アイツが死んだ。そう連絡が来た時、嘘だと思った。だからそんなしょうもない連絡をしてきたザキにいつものようにヘラヘラ笑って返した。けれど、ザキの声は至って真剣でどこにも嘘はなかった。葬式でアイツの顔を見ても、眠ってるようにしか見えなかった。触れるとびっくりするくらい頬は冷たくて、ぞっとするくらい青かった。それでもアイツが死んだなんて信じられなくて、辛いよね悲しいよねと声をかけてくる女達が死ぬほど煩わしかった。
「最近女の子と遊びに行かないけどどしたの?改心したの?」
「別に。気分が乗らないだけ」
「何でもすぐ下ネタにしたがる下半身直結野郎の原がねぇ」
「なんなのお前?俺に喧嘩売ってんの?」
「ないない!冗談だって!」
ケラケラと笑う姿は生きてた時と何も変わらない。俺がどれだけ女子を食い漁っても、理不尽に捨ててもコイツだけは抱こうと思ったことがないし手放そうと思ったこともない。逆にコイツが俺から離れていくこともないし、何となく大人になってもずっと悪友として一緒にいるんだろうなって思ってたんだ。
「お前さ、ほんとに死んだの?」
「死んだよ?今更何言ってんのさ」
「ふうん」
「え、何そのリアクション」
分かってた。お前がもう、とっくに死んだってことも、もう二度と触れないことも。でも、心のどっかで死んでないよって言って欲しかったのかもしれない。あれ、俺ってこんなキャラだっけ。なーんか、コイツが死んで悲しいとか寂しいとか思っちゃってんのかな。もっと、こう、何だアイツ死んだんだくらいのリアクションになると思ってたんだけどな。
「あー…俺らしくねーなー…」
「は?何急に怖いんだけど」
「俺さ、お前らが死んだとしてもいつもみたいに笑ってられると思ってたんだよね」
でも、笑えないし泣けもしなかったわ。そう続けるとアイツは俺を見てキョトンとした顔をした後、ゲラゲラと声を上げて笑い始めた。ひいひい言いながら腹を抱えて笑い転げるアイツに今度は俺の方がぽかんとしてしまう。は?何こいつ何で笑ってんの。
「あっはは!ほんと、お前ら私のこと大好きすぎでしょ!」
「は?」
「あー面白い。いや私もね、皆の事だからいつもみたいに馬鹿じゃねぇのって笑ってくれると思ってたんだよ?」
なのに皆笑いもしないし泣きもしないからびっくりしちゃった!と言ってのけるコイツに一気に肩の力が抜けた。あーあ、こんなにいっぱい考えてたのも悩んでたのも全部バカバカしくなった。
「俺、お前のことめっちゃ好きだったよん」
「知ってる!」
にっと歯を見せて笑うアイツを見て、前にちょっとだけ付き合ってた女から言われたセリフを思い出した。「私よりあの子の方が大事なわけ!?」と言ったあの女子に何を言ってんだコイツは、と思ったけれど今なら分かる気がする。
「ねぇ、原。ありがとね」
「っ、」
アイツがそう言って笑った瞬間、ぞわりと背中が粟立った。二度と、会えなくなる予感がして手を伸ばす。触れたはずの指先はすり抜けた。
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