まった。


「てめえ、なんであそこにいたんだ」
「つれて、いかれた、から」
「連れていかれたって、どういう…」
「まさか、死柄木に…!?」


なんで、あの場にいたのか。彼が私をあそこにつれていったから。

彼の名前は死柄木、というのか。私を見て彼らは驚いたように目を見開いた。


「てめえみたいなクソモブが、あんな場所で何してたんだよ」
「…人、殺したり、エネルギーを、誰かにあげたり…」
「なっ…!?」


男の子は淡々と私に質問をぶつける。私はそれにただ答えた。何も、思わなかった。

私を見て、ある程度の状況を察したのか全員が欠ける言葉を探しているみたいだった。


「誰も、たすけてくれなかった。しにたくなかった。だって、だから、ころしたのに、なんで…なんで私が悪いの…?なんで、なんで…ヒーローって、困ってる人を助けてくれるんじゃないの…?」


自分に言い聞かせるように口を開けば、もう止まらなかった。ただ、思うままに溢れる声が嫌に大きく聞こえる。涙が零れて、喉が、体が、指先が熱い。


「もう、どうしたらいいの…どうしたら、よかったの…あの時、死ねば、よかった…!」


ぶわりと体が熱くなって、触れている指先から男の子に熱が流れる。個性が、暴発したんだ。気づくのに時間はかからなかった。別に誰かに害があるわけじゃない。私の中のエネルギーが男の子に流れているだけ。


「おい…!クソ女!てめえなにしてやがる!」
「爆豪!?どうしたんだよ!」
「かっちゃん!?」


身体から力が抜けて、立っていられない。膝から崩れ落ちて、あの日と同じように視界がぼやける。息ができない。苦しい。誰か。

手を伸ばしかけて、止めた。だって、誰も助けてくれないことを、私は知ってるから。

目を閉じれば意識が闇に沈んで、体が冷たくなる感覚に体を預けた。


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